ID番号 | : | 07900 |
事件名 | : | 損害賠償等請求事件 |
いわゆる事件名 | : | 西日本旅客鉄道事件 |
争点 | : | |
事案概要 | : | 旅客鉄道事業等を営む株式会社Y2の工場で勤務し組合員であるXら二名(X1・X2)が、同工場の総務課長であるY1から違法な作業指示を受けたなどと主張して、(1)Y1・Y2に対し、不法行為(Y2については使用者責任ないしは、前記作業指示がY2による業務指示である場合には不法行為責任に基づき)による損害賠償権に基づく慰謝料等の支払を請求し、又(2)X1は温度計を持ち出したことを理由に訓告処分を受けたことにつき、これは処分としての相当性を欠くとして、同処分の無効確認を請求したケースで、(1)について、〔1〕炎天下で日除けのない白線枠内に立って、終日踏み切り横断者の指差確認状況を監視、注意する作業指示は、同工場で労災事故が多発し又京都支社の車両課長から厳重注意を受け特別な施策の実施を求められており、安全の確保という必要性が認められるが、その内容等照らせば労働者の健康に対する配慮に欠け、使用者の裁量権を逸脱する違法なものであったと言わざるを得ず、又〔2〕X1のY1に対する「あんた」発言を原因として嫌がるX1の腕を三回も引っ張って事務所へ連れて行こうとする行為は正当な業務指示とはいえず、違法であるとして、X1・X2の慰謝料請求が一部認容され(Y2も使用者責任を負う)、(2)については、X1の行為の態様等に鑑みれば、職務上の規律を乱した場合で懲戒を行うには至らないものに該当し、又処分として相当性を欠くものとはいえないとして、請求が棄却された事例。 |
参照法条 | : | 労働基準法2章 労働基準法89条9号 |
体系項目 | : | 労働契約(民事) / 労働契約上の権利義務 / 使用者に対する労災以外の損害賠償 労働契約(民事) / 労働契約上の権利義務 / 労働義務の内容 懲戒・懲戒解雇 / 懲戒事由 / 服務規律違反 |
裁判年月日 | : | 2001年12月26日 |
裁判所名 | : | 大阪地 |
裁判形式 | : | 判決 |
事件番号 | : | 平成12年 (ワ) 11854 |
裁判結果 | : | 一部認容、一部棄却(控訴) |
出典 | : | 労経速報1801号3頁/第一法規A |
審級関係 | : | |
評釈論文 | : | 小林徹也・労働法律旬報1530号42~45頁2002年6月25日 |
判決理由 | : | 〔労働契約-労働契約上の権利義務-労働義務の内容〕 本件作業は、最高気温が摂氏三四度から三七度という真夏の炎天下で、日除けのない約一メートル四方の白線枠内に立って、終日踏切横断者の指差確認状況を監視、注意するというものであって、一時間に五分という休憩時間が与えられ、随時、トイレに行ったり、氷を取りに行くこと等が可能であったとはいえ、著しく過酷なもので、労働者の健康に対する配慮を欠いたものであったといわざるをえない。身体障害者であるAは、本件作業に従事して半日で足がしびれ作業の継続が困難となり、また原告X1も立っていることが困難となったことがあること(原告X1)、原告X2も四、五時間たつと紫外線で目が痛くなって頭がぼんやりとしたこと(原告X2)が認められるが、これらは本件作業が、労働者の健康に対する配慮に欠けるものであったことを裏づける。また、本件作業が、従前S工場内で行われていた定点監視作業とは、監視時間等の点でその内容を異にするものであること、原告らが従事した本件作業の実施については、本来京都支社に報告されるべきものであるにも関わらず、実績は報告されていないこと(証拠略)、同年八月七日以降一八日までは、二つの職場が本件作業を担当することになり、また終日担当することもなくなったこと(証拠略)を併せ考慮すれば、原告らに対する本件作業は、その内容等において使用者の裁量権を逸脱する違法なものであったといわざるをえない。〔中略〕 〔労働契約-労働契約上の権利義務-使用者に対する労災以外の損害賠償〕 本件作業は、被告Y1の提案により、S工場内の安全意識向上のための被告Y2の会社施策として行われたものである。本件作業内容が違法なものであり、またそれが被告Y1の総務科長としての職務に関連するものである以上、被告Y1には不法行為責任が、被告Y2は使用者責任を負う。〔中略〕 〔懲戒・懲戒解雇-懲戒事由-服務規律違反〕 本件温度計は、工場公開で売却が予定されていたことからコンテナで保管されていたものであり、温度計売却の過去の実績は平成一〇年度が単価五〇〇円で数量一〇個、一一年度が同単価で数量二個、平成一三年度が同単価で数量一九個であり、本件温度計もその後の工場公開で売却されている。そして、原告X1が、B社員に頼んで、本件温度計を無断で持ち出したこと、C係長から、原告X1がB社員から温度計を受け取っていたとの報告を受けたD助役は、原告X1に事実を問い質したが、原告X1はこれを否定した。そしてB社員にD助役が確認した後、再度、原告X1に確認しても、同人はこれを否定し、踏切の警報器がなっているのにこと寄せて、「何言うとるのか聞こえん、耳わるうなったのかな」などと発言し、真面目に応答しなかった。その後、E係長が、原告X1が温度計を所持しているのを発見し、これを取り上げた。 これら原告X1の行為の態様等に鑑みれば、「職務上の規律を乱した場合」(就業規則第一四六条第1項3号)で、「懲戒を行う程度には至らないもの」(就業規則第一四七条第2項)に該当するといえる。 この点、原告X1は、本件温度計は廃棄予定のものであり、被告Y2に対し、何らの経済的損害を与えるものではないから、「職務上の規律を乱した場合」「懲戒を行う程度には至らないもの」には該当しないと主張するが、吹田工場で温度計をコンテナ内で保管していることや過去温度計売却の実績があることからすれば、本件温度計が廃棄予定のものであったとする原告X1の主張は採用しえず、また、返却されているから被告Y2に経済的損害が発生していなくとも、無断で持ち出し、管理者に対し、その持ち出しを隠匿する行為は、職務上の規律を乱すものといえるから、原告X1の主張は採用しえない。そして、本件訓告処分については、他に処分の均衡を疑わせるような事情もないことからすれば、処分としての相当性を欠くものとはいえない。 以上より、本件訓告処分の無効を求める原告X1の請求は理由がない。 |