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ID番号 07991
事件名 解雇無効確認等請求事件(7374号)、賃金等請求事件(8009号)、賃金等請求事件(8012号)
いわゆる事件名 光和商事事件
争点
事案概要  金融業を営むYに雇用され営業社員として勤務していたX1ら三名(すでに退職)が、在職中、Yでは貸金業法改正により貸金利息の上限が引き下げられ同業者間の競争が激化したのに伴い、賃金体系を変更し(男性営業社員については歩合給制とし、基本給と精勤手当は固定額を支給するが、顧客手当・営業手当等は各営業社員の顧客件数や貸出残高に応じて計算されるようになった)、また事業存続のため営業社員の基本給が減額される措置がとられ、賃金が減額されたことから、退職後、〔1〕右賃金体系の変更等の無効を主張して、それに基づく賃金差額の支払(X1・X2)と実際に支払われた退職金と変更前の基本給に基づいて計算した退職金の差額支払を、また〔2〕時間外労働につき割増賃金の未払いがあったとしてその支払(事業場外みなし労働時間制の適用の可否が争われた)等を請求したケースで、〔1〕については、本件歩合給制の導入が直ちに従業員に不利益な賃金体系であるということもできないなどとしたうえで、X1らは歩合給制導入を認識し、それに基づいて計算された賃金を受領することにより歩合給制の導入を黙認していたし、基本給減額についてもX1らは黙示に承諾していたものとして、X1らの請求はいずれも理由がないとして請求が棄却され、〔2〕については、YがX1ら営業職員の労働時間を算定することが困難であるということはできず労基法三八条の二第一項の事業場外みなし労働時間制の適用を受けないことは明らかであるとして、タイムカードの記載に基づく時間外労働時間(始業前の時間を除く)について割増賃金請求が一部認容されたが、その他のXらの請求はすべて棄却された事例。
参照法条 労働基準法3章
労働基準法38条の2
労働基準法32条
労働基準法37条
体系項目 賃金(民事) / 賃金請求権と考課査定・昇給昇格・降格・賃金の減額
労働時間(民事) / 事業場外労働
労働時間(民事) / 労働時間の概念 / タイムカードと始終業時刻
裁判年月日 2002年7月19日
裁判所名 大阪地
裁判形式 判決
事件番号 平成13年 (ワ) 7374 
平成13年 (ワ) 8009 
平成13年 (ワ) 8012 
裁判結果 一部認容、一部棄却(控訴)
出典 労働判例833号22頁/労経速報1826号12頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔賃金-賃金請求権と考課査定・昇給昇格・降格・賃金の減額〕
 上記認定によれば、歩合給制の導入には合理的な理由があり、またこれの導入によって賃金額が上がった従業員もおり、歩合給制の導入が直ちに従業員に不利益な賃金体系であるということもできないし、歩合給制が導入され、これに基づく賃金が支給された後も原告らを含む従業員から苦情や反対意見が述べられたとの事情はうかがわれず、むしろ、営業社員の中には成果主義導入を歓迎する者もいた(被告本人兼被告会社代表者Y1)のであるから、原告らは歩合給制導入を認識し、歩合給制に基づいて計算された賃金を受領することにより歩合給制の導入を黙認していたというべきである。また、平成12年11月の基本給減額についても、賃金を使用者が一方的に減額することは認められるものではないが、原告らはいずれも減額された賃金を受領しており、基本給の減額については黙示に承諾していたものというべきである。この点、原告らは、生活のために賃金を受領していたにすぎない旨主張するが、原告らが基本給減額時に被告会社に抗議した等減額を拒絶した等の事情を認めるに足りる証拠は全くない。したがって、歩合給制導入及びその後の基本給減額が無効であるとの原告らの主張は採用できない。
 4 よって、原告X1及び原告X2の賃金差額請求及び原告らの退職金差額請求はいずれも理由がない。〔中略〕
〔労働時間-事業場外労働〕
 労働基準法38条の2第1項本文は、事業場外で業務に従事した場合に労働時間を算定し難いときは所定労働時間労働したものとみなす旨を規定しているが、これは、本来使用者は労働時間を把握しこれを算定する義務があるところ、事業場外で労働する場合にはその労働の特殊性からこのような義務を認めることは困難を強いることからみなし規定による労働時間の算定を規定したものである。したがって、本条の適用を受けるのは、労働時間の算定が困難な場合に限られる。〔中略〕
 本件においては、被告会社では、原告らについては勤務時間を定めており、基本的に営業社員は朝被告会社に出社して毎朝実施されている朝礼に出席し、その後外勤勤務に出、基本的に午後6時までに帰社して事務所内の掃除をして終業となるが、営業社員は、その内容はメモ書き程度の簡単なものとはいえ、その日の行動内容を記載した予定表を被告会社に提出し、外勤中に行動を報告したときには、被告会社においてその予定表の該当欄に線を引くなどしてこれを抹消しており、さらに、被告会社は営業社員全員に被告会社の所有の携帯電話を持たせていたのであるから、被告会社が原告ら営業社員の労働時間を算定することが困難であるということはできず、原告らの労働が労働基準法38条の2第1項の事業外(ママ)みなし労働時間制の適用を受けないことは明らかである。〔中略〕
〔労働時間-労働時間の概念-タイムカードと始終業時刻〕
 被告会社においては、従業員の出退勤時間をタイムカードによって管理していたから、基本的にはこれに打刻された時刻をもって原告らの出退勤時間を考えるべきである。
 この点につき、被告会社は、タイムカードは出勤、遅刻を管理する意味しか有しておらず、タイムカードに打刻された時刻をもって労働時間を算定することはできないと主張する。しかし、仮に被告会社におけるタイムカードが出勤、遅刻を管理する意味しか有していないといっても、それをもって直ちにタイムカードの記載が従業員の労働時間の実態を全く反映しないということはできない。少なくとも、原告らのタイムカードは継続して打刻されていること、被告会社がタイムカードを管理していたことからすれば、タイムカードの記載が従業員の労働時間と完全に一致するものとまでいうことはできないが、タイムカードが原告らの労働実態とかけ離れておらず、時間外労働時間を算定する基礎となる以上、タイムカードの記載と実際の労働時間とが異なることについて特段の立証がない限り、タイムカードの記載に従い原告らの労働時間を認定するのが妥当である。そして、本件においては、出勤時には各原告がこれを打刻しているし、また、終業時には一人の従業員が全員のタイムカードを押している(〈人証略〉)ものの、ほぼ同時間に従業員が退出していることが認められる(〈人証略〉)から、タイムカードの信用性を損なうような事情は認められない。そして、顧客の開発、債権の取り立て等の被告会社の業務内容からすれば、必ず定時に1日の業務が終了するとは到底言い難く、時間外労働が発生しうることは十分推認できるし、その旨原告らも述べている(〈人証略〉)ところであり、A常務も時間外労働が発生することを否定していない(〈人証略〉)ことからすれば、原告らが従事した時間外労働時間は被告会社の黙示の業務命令に基づくものというべきである。