全 情 報

ID番号 07988
事件名 賃金等請求事件
いわゆる事件名 国際信販事件
争点
事案概要  割賦販売あっせん、旅行業などを目的とする会社Yの旅行事業部に時給社員として勤務していたXが、同事業の廃止に伴う人員整理を理由にYから解雇の意思表示を受けたことから、当該解雇は権利の濫用により無効であると主張して、Yに対し、〔1〕その後自らが退職するまでの期間の賃金の支払を請求するとともに、〔2〕在職中Y社社内で執拗に嫌がらせ等を受けたと主張してY社及びその代表者らに対して不法行為に基づく損害賠償の支払を請求したケースで、〔1〕については、本件解雇は、人員削減をすべき経営上の必要性は大きいとはいえず、Xを配置転換する余地がないとはいえないのにその検討がなされたことはなく、またYはXの解雇の問題に関する団体交渉にも応じていないこと、Yが人件費等の削減のための努力をした形跡はなく役員に対しては高額の報酬の支給を続けており解雇回避努力を十分に尽くしたとはいえないこと、また本件解雇についてX及び労働組合に対して十分な説明や協議がなされていないことから、客観的合理的理由を欠くものであり解雇権の濫用として無効であるとして、Xの請求が一部認容され、〔2〕についても、Xに対するほかの従業員のいやがらせが長期間にわたり繰返し行われていたこと、Xと上司が男女関係にあるという事実に反する社内でのうわさ等についてXからの事態改善の求めがあったにもかかわらずYの代表者らは特段の措置をとらなかったことなどを認定したうえで、Xに対する嫌がらせ行為はいずれもY社の代表者らの指示ないし了解に基づいて行われたものというべきであり、これらは民法七〇九条の不法行為責任を負い、またこれらの不法行為は代表者としての職務執行と密接な関連があるからY社は商法二六一条三項、七八条二項、民法四四条一項に基づき損害賠償責任を負うとして、Xの請求が一部認容された(慰謝料一五〇万円認容)事例。
参照法条 労働基準法2章
労働基準法89条3号
民法1条3項
民法709条
民法44条1項
体系項目 解雇(民事) / 整理解雇 / 整理解雇の必要性
労働契約(民事) / 労働契約上の権利義務 / 使用者に対する労災以外の損害賠償
解雇(民事) / 整理解雇 / 整理解雇の回避努力義務
解雇(民事) / 解雇権の濫用
裁判年月日 2002年7月9日
裁判所名 東京地
裁判形式 判決
事件番号 平成12年 (ワ) 8149 
裁判結果 一部却下、一部認容、一部棄却(確定)
出典 労働判例836号104頁/労経速報1815号17頁
審級関係
評釈論文 中災防安全衛生関係裁判例研究会・働く人の安全と健康4巻10号37~40頁2003年10月
判決理由 〔解雇-整理解雇-整理解雇の必要性〕
 被告会社は、本件解雇の直近である第14期においては、会社全体で見れば、債権買取事業の業績の大幅な伸びに伴い業績は好調であり、従業員3名を増員し、高率の株式配当を実施したうえ、営業規模拡大に伴う人材の補充、育成強化を予定していたから、仮に旅行事業部を廃止したとしても、これによる余剰人員を他の部門で吸収する余地がなかったとはいえないから、人員削減をすべき経営上の必要性は大きいとはいえない。
〔解雇-整理解雇-整理解雇の回避努力義務〕
 原告は経理の知識と経験があったから、原告を旅行事業部から個品割賦事業部に配置転換する余地がないとはいえないところ、被告会社は、配転可能性の有無を検討したことはなく、原告に配置転換を提案したこともなかった。被告Y2は、旅行事業部の他の従業員と同様、原告に再就職のあっせん希望の有無を聴取するための面談を申し出たところ、原告がこれを拒否したと供述するが、いつ、どのようにして面談を申し出たかは判然としないうえ、被告会社は、原告の解雇の問題に関する団体交渉に応じなかったこと、旅行事業部の廃止に先立ち原告のみ他の従業員と異なり予定よりも早く解雇しており、原告を他の従業員と同等に処遇する意思があったとはいえないことからすると、採用することができない。また、被告会社が人件費及び諸経費を削減するための努力をした形跡はなく、被告会社は、本件解雇の前後を通じ、社長、専務、常務といった役員に対する高額の取締役報酬の支給を続けていた。そうすると、被告会社が本件解雇を回避するための努力を十分に尽くしたとはいえない。〔中略〕
〔解雇-解雇権の濫用〕
 本件解雇は、原告が時給社員であり正社員とは立場が異なるという被告会社の主張を考慮しても、客観的合理的理由を欠くものであるから、解雇権の濫用として無効である。〔中略〕
〔労働契約-労働契約上の権利義務-使用者に対する労災以外の損害賠償〕
 被告会社は、平成10年10月、旅行事業部を1部と、2部に分割したうえで、原告に物産展業務を担当させたが、原告の業務が繁忙であり、勤務が早朝から深夜まで長期間にわたることや休日にも出勤しなければならないことがしばしばあり、原告が勤務状況の改善を申し出ていたにもかかわらず、十分にこれに応じることなく、約半年もの長期間にわたり、人員の補充などの適切な措置をとることなく、原告に過重な勤務を強いた。
 そして、被告会社は、Aを懲戒解雇した後、原告を再び内勤業務としたが、原告に対してのみ約2か月間にわたり具体的な仕事を与えず、その後も仕事らしい仕事を与えなかった。原告は、その間も他の従業員からホワイトボードに「永久に欠勤」と書かれたり、不合理な座席の移動を命じられたり、侮辱的な発言を受けたり、ホワイトボードから名前が消されるなど、繰り返し嫌がらせを受けた。
 さらに、被告会社は、再就職のあっせんを希望した他の3名の従業員に対しては、同業他社への就職をあっせんし、雇用の継続を確保したが、原告に対してのみ、このような希望の有無を問うことなく、あえて他の従業員よりも先に解雇した。
 これらの一連の行為は、その経緯に照らすと、原告を被告会社の中で孤立化させ、退職させるための嫌がらせといわざるを得ず、Aが懲戒解雇された以降は、その傾向が顕著に現れている。そして、程度の差はあれ、このような嫌がらせが原告の入社後間もないころから本件解雇の直前まで長期間にわたり繰り返し行われたこと、被告会社の代表者であった被告丙山と被告乙原は当初からこのような事実を知りながら特段の防止措置をとらなかったこと、一部の行為は業務命令として行われたことからすると、これらの行為は、いずれも被告会社の代表者である被告丙山及び被告乙原の指示ないしその了解に基づいて行われたものというべきであるから、被告丙山と被告乙原は、それぞれ民法709条の不法行為責任を負う。そして、これらの不法行為は、被告丙山と被告乙原の代表者としての職務執行と密接な関連があるから、被告会社は、商法261条3項、78条2項、民法44条1項に基づき損害賠償責任を負う。