ID番号 | : | 07950 |
事件名 | : | 調整手当金請求事件 |
いわゆる事件名 | : | 関西外国語大学事件 |
争点 | : | |
事案概要 | : | 私立大学Yの教授X1及び助教授X2が、Yでは、給与規程が改訂され、それまでの基本給に毎年のベースアップを積み上げていく方法は年収の増加額が大きくなり世間の相場と離れて高額になってしまうとの理由でこれをやめ、新たに調整手当制度(賞与や退職金の基準となる基本給から外し、ベースアップ相当分を手当の一つとして支給)を導入し、附則を設けて、給与表各等級の最高号俸に達した者には、その次年より調整手当を原則として支給しないこと(改訂一)とされ、更にその翌年にも給与規程を改訂されて研究業績、勤務成績、本学への貢献度、職務の責任度によって調整手当を請求する旨の規程が設けられ(改訂二)、更に調整手当に関する内規も作成されていたところ、X1については、Yに無断で他大学で講義したことにより懲戒処分を受けたにもかかわらずその通知の受領を拒否するなどYの教員としての資質に欠けるとして最低の評価の判定がなされ調整手当の全額がカットされ、X2についても職責の重要度が高くなく、評価もよくなく調整手当全額カットが適当であるとはされつつ、外国大学での研究発表等が特別に考慮されて五〇パーセントの額が支給されたため、Yに対し、これらの調整手当の減額ないし不支給は不当であるとして、右減額分ないし不支給分の支払を請求したケース。; 本件調整手当の導入は、賃金増額の方法として、手当という形をとって行われたものであり、調整手当分の賃金が増額するだけで、改訂一によって賃金が減額になるわけではなく、改訂二及び内規作成もこれによって賃金の減額が可能になることはないが、最高号俸到達後に調整手当が減額ないし不支給となる場合があり、これは賃金の減額に当たるものの、改訂一による調整手当導入時から規定されていたものであり、いわば期間限定の増額であったというにすぎず改訂二及び内規作成によって影響を受けるものではないなどとして本件改訂等は就業規則の不利益変更には当たらないとし、既に最高号俸に達して一年を経過したX1・X2がその調整手当を請求する根拠は附則のただし書き(勤務成績等が特に良好である者については諸情勢を勘案して別途考慮する旨の規定)であるところ、本件調整手当のうち、地位や資格に基づいて支給されえる部分については、最高号俸に達した一年後も、その資格や職責に変更がない限りは、これによって行う労働の対価である賃金部分は減額されるべきではないのであって、上記附則ただし書きを定めたのはその趣旨に解すべきであるとし、X1・X2は最高号俸に達した一年後の前職務内容や資格の変更あるいは労務提供の水準が著しく減退した事情もなく、X1・X2のいずれについても、調整手当のうち、資格給としての調整手当については、これを削減される合理的理由はないとして、その分についてX1・X2の請求が認容された事例。 |
参照法条 | : | 労働基準法11条 労働基準法3章 労働基準法89条2号 |
体系項目 | : | 賃金(民事) / 賃金請求権と考課査定・昇給昇格・降格・賃金の減額 |
裁判年月日 | : | 2002年4月17日 |
裁判所名 | : | 大阪地 |
裁判形式 | : | 判決 |
事件番号 | : | 平成13年 (ワ) 3510 |
裁判結果 | : | 一部認容、一部棄却(控訴) |
出典 | : | 労働判例828号36頁 |
審級関係 | : | |
評釈論文 | : | 山川隆一・ジュリスト1240号137~140頁2003年3月1日 |
判決理由 | : | 〔賃金-賃金請求権と考課査定・昇給昇格・降格・賃金の減額〕 本件調整手当が労務対価性のある賃金であって、ベースアップに代わるものとかベースアップ相当分として支給され、しかも、賞与を除く賃金の約2割程度となっていることからすると、これを、最高号俸到達という労務提供と全く関係のない事実によって削減することは、論理的には合理性がない。地位や資格に基づいて支給される賃金については、その資格や職責に軽減がない限りは、これを減額する理由はない。 そうすると、本件調整手当のうち、地位や資格に基づいて支給される部分については、最高号俸に達した1年後も、その資格や職責に変更がない限りは、これによって行う労働の対価である賃金部分は減額されるべきではないのであって、就業規則の附則1がただし書を定めたのは、その趣旨と解するべきである。そこで、同附則1については、調整手当に労務対価性のある地位や資格に基づいて支給される部分を含む以上、本文の文言にかかわらず、その地位や資格が変更され、また、その労務内容が変化して職責に変更が生じ、あるいは労務提供そのものに著しい変化が生じた場合など合理性のある場合に減額できる趣旨の規定と解するのが合理的であり、最高号俸に達した1年後に一旦支給根拠を失い、被告において、査定の上で新たな支給を可能とする旨の規定と解するべきではない。 上記認定事実によれば、原告らのいずれも、資格及び職務内容については、最高号俸に達した1年後の前後で何ら変更がない。また、その前後で、原告らの労務提供の水準が著しく減退したという事情もない。したがって、原告らのいずれについても、調整手当のうち、資格給としての調整手当については、これを削減される合理的理由はないというべきである。 |