全 情 報

ID番号 07873
事件名 解雇無効確認等請求事件
いわゆる事件名 香川県丸亀市農協事件
争点
事案概要  農業協同組合の役員と労働組合との間で、在籍専従協定を締結する旨の覚書は取り交わされていたものの、農業協同組合理事会での正式な承認が得られないにもかかわらず、Xが、農協から五年間にわたり給与を得ていたことが、給与の支払を認めた農協参事らの背任的行為に加担したことになるとして懲戒解雇され、それが無効であり、また不当労働行為に当たるとして解雇無効確認等を求めたケースで、就業規則の懲戒事由があり、濫用にも当たらず、また不当労働行為にも当たらないとして棄却された事例。
参照法条 労働基準法89条9号
体系項目 懲戒・懲戒解雇 / 懲戒事由 / 業務命令拒否・違反
裁判年月日 2001年9月25日
裁判所名 高松地
裁判形式 判決
事件番号 平成12年 (ワ) 214 
裁判結果 棄却(控訴)
出典 労働判例823号56頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔懲戒・懲戒解雇-懲戒事由-業務命令拒否・違反〕
 丸亀農協において、在籍専従協定の締結は理事会で承認されるべき決議事項とされていたこと、在籍専従協定の締結について、平成6年4月1日より前に、丸亀農協理事会の議事で否決されていたこと、本件専従協定が締結された際に、丸亀農協理事会の議決があるまでは、本件専従協定締結の事実を公にしないとする合意文書が作成されていたことについては当事者間に争いがなく、本件専従協定を締結したAも、丸亀農協の代表者であるBに本件専従協定締結の権限がないことを知っていたと認められる。これらの事実からすると、本件専従協定が丸亀農協と丸亀労組との間で有効に成立しているとは認められない。〔中略〕
 原告は、平成6年4月1日以降は、専ら労働組合活動に従事し、丸亀農協の業務に従事していなかったことが認められる。そうだとすると、本件時間内合意は、従来の労使協定によって認められた時間内労働組合活動の範疇を大きく逸脱していることになり、実質的には丸亀労組に対し在籍専従を認めたのと同一の効果を与えるものになる。
 そうすると、本件時間内合意が締結される際には、在籍専従協定を締結する場合と同様に、当然理事会の承認決議が事前に要求されると解され、それがない以上、本件時間内合意は無効となる。〔中略〕
 一般に、懲戒権者が懲戒処分を行うときに、どの懲戒処分を選択するのが相当であるかを判断するに際しては、懲戒事由に該当する行為の原因、態様、結果等の諸般の事情を総合考慮した上で、企業秩序の維持確保の見地からなされるものであるから、解雇処分を含めていかなる懲戒処分を選択するかは、原則として、懲戒権者の裁量に委ねられる。
 そして、懲戒処分のうち、解雇処分は、雇用者としての地位を喪失させる重大な結果を招来するものであり、特に慎重な判断が求められるが、懲戒権者の裁量が、当該懲戒事由に比して著しく均衡を失し、社会通念に照らして合理性を欠くことが明らかな場合に、はじめて当該懲戒処分が解雇権の濫用として無効となると考えるべきである。
 (イ)本件では、上記(2)アのとおり、原告の行為は、B及びCによる5年以上の長期にわたる背任的行為に加担し、その結果、丸亀農協に3500万円を超える巨額の損害を生じさせ、また、丸亀農協の社会的信用を低下させたものである。
 (ウ)そうだとすると、原告の専従行為が労組間(ママ)で得られた成果の実践とみえなくもなく、丸亀労組の四役であったに過ぎない原告の懲戒解雇が、最も非難すべきC及びBの処遇に比して配慮に偏する感がないではないこと、本件専従期間中に丸亀労組から給与を返還する旨の申し入れがなされていたこと、本件解雇が原告の職場を奪い、同人の生活や将来に重大な影響を及ぼすものであることを考慮しても、原告に対して懲戒解雇を選択した丸亀農協の判断が、懲戒権者の裁量の範囲を超えた違法なものと解することはできない。