全 情 報

ID番号 07904
事件名 地位確認等請求事件
いわゆる事件名 三室戸学園事件
争点
事案概要  学校法人Yの教職員組合に属するXら四名が、Yから嘱託(特別任命教職員契約)を雇止めにされ、あるいは定年後に嘱託として再雇用されなかったことが、〔1〕主位的には同組合とYとの間で締結された「定年後の雇用及び役職に関する覚書」に基づく合意によりXらが希望すればYから三年間嘱託として採用される権利を保障されていたと主張し、更に〔2〕予備的には六五歳定年後の三年間は嘱託として再雇用するとの労使慣行に反するもので、実質的には解雇の意思表示であって、同意思表示は権利の濫用に当たり無効であると主張して、Yに対し、Yの嘱託としての地位にあることの確認及び賃金等の支払を請求したケースで、〔1〕については本件合意当時、在籍していた六五歳を超える教職員の処遇に関する特別経過措置を合意したものというべきであるし、また〔2〕についても、Xら主張のような取扱いが長期間にわたって反復継続していたとは認められ難く、またYがかかる取扱いを明示的に排斥する態度をとっていたこと等から労使慣行も成立しているとは認められないとし、結論としてXらの請求が棄却された事例。
参照法条 労働基準法2章
体系項目 退職 / 定年・再雇用
裁判年月日 2002年1月21日
裁判所名 東京地
裁判形式 判決
事件番号 平成12年 (ワ) 15853 
裁判結果 一部却下、一部棄却(確定)
出典 労働判例823号19頁/労経速報1796号3頁
審級関係
評釈論文 野川忍・ジュリスト1251号196~199頁2003年9月1日
判決理由 〔退職-定年・再雇用〕
 学園は、学園を取り巻く諸状況や組合の要求を踏まえて、昭和五八年八月二〇日までに本件就業規則を作成し、その中で六五歳定年制を採用するとともに、教職員が定年退職した場合において、「職務の都合により特に必要があると認め、かつ、本人が希望する場合は」嘱託として引き続き再雇用することがある旨の本件嘱託条項を規定したこと、これに対して組合は、本件就業規則に対する昭和六〇年三月四日付け意見書により、本件就業規則によって、初めて六五歳定年制が採用されたことから、「この定年制を施行するにあたっては移行措置を置くことについて組合と協議する必要がある」こと、「大学については他の私立大学の多くがそうであるように七〇歳定年制を採用することが妥当である」との考えを示し、本件就業規則で規定された定年制と嘱託制について、学園との間で継続的に事務折衝を行ったこと、そして、学園は、こうした組合との間の事務折衝をも踏まえて、昭和五九年度末(昭和六〇年三月)までに八〇歳以上の教職員を、昭和六〇年度末(昭和六一年三月)までに七五歳以上の教職員を、昭和六一年度末(昭和六二年三月)までに七〇歳以上の教職員をそれぞれ退職させたこと、この段階で、本件就業規則で定められた定年年齢である六五歳から七〇歳までの教職員の処遇をどうするかが問題として残ったが、組合は、学園との昭和六二年一〇月一五日の事務折衝において、六五歳定年制を前提としながら、七〇歳まで嘱託として再雇用することには異論がないが、既に退職金を受領している六五歳以上の主任教授が学園にいるのは経営者である学園が就業規則を被っていることになるとして、本件就業規則の規定を遵守するように求め、また、定年制が示されて四年も経過しているのに、役職者が六五歳以降も役付のままでいることに対して批判的な意見を述べており、役職者との関係ではあるものの、学園に対して六五歳定年制を徹底した取扱いをするように求めていたこと(書証略)、その後の事務折衝を経て、学園と組合とは本件合意をしたこと、本件合意の内容は、本件合意書(〈証拠略〉)に記載された文言によれば、冒頭において、本件合意の趣旨が「本件就業規則11条(定年)に関して」、学園と組合が協議の結果「特別経過措置をとることで双方が合意した」ものであることを明記した上、その第一項では、本文で本件嘱託条項の内容を確認した上で、「ただし、昭和六二年度末で満六五才(ママ)以上の者に対しては満七〇才(ママ)までを限度としての経過措置をとるものとする」として、特別経過措置に関する合意内容を明らかにし、また、第二項は、その本文で組合が求めていたところの六五歳定年により役職及び職位を解くことを確認した上で、「ただし、昭和六三年三月三一日をもって定年に達した者、それ以前に定年に達していた者の役職及び職位については二年以内(昭和六三年四月一日より)を限度とする経過措置をとるものとする」として、特別経過措置に関する合意内容を明らかにしているものと認められるのであって、以上によれば、本件合意は、学園の教職員については本件就業規則一一条に規定された六五歳定年制に関する規定及び本件嘱託条項の規定によって労働条件が定められることを前提としつつ、本件合意当時、学園に在籍していた六五歳を超える教職員の処遇に関する特別経過措置を合意したものというべきで、本件合意によって、定年で退職する教職員に対し、三年間は嘱託として再雇用される権利(法的地位)を保障することが合意されたものであるとは認め難い。〔中略〕
 最初に、本件嘱託条項が、教職員が定年退職した場合において「職務の都合により特に必要があると認め、かつ、本人が希望する場合は、嘱託として引続き再雇用することがある」と規定していることは前記のとおりであり、原告らがその存在を主張する労使慣行は、本件嘱託条項に実質的に抵触する内容の慣行であるというべきところ、このような慣行が認められるためには、同種の行為又は事実が長期間反復継続されていること、当事者が明示的にこれによることを排斥していないことのほか、就業規則を制定改廃する権限を有する者か、あるいは実質上これと同視し得る者が、当該取扱いについて規範意識を有していたことを要するというべきである。〔中略〕
 「レッスン担当教員」のうち、三年間にわたって嘱託再雇用を希望して、そのとおり再雇用されたものは八名だけであること、全員が嘱託として再雇用されていた「教職担当教員」(六名)についても、その期間は原則として一年間だけの再雇用であり、三年間にわたって嘱託として再雇用された者は一人もいないこと、「その他の教職員」(A及びBを除く六名)についても、三年間にわたって嘱託再雇用を希望して、その通り再雇用されたのは三名だけであり、Cは学園との話し合いにより一年間だけ嘱託として再雇用されていたものであり(〈証拠略〉)、また、D及びEについては、希望しながら嘱託として再雇用されなかったことが認められる。また、学園が、本件嘱託条項を含む本件就業規則を作成したのは昭和五八年ころのことであり、前記認定のとおり、その後、これらの条項を前提とする本件合意を昭和六三年三月一〇日に組合との間で締結しているのであって、学園において、その直後から本件嘱託条項と抵触するような嘱託再雇用制度の運用を慣行として行わなければならないような事情は何ら認められないのである。
 (3) そうすると、以上のような事実関係だけから、学園において、定年により退職する教職員が希望すれば必ず嘱託として再雇用され、その期間も三年間は保障されるとの取扱いが長期間にわたって反復継続していたものとは直ちに認め難く、また、学園は、こうした取扱いを明示的に排斥するような態度をとっていたことが認められるうえ、就業規則を制定改廃する権限を有する者か、あるいは実質上これと同視し得る者(理事会又は理事長)が、定年により退職する教職員が希望すれば必ず三年間は嘱託として再雇用しなければならないとの意識(規範意識)を有していたものであるとも認められないから、結局、この点に関する原告らの主張も理由がないというべきである。