ID番号 | : | 07907 |
事件名 | : | 地位確認等請求控訴事件、仮執行の原状回復申立事件 |
いわゆる事件名 | : | みちのく銀行(差戻審)事件 |
争点 | : | |
事案概要 | : | 六〇歳定年制を採用していたYの銀行員であったXら六名(従業員の一パーセント加入の従組の組合員でいずれも当時五五歳以上の管理職・監督職階にあった)が、Yは収益環境の悪化による激しい競争時代の中で高コストで収益力が弱い体質、人員構成の高齢化等の問題を解決するため、人件費の削減、賃金配分の偏在化の是正の観点からの賃金制度の見直しとして、専任職制度創設のために就業規則を変更し(第一次変更:五五歳以上の行員の基本給は五五歳到達直前で凍結させ、五五歳以上の管理職員を原則として新設の専任職階とし、賃金を発令直前の基本給に諸手当(専任職手当を追加)とする等の内容)、その後、専任職制度改正のために就業規則と賞与の支給率等の変更(第二次変更:五五歳に到達した一般職・庶務行員も原則として専任職行員とし、専任職発令とともに業績給の一律五〇パーセント減額、専任職手当の廃止、賞与の支給率削減(いずれも経過措置あり))を行ったところ、両変更は労組(従業員の七三パーセント加入の組合)の同意は得たが、従組の同意を得られないまま実施され、それに基づいて、専任職発令がXらに出され、Xらは管理職の肩書きを失うとともに賃金が減額したことから、本件就業規則の変更は同意しないXらには効力が及ばないとして、Yに対し、専任職への辞令及び専任職としての給与辞令の各発令の無効確認、従前の賃金支払を受ける労働契約上の地位にあることの確認並びに差額賃金の支払を請求したケースの差戻審。; 差戻前上告審は、差戻前二審の判断(差戻前二審は、第一・二次変更を分けることなく、専任職制度導入による就業規則変更には合理性があると述べたうえで、差戻前一審が第二次変更前の額との差額について未払賃金として請求を認容した部分(差戻前一審は、第一次変更については合理性を肯定、第二次変更については合理性を否定)を取り消した)を破棄し原審に差戻しを命じていたが、本件差戻審では、右最高裁判決に依拠しながら、本件就業規則等の変更のうち賃金減額の効果を有する部分はXらにその効力を及ぼすことができないとしたうえで、賃金請求額について差戻前一審の判断が変更され、Xらの控訴が一部認容(差戻前一審では違法とされなかった役職手当、管理職手当の不支給分等につきその支払を認容)された事例。 |
参照法条 | : | 労働基準法89条2号 労働基準法3章 労働基準法93条 |
体系項目 | : | 就業規則(民事) / 就業規則の一方的不利益変更 / 賃金・賞与 |
裁判年月日 | : | 2002年2月12日 |
裁判所名 | : | 仙台高 |
裁判形式 | : | 判決 |
事件番号 | : | 平成12年 (ネ) 362 |
裁判結果 | : | 一部認容・一部棄却、棄却(仮執行の原状回復申立)(確定) |
出典 | : | タイムズ1110号158頁/労働判例822号52頁 |
審級関係 | : | 上告審/07602/最高一小/平12. 9. 7/平成8年(オ)1677号 |
評釈論文 | : | ・ジュリスト1219号5頁2002年3月15日/・労政時報3537号74~75頁2002年5月3日 |
判決理由 | : | 〔就業規則-就業規則の一方的不利益変更-賃金・賞与〕 就業規則変更の効力の判断基準については、原判決54丁表末行冒頭から同55丁表5行目末尾までに記載のとおりであるから、これを引用する(ただし、その引用文の次に「その合理性の有無は、具体的には、就業規則の変更によって労働者が被る不利益の程度、使用者側の変更の必要性の内容・程度、変更後の就業規則の内容自体の相当性、代償措置その他関連する他の労働条件の改善状況、労働組合等との交渉の経緯、他の労働組合又は他の従業員の対応、同種事項に関する我が国社会における一般的状況等を総合考慮して判断すべきである。」を加える。)。 第1審被告においては、前記争いのない事実のとおりその発足時から60歳定年制を採用していたのであるから、第1審原告ら行員が55歳以降にも所定の賃金を得られるということは単なる期待にとどまるものではなく、該当する行員の労働条件の一部となっていたということができるところ、第1審原告らは、前記認定のとおり、本件就業規則等変更の結果、専任職に発令され、基本給の凍結、その発令後の業績給の削減、役職手当及び管理職手当の不支給並びに賞与の削減(ただし、その全部が本件就業規則等変更によるものでないことは後述のとおり)をされたものであって、本件就業規則等変更が第1審原告らの重要な労働条件を不利益に変更する部分を含むことが明らかである。〔中略〕 第1審被告は、昭和51年に合併して以来、その経営効率を示す各種指標が高コスト、高利回りで収益力が弱いという企業体質を示しており、ことに人件費率は全国地方銀行中で最悪あるいはそれに近い順位となっていたが、その原因は、他の地銀においては、55歳定年制を採用していたことから、必然的に同年令(ママ)以上の行員の割合が小さく、その賃金水準も低レベルであったのに対し、60歳定年制を採用している第1審被告においては、中高年層を中心とした人材構成の高齢化により、役職経験者が加速度的に増え、管理職の肥大化現象が顕著となっていることにあることが、既に昭和53年の人事制度研究会において指摘されていたこと、したがって、昭和50年代後半から進展した金融の自由化という、金融機関間の競争が進展しつつある厳しい経営環境の中で、人材の高齢化に伴い増大する人件費を削減し、賃金配分の偏在化を是正するとの観点に立った組織改革を行うことは、第1審被告の経営者にとって、まさに10年来の懸案事項であり、避けて通れない問題となっていて、多くの行員も同様の認識であったことが認められ、本件就業規則等変更は、第1審被告にとって高度の経営上の必要性に基づくものということができる。本件全証拠によるも、当時第1審被告の経営が、危機的状況に陥っていたと認めるに足りる証拠はないが、いったん銀行の経営が危機に瀕した場合には、信用不安を惹起し、組織改革だけでは容易に再建できない事態となることは明らかであるから、そのような危機的状況に至らなければ組織改革の必要性がないとすることは到底できない。〔中略〕 専任職制度導入による本件就業規則等変更は、まず、55歳到達を理由に行員を管理職階又は監督職階から外して専任職階に発令するものであるが、事業の効率的遂行のためどのような企業組織を編成し、どのような労働者を配置するかは、広い意味での使用者の人事権に属する事項であると解されるところ、前項説示のとおり、第1審被告においては組織改革の必要があったと認められるのであり、その人事権の行使としてなされた本件就業規則等の変更は、これに伴う賃金の減額を除けば、その対象となる行員に格別の不利益を与えるものではないから、職階及び役職制度の変更に限ってみれば、その合理性を認めることができる。〔中略〕 本件就業規則等変更後の第1審原告らの賃金は、減額により平成4年度以降約420万円程度から約530万円程度となるものの、この賃金額は、前記第2の2(2)認定の東北地方における他行の当時の給与所得者の平均的な賃金水準や定年を延長して延長後の賃金を低く抑えた一部の企業の賃金水準に比べてなお優位にある。しかしながら、第1審原告らは、高年層の事務職員であり、年齢、企業規模、賃金体系等を考慮すると、変更後の前記賃金水準が格別高いということはできない。しかも、第1審原告らは段階的に賃金が増加するものとされていた賃金体系の下で長く就労して50歳代に至ったところ、60歳の定年5年前で、賃金が凍結されるどころか逆に半額に近い程度に切り下げられることになったものであり、55歳定年を延長して延長後の賃金を低く抑える場合と同列に論ずることはできない。 本件就業規則等変更は、その変更の対象層、前記賃金減額幅及び変更後の賃金水準に照らすと、高年層の行員の労働条件をいわゆる定年後在職制度ないし嘱託制度に近いものに一方的に切り下げるものにほかならないというべきである。〔中略〕 本件における賃金体系の変更は、短期的に見れば55歳以上の行員にのみ賃金コスト抑制の負担を負わせるもので、その負担の程度も前記説示のとおり大幅な不利益を生じさせるものであり、それらの者は、中堅層の労働条件の改善などといった利益を受けないまま退職の時期を迎えることになる。就業規則の変更によりこのような制度改正を行う場合には、一方的な不利益を受ける労働者について、その不利益を緩和するなどの経過措置を設けることによる適切な救済を併せ図るべきところ、本件においては、前記説示のとおり、経過措置の適用にかかわらず大幅な賃金の減額がなされているところであって、救済ないし緩和措置として極めて不十分であると評せざるを得ない。 そうすると、第1審原告らとの関係において、賃金面における本件就業規則等変更の内容の相当性を肯定することはできない。〔中略〕 本件においては、第1審被告の行員の約75パーセントを組織する労組が本件第1次変更及び本件第2次変更に同意しているが、第1審原告らの被る前記説示の不利益の程度や内容を勘案すると、賃金面における変更の合理性を判断するに際して労組の合意を大きな考慮要素とすることは相当でないというべきである。〔中略〕 以上検討の結果によれば、専任職制度の導入に伴う本件就業規則等変更は、それによる賃金に対する影響の面からみて、第1審原告らのような高年層の行員に対しては、専ら大きな不利益のみを与えるものであって、他の諸事情を勘案しても、変更に同意しない第1審原告らに対し、これを法的に受認(ママ)させることもやむを得ない程度の高度の必要性に基づいた合理的な内容のものであるとは認めることができない。 |