全 情 報

ID番号 07880
事件名 賃金請求事件(3914号)、賃金等請求事件(7876号)
いわゆる事件名 松山石油事件
争点
事案概要  ガソリンの販売等を業とするY会社にマネージャーとして採用され、給油ステーションに勤務していたX(その労働条件は、一日の拘束時間一一時間、実働一〇時間、一週一休であった)が、その労働条件は労働基準法違反であるとして労働基準監督署に調査依頼をしたところ、それにより監督者から是正勧告が行われ、労働時間等につき是正が行われたが、過去の時間外労働賃金等につき支払がなされず、マネージャーから一般職に降格され、賃金の減額を受け、管理職手当の支給を受けなくなったが、Yを退職後、未払の時間外割増賃金及び休日労働賃金、未払の賃金減額分、減額前の基本給に基づく会社都合退職金(嫌がらせによる退職)の支払、付加金の支払を求めた(甲事件)のに対して、Yが、Xに対する貸金債権の残額の返還と売掛金の代金相当額の支払を求めた(乙事件)ケースで、甲事件につきXの請求が一部認容され、乙事件につきYの請求が棄却された事例。
参照法条 労働基準法37条
労働基準法114条
労働基準法36条
体系項目 賃金(民事) / 割増賃金 / 違法な時間外労働と割増賃金
賃金(民事) / 割増賃金 / 割増賃金の算定基礎・各種手当
雑則(民事) / 附加金
労働時間(民事) / 労働時間の概念 / タイムカードと始終業時刻
裁判年月日 2001年10月19日
裁判所名 大阪地
裁判形式 判決
事件番号 平成12年 (ワ) 3914 
平成12年 (ワ) 7876 
裁判結果 一部認容、一部棄却(3914号)、棄却(7876号)(控訴)
出典 労働判例820号15頁
審級関係
評釈論文
判決理由  改訂前就業規則の給与規程には、マネージャーの時間外割増賃金及び休日労働賃金が定額支給である旨の記載はなく、特段マネージャーと一般職とを区別せずに時間外割増賃金及び休日労働賃金の計算方法を規程を設け(同規程第9条)、従業員の給与について各手当を明記している(同規程第2条)一方で、管理職手当の内訳についても何の記載もなく、また、定額支給とされる金額に該当する時間外労働時間及び休日労働時間が何時間なのか、またその時間を超えた場合に、時間外割増賃金及び休日労働賃金についてどのように扱うのか全く定めがないことが認められる。そして、原告本人尋問の結果及び被告代表者本人尋問の結果によれば、原告の採用時及び入社後、被告は、原告に対し、管理職手当及びその内容に関する説明をしておらず、原告の賃金額については、その金額をどちらから言い出したのかは明らかではないものの、支給賃金額が40万円と決まった後に基本給、手当の額が決まったこと、被告代表者は、マネージャーの賃金についてはある程度どんぶり勘定で決めることができると考えていたことが認められるのであり、以上の事実を総合すれば、原告と被告との間で、マネージャーの時間外割増賃金及び休日労働賃金を16万5000円の定額支給にするとの内容の労働契約が成立していたと認めることはできない。
〔労働時間-労働時間の概念-タイムカードと始終業時刻〕
 時間外労働時間の計算については、被告においては、就業規則において勤務時間に関する規程はあるものの、実際の労働時間は上記認定事実のとおりであるため、時間外労働時間については、法定労働時間8時間を所定労働時間としてこれを超える部分を時間外労働時間とし、また、上記認定事実(ママ)よれば、原告は出退勤の際にタイムカードに打刻していたこと、被告は、マネージャーについては労働時間を集計してはいなかったものの、タイムカードには目を通していたこと、一般職の従業員についてはタイムカードの管理をマネージャーが管理しており、これに基づいて労働時間が管理されていたことの各事情からすれば、原告の各労働日の労働時間(出勤時間及び退勤時間)については、タイムカード記載の出退勤時間をもってこれを認定するのが相当である。もっとも、タイムカード記載の出退勤時刻について、時刻の記載が手書きのものや空欄となっているものについては、出勤あるいは退勤時間が明らかではないから所定労働時間内(1日8時間)の勤務であった(ママ)いうべきである。〔中略〕
〔賃金-割増賃金-違法な時間外労働と割増賃金〕
〔賃金-割増賃金-割増賃金の算定基礎・各種手当〕
 割増賃金の基礎となる賃金について、管理職手当については、上記認定事実記載によれば、被告主張の内訳並びに時間外割増賃金及び休日労働賃金が含まれているこ(ママ)とはいえないから、その算定の基礎から控除される賃金は通勤手当のみとするのが相当である。
 そして、割増賃金は、原則として通常の労働時間とこれに対応する賃金額に基づいて1時間当たりの賃金額を算出し、これに一定の割合率を乗じて算出することになるが、被告における労働時間は、上記認定事実によれば、労基法に違反するから、労働時間が1日8時間を超える部分については労基法32条1項に違反するものとして無効であるが、原告の賃金については、これによって減額すべき事情はないから、原告の労働条件については、労働契約で定められた賃金をもとに、1日8時間労働として算定すべきである。〔中略〕
〔雑則-附加金〕
 労基法114条に定める付加金は、使用者に同法違反行為に対する制裁を課し、将来にわたって違法行為の発生を抑止するとともに、労働者の権利の保護を図る趣旨でもうけられたものであるところ、同条が付加金について裁判所が支払を命じることができると規定していることからすると、付加金の支払請求については、使用者による同法違反の程度や態様、労働者が受けた不利益の性質や内容、前記違反に至る経緯やその後の使用者の対応などの諸事情を考慮してその支払の可否及び金額を検討するのが妥当である。本件において、時間外割増賃金及び休日労働賃金については、長期にわたって未払の状態が続いていたものの、上記認定事実によれば、被告では労基法違反を認識しないまま被告内部においては手当の支給についてマネージャーと一般職とを区別して扱い、管理職手当については、一般職の手当と比べて高額な金額を設定(マネージャーの(ママ)については管理職手当の方が基本給よりはるかに高額である。)し、また、労基署の調査以降、就業規則を改定(ママ)して、時間外割増賃金及び休日労働賃金、さらには、管理職手当について明文化して、賃金体系を整えたとの事情もあるから、こうした点を考慮すれば、被告に対して、制裁として付加金の支払いを命じることは相当ではない。