ID番号 | : | 07944 |
事件名 | : | 退職金等請求事件 |
いわゆる事件名 | : | ソニー(早期割増退職金)事件 |
争点 | : | |
事案概要 | : | ビデオ機器の製造等を業とする会社Yで係長として勤務していたXは、Y社に在籍したままA団体に正式に入社し、Y社・A団体の双方に二重在籍していることは知らせないまま、約一か月ほどの間、有給休暇の取得を工夫し、二重就労の形態で勤務し、勤務記録を不正に入力するなどしていたが、その後、過去にも実施歴のある早期割増退職制度(支援内容は自己都合退職金プラス特別加算、対象者は、勤続一〇年以上で、セカンドキャリアを目指し、Y社が適用を認めた従業員で職制に応じた年齢制限が設定、適用除外の規定もある)の適用を申請し、退職願についても承諾されていたところ(Xは退職願を二度提出しているが、これはY社とA団体の要望により二重就業状態を速やかに解消するよう要望を受け、そのため退職日を繰り上げるために再度提出された)、他社に入社した事実があったことの報告がなかったことを理由にY社から本件制度の適用を認めない通知がなされ、Xには自己都合退職金しか支払われなかったため、Y社に対し、Y社の本件契約の締結拒否は権利の濫用等である等と主張して、本件制度に基づく特別加算金を請求したほか、二回目の退職の意思表示は強迫に基づくものであり無効である等として、一回目の退職願に記載された退職日を基に計算した賞与や給与の支払等を請求したケース。; 本件制度の申請は早期退職という重要な意思決定を伴うものであるからすると、適用申請者に本件制度の適用を認めないことが信義に反する特段の事情がある場合には、Y社は信義則上、承認を拒否することができないと解するのが相当であるとしたうえで、本件においてはそのような特段の事情があるとは認められないとし、請求が棄却、その他の請求もすべて棄却された事例。 |
参照法条 | : | 労働基準法89条3号の2 労働基準法89条9号 民法96条1項 |
体系項目 | : | 賃金(民事) / 退職金 / 早期退職優遇制度 退職 / 退職願 / 退職願と強迫 |
裁判年月日 | : | 2002年4月9日 |
裁判所名 | : | 東京地 |
裁判形式 | : | 判決 |
事件番号 | : | 平成12年 (ワ) 16174 |
裁判結果 | : | 棄却(控訴) |
出典 | : | 労働判例829号56頁/労経速報1810号15頁 |
審級関係 | : | |
評釈論文 | : | |
判決理由 | : | 〔賃金-退職金-早期退職優遇制度〕 本件制度は、転職や独立を支援するため、通常の自己都合退職金に加え、特別加算金を支給することを主な内容とするものであるところ、従業員がその適用を申請し、被告が適用を認めることが要件とされているうえ、一定の場合には適用が除外されている。そうすると、被告が本件制度を社内に通知したことは、申込みの誘引であると解され、原告主張のように、社内への通知が契約の申込みであり、原告からの申出が承諾であると解することはできない。 イ 本件制度は、被告が適用を認めることが要件とされているが、適用除外事由が具体的に規定されていることや、本件制度の申請は早期の退職という重要な意思決定を伴うものであることからすると、恣意的な運用が許容されるべきではないから、その適用を申請した者に本件制度の適用を認めないことが信義に反する特段の事情がある場合には、被告は信義則上、承認を拒否することができないと解するのが相当である。〔中略〕 〔退職-退職願-退職願と強迫〕 懲戒解雇に相当する事由が存在しないにもかかわらず、懲戒解雇があり得ることを告げることは、労働者を畏怖させるに足りる違法な害悪の告知であるから、このような害悪の告知の結果なされた退職の意思表示は、強迫によるものとして、取り消しうるものと解される。〔中略〕 〔退職-退職願-退職願と強迫〕 原告の行った勤務記録の不正入力は、就業規則58条4号の懲戒事由に当たる。その期間は、被告を退職する直前の平成11年11月の1か月のみであり、日数は4日間と多くはないが、本社に出社した日数のすべてに及んでおり、出勤日数に占める割合は高いうえ、合計時間も少なくない。原告は、A団体への二重就業の事実が被告に発覚し、ひいては本件制度の適用において不利に働き、特別加算金の支払が受けられなくなることをおそれてこのような不正入力を行っており、その動機は不当というほかない。事後の対応をみても、原告は、面談の場で被告から二重就業と勤務記録の不正入力について具体的に指摘を受けるまで、この事実を明らかにしなかった。このような経過をふまえ、被告が原告に対し勤務記録の不正入力が懲戒解雇に値すると述べたことは、やむを得ないといえる。したがって、被告が原告に対し勤務記録の不正入力が懲戒解雇に値すると述べたことは、違法な害悪の告知とはいえない。 |