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ID番号 07858
事件名 損害賠償請求事件
いわゆる事件名 岩手じん肺訴訟
争点
事案概要  岩手県釜石市と遠野市の鉱山にさく岩夫としての作業に従事し、じん肺や騒音性難聴等を罹った作業員及びその遺族ら(Xら)が、鉱山を営むYに対して、安全配慮義務の不履行があったとしてXらが受けたじん肺、難聴等の健康被害の慰謝料を請求したケースで、Yは、下請会社の従業員であった者に対しても信義則上、安全配慮義務を負っていたものである等として、その請求の一部が認容された事例。
参照法条 民法415条
体系項目 労働契約(民事) / 労働契約上の権利義務 / 安全配慮(保護)義務・使用者の責任
裁判年月日 2001年3月30日
裁判所名 盛岡地
裁判形式 判決
事件番号 昭和62年 (ワ) 395 
昭和63年 (ワ) 90 
昭和63年 (ワ) 293 
平成1年 (ワ) 275 
平成2年 (ワ) 22 
裁判結果 一部認容、一部棄却(控訴)
出典 時報1776号112頁
審級関係
評釈論文 中災防安全衛生関係裁判例研究会・働く人の安全と健康3巻8号28~33頁2002年8月
判決理由 〔労働契約-労働契約上の権利義務-安全配慮(保護)義務・使用者の責任〕
 債務不履行責任の前提としての安全配慮業務は、ある法律関係に基づいて特別な社会的接触の関係に入った当事者間において、当該法律関係の当事者の一方又は双方が相手方に対して信義則上負う付随義務として一般的に認められるべきものである(最高裁判所昭和五〇年二月二五日第三小法廷判決・民集二九巻二号一四三頁参照)から、注文企業と請負業者との間の請負契約及び請負業者とその従業員との間の雇用契約等、複数の契約を媒介として間接的に成立した関係が、社会通念に照らし、注文企業と請負業者の従業員との間に事実上雇用契約関係に準じる関係があると評価される場合には、信義則上、注文企業も請負業者の従業員に対して安全配慮義務を負うと解するのが相当であり、同雇用契約関係に準じる関係にあるといえるか否かについては、請負業者の当該従業員が注文企業の実質的な支配従属関係の下にあったといえるか否かという観点から判断されるべきものと解するのが相当である。〔中略〕
 上記認定事実によれば、A組ことB、C組ことD、E工業ことF、G建設ことHは、いずれも、被告に対する実質的従属性の強い業者であり、亡Iら請負業者の従業員も被告から一定程度の指揮命令・監督を受ける関係にあったことが認められ、亡Iと被告との間には、社会通念に照らし、事実上雇用契約関係に準じる関係があったと評価するのが相当であるから、被告は、直接の雇用契約関係にない亡Iに対しても、信義則上、債務不履行責任の前提としての安全配慮義務を負っていたものというべきである。〔中略〕
 前記第二章に説示した各鉱業所における作業環境及び作業内容からみて、同各鉱業所において坑内作業等に従事した原告らは、いずれも相当程度の粉じんにばく露する環境下にあったものと認めるのが相当であるところ、粉じんによる被害が不可逆的かつ重大であることに鑑みれば、被告は、前記第三章に説示したとおり、債務不履行責任の前提としての安全配慮義務として、原告らに対し、粉じんの吸入によるじん肺に罹患させないようにするため、又は不幸にしてじん肺に罹患したときは、これを増悪させないようにするため、総合的なじん肺防止対策を実施すべき義務を負っていたと解するのが相当である。
 そして、上記第一、第二に説示したじん肺の病像等、社会的知見及び法令の規定等に照らせば、被告に要請されるじん肺防止対策としては、〔1〕作業環境の管理、〔1〕作業条件の管理及び〔3〕労働者の健康管理といった面から、それぞれ具体的な方策が講じられるべきであり、その具体的な方策としては、おおよそ以下のようなものを挙げることができ、これら各方策の実施状況を全体として見た場合に、総合的なじん肺防止対策として十分なものであったと認められる場合には、被告の原告らに対するじん肺に関する安全配慮義務は尽くされていたものと評価すべきであるが、これが十分なものであったと認められない場合には、被告の同義務は尽くされていないものと評価すべきである。