全 情 報

ID番号 07914
事件名 地位保全等仮処分命令申立事件
いわゆる事件名 弥生工芸事件
争点
事案概要  金属製品の塗装業務を目的とする有限会社Y(役員を除く従業員数二三名で、YはY代表者の父がA工業所の屋号で営んでいた塗装業をAの破綻後引き継ぎ設立された)に雇用され塗装室に入る前の作業に従事していたX1及びX2(もともとA工業所のパート社員でありY設立に当たり引き続き雇用された)が、Yでは設立の経緯から取引先等に対し経営状況が安定していることを示す必要があったにもかかわらず、赤字が続き金融機関から大金を借入れをする事態に至り経営の建て直しを図ることが必須となっており、業績の悪化によって特にその不良品の発生に関与している人材については余剰人員が発生していたところ、業績悪化及び業務能率不良を理由に解雇されたことから、Yに対し、本件解雇は解雇権の濫用に当たり無効であるとして地位保全及び賃金の仮払を求めたケースで、XらはYの経営圧迫要因であるごみの付着による経費の増大の主たる原因をつくっており、約二年あるいは三年間にわたり同一の作業に従事していたのにもかかわらずそれが改善されないなどYの業務の円滑な遂行に支障を来す程度に業務能力が不良であったのに加え、Yではその業績悪化によって特にその不良品の発生に関与している人材については余剰人員とみなさざるを得ない事態に陥っていたという事情を考慮すれば、Xらは就業規則所定の解雇事由(勤務成績又は業務能率が著しく不良で、従業員としてふさわしくない、事業の縮小その他事業の運営上やむをえない事情により従業員の減員等が必要となったとき)に該当するとして、Xらの申立てが却下された事例。
参照法条 労働基準法2章
労働基準法89条3号
体系項目 解雇(民事) / 解雇事由 / 勤務成績不良・勤務態度
解雇(民事) / 解雇事由 / 已ムコトヲ得サル事由(民法628条)
裁判年月日 2002年2月20日
裁判所名 大阪地
裁判形式 決定
事件番号 平成13年 (ヨ) 10092 
裁判結果 却下
出典 労経速報1825号41頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔解雇-解雇事由-勤務成績不良・勤務態度〕
〔解雇-解雇事由-已ムコトヲ得サル事由(民法628条)〕
 債務者では、その設立の経緯から、取引先及び債権者に対して、早期に債務者の経営状況が安定していることを示す必要があったにもかかわらず、赤字が続き、金融機関から二〇〇〇万円の借入れをする事態に至り、経営の立て直しを図ることが必須となっていたことが認められる。そして、その経営圧迫要因となっているのが、ゴミの付着による経費の増大であり、第二工場においてはそれが顕著であるところ、その主たる原因の一つが債権者X1が外部から持ち込む埃であると認められることは、既に(1)クで検討したとおりである。その上、前経営者の下での就労も含めて、本件解雇まで約三年間にわたり、概ね同一の作業に従事していたにもかかわらず、自らの行動が不良品の発生に与えていた影響を自覚することもなく、他の従業員からの指摘にも耳を傾けず、勤務態度を改善する姿勢を示してこなかったことが一応認められることは、上記認定のとおりである。さらに、債権者X1が、製造工程の最初の行程を担当しているのに、作業に集中していなかったり、迅速な処理ができないために、作業行程全体への遅れも招致していたことなどを総合すれば、債務者における業務の円滑な遂行に支障を来す程度に、その勤務成績又は業務能率が著しく不良であるといわざるを得ず、同債権者の、債務者の従業員としての適格性には問題がある。〔中略〕
 これらの事実に、上記のとおり、債務者の業績悪化によって、特にその不良品の発生に関与している人材については余剰人員とみなさざるを得ない事態に陥っていたという事情を併せ考慮すれば、債権者X1には、就業規則三九条一項一号及び三号所定の解雇理由が認められる。〔中略〕
 以上によれば、債権者X1に対する本件解雇は合理的なもので、社会通念に照らして著しく社会的相当性を欠き、解雇権を濫用するものであるとはいえない。〔中略〕
 債権者X2についても、債務者において、経営状況が逼迫しており、ゴミの付着による不良品の発生が、その要因となっており、第二工場において、ゴミの除去作業を担当していたのが同債権者であり、その作業の習熟が不十分であることが、不良品発生の主たる原因の一つであると認められることも、(1)クで検討したとおりである。債権者X2においても、前経営者における勤務期間も含めて、本件解雇の時点までで約二年間余り、概ね同じ作業に従事していたにもかかわらず、平成一三年度の時点においても不良品の発生率が高率であったことによれば、同債権者の同作業に対する適性には問題があったといわざるを得ないし、一時的な現象であるともいえないことによれば、もはや同債権者には、担当業務に必要な能力に不足があったといわざるを得ない。さらに、上司に対する反抗的態度が見受けられたことも考慮すると、その程度は、債務者の業務の円滑な遂行に支障を来す程度に至っていたことが一応認められる。債務者は、債権者X2の配置転換も検討したものの、折からの債務者の経営状況の悪化によって、効率的な作業分担を図ることは困難であったことも、上記認定のとおりである。また、債務者の業績悪化も相俟って、債権者X2の効果的な配置転換もかなわなかったことも、上記認定のとおりである。
 そして、債権者X1について検討したのと同様に、債務者の業績悪化によって、不良品の発生に関与している人材については余剰人員とみなさざるを得ない事態に陥っていたという事情を併せ考慮すれば、債権者X2にも、就業規則三九条一号及び三号所定の解雇理由が認められる。そして、他に債務者が債権者X2を不当な目的で解雇したと認めるに足る事情も見当たらないこと、整理解雇の四要件に関する同債権者の主張についても、債権者X1について検討したのと同様に判断されることによれば、債権者X2に対する本件解雇は合理的なものであり、社会通念に照らして著しく社会的相当性を欠き、解雇権を濫用するものであるとはいえない。