ID番号 | : | 07882 |
事件名 | : | 賃金請求事件 |
いわゆる事件名 | : | カントラ事件 |
争点 | : | |
事案概要 | : | 一般区域貨物運送業を目的とする株式会社Yに運転者として職種限定で雇用された大型貨物自動車の運転手Xは慢性腎不全のため休職し、その後、復職を申し出たところ、Yからは、治療に専念すべきであるが経済面で問題があればアルバイトとして週に何回か勤務してはどうかと提案されたものの、これを拒否し、その後、改めてYから産業医による診断結果(運転業務は病状悪化や交通事故惹起の可能性があることを理由に長・近距離の貨物自動車運転業務への就労は業務不可能)に基づいて復職を認めない旨の文書を交付されたにもかかわらず、XはYに出勤したため、その後、組合を交えた交渉が行われるなどしていたが、結局、Xによる仮処分申立てに関してXとYとの間で和解が成立し、Xは右和解条項に基づき職務復帰したところ、XがYに対し、復職を求めたときから現実に復職するまでのYによる就労拒否は理由がなく不当であると主張して、その間の賃金及び賞与の支払を請求したケースで、使用者は、直ちに従前の業務に復帰できない場合でも、比較的短期で復帰することが可能である場合には、休職に至る事情、使用者の業務内容、労働者の配置などの実情から、短期間の復職準備期間の提供や教育的措置の実施などが信義則上求められるとしたうえで、本件において、YがXからの復職の申出があった時点で、右のような手段をとらずにXの就労の申出を拒むことは正当な理由があるとは言い難く、Yには、Xの復職が可能となり、その旨をXがYに対して求めたときから現実に復職するまでの賃金支払義務があるとして、請求が一部認容された(ただし、Xが求めたときに復職していたとしてもXは従事できたのは軽作業にすぎないとして、運転者としてYから支給されるべき手当及び実際に職務に従事することによって支払われる額が定める性質の手当については支払義務はないとされた)事例。 |
参照法条 | : | 労働基準法2章 労働基準法3章 労働基準法11条 |
体系項目 | : | 労働契約(民事) / 労働契約上の権利義務 / 債務の本旨に従った労務の提供 賃金(民事) / 賃金請求権の発生 / 就労拒否(業務命令拒否)と賃金請求権 休職 / 休職の終了・満了 |
裁判年月日 | : | 2001年11月9日 |
裁判所名 | : | 大阪地 |
裁判形式 | : | 判決 |
事件番号 | : | 平成12年 (ワ) 6601 |
裁判結果 | : | 一部認容、一部棄却(控訴) |
出典 | : | 労働判例824号70頁/労経速報1799号3頁 |
審級関係 | : | 控訴審/07978/大阪高/平14. 6.19/平成13年(ネ)3995号 |
評釈論文 | : | |
判決理由 | : | 〔労働契約-労働契約上の権利義務-債務の本旨に従った労務の提供〕 原告は運転者として職種を限定されて被告に雇用された者である。労働者がその職種を限定されて雇用された者の場合、その労働者がその業務を遂行することができなくなり、他に配置可能な部署ないし担当できる業務が存在しないときは、労働者が労働契約に基づく債務の本旨に従った履行の提供、すなわち、限定された職種の職務に応じた労務の提供をすることはできない。被告における運転者としての業務は、貨物自動車を運転して貨物を客先に搬送するとともに、客先にて積荷の積降ろし作業を行い、被告の各営業所に戻るという業務であり、運転業務、積降ろし業務のいずれをとっても肉体的疲労を多くともなく(ママ)作業が含まれており、また、長距離運転の場合や交通事情に(ママ)などによっては、相当の肉体疲労を伴うことが予想される業務内容である。したがって、少なくとも、ある程度の肉体労働に耐え得る体力ないし業務遂行力が必要であるから、これを欠いた状態では運転者としての業務をさせることはできないといわざるを得ない。〔中略〕 〔休職-休職の終了・満了〕 労働者が休職直後において従前の業務に復帰することができないとしても、労働者の基本的な労働能力に低下がなく、短期間に従前の業務に復帰可能な状態になり得る場合には、直ちに労働者が債務の本旨にしたがった履行の提供ができないということはできない。使用者は復職後の労働者に賃金を支払う以上、これに対応する労働の提供を要求できることは当然であるが、直ちに従前の業務に復帰ができない場合でも、比較的短期で復帰することが可能である場合には、休職に至る事情、使用者の業務内容、労働者の配置等の実情から、短期間の復帰準備期間を提供したり、教育的措置をとることなどが信義則上求められるというべきで、このような信義則上の手段をとらずに限定業務に就けないことをもって直ちに復職の申し出を拒むことはできないというべきである。したがって、このような信義則上の手段をとらずに、労働者の復職の可否を判断し、また、休職期間満了をもって直ちに退職扱いすることはできない。 〔賃金-賃金請求権の発生-就労拒否(業務命令拒否)と賃金請求権〕 このように、平成10年6月の時点では原告はその希望する従前の運転者の業務に復帰することは直ちにはできなかったが、遅くとも平成6年10月ころにはすでに腎疾患に罹患しながらその後2年間運転者として従事していたこと、被告では職種の変更も予定されていること、運転者の業務内容も画一的ではないこと、慢性腎不全という疾病の性質及び原告の本件疾病の進行状況からすれば、被告としては、原告に対し、平成10年6月に原告からの復帰の申し出があった時点において、原告の復帰の準備のための期間を提供したり、教育的措置をとるなどすべきであったというべきであり、その上で、原告が従前の業務への復帰が不可能であれば、原告は債務の本旨にしたがった履行ができないことになるし、運転者の職務に復帰できると判断されれば、復帰させればよいのであって、上記のような手段をとらずに原告の就労の申し出を拒むことは、正当な理由があると言い難い。〔中略〕 被告は、原告に対し、復職が可能となり、その旨を原告が被告に対して求めた平成10年6月16日からから(ママ)現実に復職するまで(平成12年1月末日)の賃金支払義務がある。 |