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ID番号 07964
事件名 損害賠償請求控訴事件
いわゆる事件名 関西医科大学研修医(損害賠償)事件
争点
事案概要  医科大学を設置・運営する学校法人Xの大学を卒業後、X設置の付属病院に臨床研修医として所属し死亡したAの両親Yらが、Aの研修内容は概ね七時半頃に登院し、九時から一六時頃まで指導医の指示のもと患者の問診、点滴、見学等を行い、一八時までの自己研修の後、一九時頃終了するというものであったが、指導医の診療の補助、手術の立会いもあり、通常の退出時刻は二二時頃で、休日も指導医が出勤すれば登院し、又指導医の当直日に副直として院内待機することとなっており、Aは死亡前の二か月間については四日間を除き登院して、通常一一~一六時間も病院内で研修ないし関連作業に従事していたこと(この期間中奨学金月額六万円、宿直・日直につき一回一万円)から、Aは病院の指揮の下で勤務する労働者であり、私立学校教職員共済法一四条にいう「使用される者」であったにもかかわらず、Xは共済制度の加入手続を怠ったとして、Aが加入できていれば受給できるはずの遺族共済年金分の損害賠償の支払を請求したケースの控訴審で、Aは労働基準法九条にいう「労働者」に該当し、それと同義である私立学校教職員共済法一四条にいう「使用される者」に該当するとしたうえで、Xが研修医を同制度に加入させなかったことは違法であり、過失がないとはいえないとした原審の判断が維持され、Xの控訴が棄却された事例。
参照法条 労働基準法9条
民法709条
体系項目 労基法の基本原則(民事) / 労働者 / 研修医
労働契約(民事) / 労働契約上の権利義務 / 使用者に対する労災以外の損害賠償
裁判年月日 2002年5月10日
裁判所名 大阪高
裁判形式 判決
事件番号 平成13年 (ネ) 3213 
裁判結果 控訴棄却(上告)
出典 労働判例836号127頁
審級関係 一審/07800/大阪地堺支/平13. 8.29/平成12年(ワ)1269号
評釈論文 鎌田耕一・労働法律旬報1538号13~19頁2002年10月25日/東島日出夫・季刊労働法204号218~231頁2004年3月
判決理由 〔労基法の基本原則-労働者-研修医〕
〔労働契約-労働契約上の権利義務-使用者に対する労災以外の損害賠償〕
 当裁判所は、被控訴人らの本件請求は原判決主文の限度で理由があると判断するが、その理由は後記2のとおり当審における控訴人の主張に対する判断を付加し、1のとおり付加、訂正するほか、原判決の「事実及び理由」中の「第5 争点に対する当裁判所の判断」のとおりであるから、これを引用する。〔中略〕
〔労基法の基本原則-労働者-研修医〕
 引用にかかる原判決の判示のとおりであるほか、教育的側面との関係については、〔1〕控訴人病院耳鼻咽喉科における臨床研修は、当初の3か月間を新人教育期間と位置づけるとともに、1年目は耳鼻咽喉科診療の基本的知識と技術を学び、医師としての必要な態度を修得し、2年目からは、関連病院などでさらに高いレべルの臨床研修を行うとされ、その間習熟度に応じて主治医として比較的簡単な手術などの治療行為も行い、研修期間修了後は控訴人病院の研究医員となることが予定されていること(〈証拠略〉)からすれば、本件臨床研修は先輩医師や指導医の下で臨床経験を積むため2年間にわたり段階的に行われるものであるから、その実態についても本件臨床研修全体を通じて観察したうえ、労働者に該当するか否かを判断すべきものであり、Aが死亡した上記新人教育期間中においては研修内容として各種講義の受講や見学などがカリキュラムに組まれていて教育的側面が強かったとしても、その期間のみに限定して本件臨床研修における当該研修医の身分を判断するのは相当とはいえないし、〔2〕研修医は医師免許を有し医療行為を行う資格を有するものであるところ、上記新人教育期間に限ってみても、研修医による連日の採血、点滴が、教育的見地から指導医による具体的指導の下で行われているとか、これが専ら研修医の利益のためなされているとは証拠上認めることはできない(上記採血などが技術の早期取得を目指して研修医の自発的希望で行われていることを認めるに足りる証拠もない。)のであって、本件臨床研修が教育的側面を有するとしても、医学部医学教育における臨床学習や、大学医学部の課程を卒業したが医師免許を有しない者が指導医の直接的指導監督のもとに限られた範囲で医療行為に関与する過去の実地修練(インターン)制度とも実態が異なるというべきであるから、研修医は、医師免許に基づき、看護婦(ママ)ないし医師のなすべき医療労務を提供していると認めるのが相当である。