ID番号 | : | 07866 |
事件名 | : | 損害賠償請求控訴事件 |
いわゆる事件名 | : | 産業廃棄物処理業社事件 |
争点 | : | |
事案概要 | : | 平成九年一月当時、Y2会社に勤務し、B営業所で産業廃棄物の収集・運搬・分別等の作業に従事していたA(当時二三歳)が、同月二九日、廃棄物を収集した後、B営業所に立ち寄り、トラクターショベルを運転操作してバケットに廃材を乗せ、これをダンプ車に積み込む作業を行い、二度目の積み込み作業を終えた後、これを降りて休憩していたところ、トラクターショベルがゆっくり後退し始めたため、それを制止しようとして、これによじ登り後部に回りこんで燃料タンク付近に両手をかけたが、後退するトラクターショベルと駐車していた自動車に挟まれ、病院に搬送された後、死亡したケースで、Aの遺族であるX1、X2が、Y2会社及びY2の代表取締役Y1に対して、Aがトラクターショベル運転資格を有しないにもかかわらず、これを使って作業をすることを黙認していた等と主張して、安全配慮義務違反と不法行為を理由に損害賠償を請求したケースの控訴審で、Yらの責任を否定していた原判決を取り消した上で、請求が一部認容された事例。 |
参照法条 | : | 民法415条 民法709条 労働基準法2章 |
体系項目 | : | 労働契約(民事) / 労働契約上の権利義務 / 安全配慮(保護)義務・使用者の責任 |
裁判年月日 | : | 2001年7月31日 |
裁判所名 | : | 福岡高 |
裁判形式 | : | 判決 |
事件番号 | : | 平成11年 (ネ) 982 |
裁判結果 | : | 取消(確定) |
出典 | : | 時報1806号50頁 |
審級関係 | : | 一審/長崎地佐世保支/平11. 9.29/平成10年(ワ)235号 |
評釈論文 | : | |
判決理由 | : | 〔労働契約-労働契約上の権利義務-安全配慮(保護)義務・使用者の責任〕 本件トラクターショベルのような特殊な重機を運転することは、運転者及び第三者の身体に大きな危険を伴うものであり、また、その運転操作もその用途に照らしそれ相応に複雑であることが認められる。それ故このような特殊な重機の運転には、右危険性を十分認識して細心の注意を払う必要があり、また、相応の運転知識と技術が求められるというべきである。無資格の者の運転を禁止する労働安全衛生法六一条一、二項の注意は右の点にあるものということができる。そうであれば、仮にも運転知識と技術の未熟な者、とりわけ無資格の者がその運転、操作をすることがあれば、右の危険は一層大きなものとなることが明らかであるから、被控訴会社は、これらの者が運転、操作することのないよう実効的な方策を立てて、事故の発生を未然に防止するための安全上の配慮をすべき義務があるといわねばならない。 しかるに、前記のとおり、被控訴会社は、B営業所において、資格のないAら一部の従業員が本件トラクターショベルを運転しようと思えば運転できる状態を黙認していたとみられても止むを得ないのであって、その点において従業員らに対する安全配慮義務違反があるものというべきである。 もっとも、Aに重大な過失があり、それが直接の原因となって本件事故が発生したことは前記二2のとおりであるが、これもAが無資格者であったからこそ、咄嗟の場合における冷静な判断や合理的な対応をすることができず、前記認定のような危険極まりない振る舞いに及んだ結果であるということもできるのである。そうだとすれば、Aに重大な過失があるからといって、それ故に被控訴会社の安全配慮義務違反と本件事故との間の相当因果関係を否定し、さらには被控訴会社の右安全配慮義務違反の事実を否定したりするのは相当でないといわねばならない。 以上によれば、被控訴会社は本件事故について損害賠償責任を免れない。〔中略〕 被控訴人Y1は、その権限に基づき被控訴会社の事業全般につき実際かつ直接的に、専権的に指揮監督していたもので、もとより広田営業所における作業の方法や手順についても具体的に指示し得る立場にあったし、現にこれをしていたもので、一方、Aは従業員として被控訴人Y1の指揮監督に服すべき立場にあったということができる。そして、前記二2において説示したように、本件トラクターショベルの運転、操作はそれ自体運転者や第三者に危険を伴うものであってこれには有資格の者が携わるべきことが法令をもって定められていることに鑑みると、仮にもこれを無資格の者が運転、操作したときには、その未熟さ故に運転、操作に失敗して運転者や第三者の身体に危害を及ぼす事態の発生することが予測できるというべきところ、右説示の被控訴人Y1の被控訴会社における立場とその行動及び右のような本件トラクターショベルの危険性に照らすと、被控訴人Y1はB営業所において無資格の者が運転、操作すれば右のような事態が起り得ることを予測できたと認めるのが相当である(このことは、前記一3に認定したように、被控訴人Y1が「Aは短気で運転が荒っぽいので乗せるな」と他の従業員に言ったことによっても頷ける。)。そして、前記二3に認定したように、本件トラクターショベルが後退したのは、まさにAの運転技術の未熟さに由来する停止措置の不完全さにあったとみることができるのであり、さらに前記二2に認定説示したように、Aのこの事態への対応のまずさもその未熟さの表われであるともいえるのであって、このような事態は、無資格の者が運転、操作したときに起り得る危険のひとつで、被控訴人Y1が予測可能なものであったというべきである。 そうすると、被控訴人Y1は、その指揮監督権に基づき、Aら無資格の者が本件トラクターショベルを運転、操作することを厳禁しこれを徹底、実効あらしめるための具体的方策をとり、無資格のものが運転、操作することによって発生するかもしれない人身事故の発生を未然に防止すべき義務があるといって差し支えがない。しかるに、被控訴人Y1は、例えば具体的方策のひとつとして最も有効と考えられる本件トラクターショベルの鍵の管理を厳重にして無資格の者の運転、操作を不可能にするというような方策をとらず、むしろ右運転、操作を黙認していたとみられても止むを得ないような言動しかとらなかったことは、既に説示したとおりである。そうであれば、被控訴人Y1には右注意義務を怠った過失があると認めるのが相当である。 以上のとおり、被控訴人Y1の前記の注意義務の懈怠と本件事故との間には相当因果関係があると認めることができるから、被控訴人Y1は、本件事故につき過失に基づく不法行為責任を負うといわねばならない。 |