全 情 報

ID番号 07930
事件名 地位確認等請求事件
いわゆる事件名 今川学園木の実幼稚園事件
争点
事案概要  学校法人であるY1の経営するA幼稚園で担任をもっていた幼稚園教諭で内縁の夫と同居していたXが、担任をもって約三か月後に、切迫流産、子宮頚管ポリープの診断を受け入院することになったため、A幼稚園園長Y2に対し妊娠及び右診断による入院の必要性を伝えたところ、Y2からは、中絶するよう暗に迫られ、その後、XとY2とで話合いがなされた際(七月二六日)にも、Y2から教師としても社会人としても無責任である旨非難されたり、育児休業中の代替教員の採用は難しいなどとして退職を勧められるなどし(Xは特に反論せず)、その後八月には夏季保育期間の出勤を求められてやむなく出勤し、そのため再入院し退院のめどがつかない状態になったところ、Y2から後任の教諭が見つかった旨の連絡があり、退職届の提出も求められたが、その後、職場復帰を望んでいるにもかかわらず(Xは流産している)、Y2からは退職届の提出を要求され続け、結局、雇用保険被保険者離職票を送付されるなどして退職(解雇)の取扱いをされたため、Xは、(1)Y1に対し、〔1〕住所地の虚偽申告と通勤手当の騙取、〔2〕園児出席簿の未作成、〔3〕Xの妊娠・流産が園児の父母等に知れわたったことによるY1の信用失墜を理由としてなされた解雇の無効を主張し、労働契約上の地位の確認及び未払賃金の支払を(七月二六日時点での合意解約の成立等も争われたが成立は否定された)、(2)Y2及びY1に対し不法行為責任(民法七〇九条・同法四四条一項)に基づく損害賠償を請求したケース。; (1)については、〔1〕のみが服務規律違反となるが、虚偽申告の一因はY2にもあり、不正受給期間も九か月と比較的短期間であること等からXを解雇しなければならない程度の服務規律違反の重大性はなく、本件解雇は解雇権の濫用として無効であるとして請求が認容(〔3〕は、雇用機会均等法八条によれば女性労働者の妊娠又は出産を理由とする解雇は禁止されているところ、教員が学期中に妊娠した事実をもって解雇理由となっており不相当である)され、(2)については、Y2の行為は雇用機会均等法八条の趣旨に反する違法行為であるとして、Y1・Y2に対する慰謝料請求が一部認容された事例。
参照法条 労働基準法2章
労働基準法89条3号
民法1条3項
体系項目 退職 / 合意解約
解雇(民事) / 解雇事由 / 不正行為
解雇(民事) / 解雇権の濫用
裁判年月日 2002年3月13日
裁判所名 大阪地堺支
裁判形式 判決
事件番号 平成13年 (ワ) 400 
裁判結果 一部認容、一部棄却(控訴)
出典 労働判例828号59頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔退職-合意解約〕
 原告がA産婦人科の医師から退院後も絶対安静を指示されていたにもかかわらず、8月19日から出勤していること、被告幼稚園の就業規則では、依願退職の場合、退職願を提出することが予定されているところ、原告が被告Y2から9月23日に退職届の提出を催促されたが、その提出をせず、かえって、10月11日には退職強要があったことを理由に組合に加入していること、8月21日、他の教諭らに妊娠の事実は告げたのに、その際、退職する予定であるとは告げていないこと、被告学園が離職票や資格喪失報告書において離職理由や資格喪失事由を解雇として取り扱っており、また、〔中略〕被告学園は、当初、10月20日付け解雇としていたこと、就業規則上、被告学園には原告の10月分の給与を満額支給する必要がないにもかかわらず、本俸について満額支給していること(<証拠略>)を合わせ考慮すると、7月26日、原告と被告学園との間に本件労働契約の合意解約が成立したと認めることはできない。〔中略〕
〔解雇-解雇事由-不正行為〕
 確かに、原告は、同年11月ころから、Bと肩書住所地において同居を始めたにもかかわらず、被告学園には住所地を変更したことを届け出ず、通勤手当についても従前からの届出住所地である大阪府門真市内からの通勤に要する金額を受給していたことが認められるから、職員の身上関係に異動があった場合は所属長に速やかに届け出ることを要する旨規定する就業規則6条2項に違反し、服務規律違反が存したといわざるを得ない。
 しかしながら、原告は、前記1(1)イないしエ記載のC教諭の退職に至る一連の事実経過について承知していたことから、Bと未入籍の状態のまま、被告幼稚園の近隣にある肩書住所地に転居した旨報告すれば、被告Y2から厳しい叱責や強い退職勧奨を受ける可能性があると判断して、住所地の変更を申し出なかったものと認められることや、被告Y2が、従前から、園児の父兄らの目があるので私生活に気を付けるように指導していた旨供述していること、前記認定のとおり、被告Y2は、C教諭に対し、結婚後の居住地としては天美地区以外を勧めたことをも合わせ艦みると、平成11年11月当時、被告幼稚園では、被告Y2に対して未入籍の状態で被告幼稚園の近隣に居住した旨の報告をしづらい状況であったのであり、そのような状況を作出した一因は被告Y2にもある。したがって、住所地の変更を申し出なかったことにつき、原告のみを非難することはできないというべきである。
 以上に加え、住所地の虚偽申告については、手当の不正受給額以外には被告幼稚園の運営において実害が生じたとの事実が証拠上窺われないこと、不正受給期間が平成11年11月から平成12年7月までの約9か月間であり、比較的短期間であることをも併せ鑑みると、原告の服務規律違反の程度は重大なものとはいえない。〔中略〕
〔解雇-解雇事由-不正行為〕
〔解雇-解雇権の濫用〕
 被告学園が主張する解雇理由のうち、住所地の虚偽申告及び通勤手当の不正受給のみが解雇の理由となりうべきものであるところ、原告が住所地変更を申告できなかったことの一因が被告幼稚園の園長である被告Y2にあること、住所地の虚偽申告については、被告幼稚園の運営に重大な実害が生じたとの事実が窺われないこと、通勤手当の不正受給期間が約9か月間と比較的短期間であることを併せ考慮すると、原告を解雇しなければならない程度の服務規律違反の重大性は認められないから、本件解雇は解雇権の濫用として無効であるというべきである。