ID番号 | : | 07993 |
事件名 | : | 従業員地位保全仮処分申立事件 |
いわゆる事件名 | : | 佐野第一交通(解雇)事件 |
争点 | : | |
事案概要 | : | 主としてタクシー事業を営む株式会社Yの従業員で労働組合の執行委員長であるX1及び同副執行委員長であるX2が、Yの経営者の交替により、賃金の引下げや福利厚生関係の廃止等を目指すYと旧時代における労働協約等の存在を背景にYの申入れ等に反対する労働組合との間の関係が緊迫化し、Xら組合幹部は日常の組合業務に加えYに対する抗議行動やYとの団体交渉、不当労働行為救済等の申立て準備などのために忙殺されYの指定する乗務日に乗務することが困難となっていたところ、X1らが業務命令に反してタクシー乗務をしなかったこと等を理由にYから解雇の意思表示がなされたことから、Yに対し、組合活動のための離職については、協約に基づく届を提出し、管理職の承諾を得ていることから解雇に正当な理由はなく、不当労働行為に該当すると主張してYに対し従業員たる地位の保全及び賃金の仮払いを申し立てたケースで、本件労働協約には、〔1〕勤務時間中に組合活動を行うことが「やむを得」ない場合には、〔2〕事前に会社にその旨の届出をした上で会社の承認を受けることを要する旨定めて、この手続を履践している限りにおいて、組合員の労務提供義務を免除していることとしているとし、組合員側で〔1〕の充足を明らかにした上で、事前にその旨を届出てYの承認を求めたにもかかわらずYが合理的理由もなくそれを承認しないような場合には、組合員はYの承認なくして勤務時間中に組合活動を行ったとしても労務提供義務違反を負わないと解するのが相当とした上で、Xらが提出した組合活動離職届の分でYの承認がなかった分についてYがこれを承認しない合理的な理由を見出すことは困難であるなどとしてXらは労務提供義務違反の責めを負わないとし、本件解雇はいずれも解雇理由についての疎明を欠くといわざるを得ず、不当労働行為の成否について判断するまでもなく、解雇権の濫用として無効であるとして、賃金の仮払の申立てについてのみXらの申立てが一部認容された事例。 |
参照法条 | : | 労働基準法2章 民法623条1項 労働基準法89条3号 民法536条2項 |
体系項目 | : | 労働契約(民事) / 労働契約上の権利義務 / 債務の本旨に従った労務の提供 解雇(民事) / 解雇事由 / 業務命令違反 賃金(民事) / 賃金請求権の発生 / 無効な解雇と賃金請求権 |
裁判年月日 | : | 2002年7月22日 |
裁判所名 | : | 大阪地岸和田支 |
裁判形式 | : | 決定 |
事件番号 | : | 平成13年 (ヨ) 115 |
裁判結果 | : | 一部認容、一部却下 |
出典 | : | 労働判例833号5頁 |
審級関係 | : | |
評釈論文 | : | |
判決理由 | : | 〔労働契約-労働契約上の権利義務-債務の本旨に従った労務の提供〕 使用者と労働契約を締結した労働者は、その勤務時間中は当該労働契約の内容に従った労務を提供する義務を負っているから、労働者の組合活動は、原則として勤務時間外に行うべきであって、勤務時間中に組合活動を行うことは、労働者の労務提供義務に違反するものといわなければならない。しかしながら、他方で、労働者は憲法28条に基づく労働基本権が保障されていることに鑑みると、およそ勤務時間中にいかなる組合活動を(ママ)行えないというものではなく、使用者の承諾がある場合や就業規則、労働協約に定めのある場合、慣行上認められている場合には、勤務時間中の組合活動は許されると解され、また、これらの事由に該当しないとしても、組合活動上不可欠あるいは緊急性がある場合には、勤務時間中の組合活動であっても、正当として是認される場合がありうると解するのが相当である。 本件労働協約は、30条において、勤務時間内の組合活動を原則的に禁止する旨定める一方、31条において、勤務時間中に組合活動を行うことが「止むを得」ない場合には、事前に会社にその旨の届出をした上で、会社の承認を受けることを要する旨定めて、この手続を履践している限りにおいて、組合員の労務提供義務を免除することとしている。このように、本件労働協約31条は、〔1〕勤務時間中に組合活動を行うことがやむを得ないものであることと、〔2〕会社に事前に届け出た上で会社の承認を得るという2つの要件を充足することを求めているのであるから、本件において、債権者らが本件労働協約31条に基づく手続を履践したといえるためには、債権者ら側において、上記〔1〕〔2〕の各要件を充足していることを主張立証する責任があるといわなければならない。もっとも、上記〔2〕の要件について、離職を承認するかどうかは会社である債務者の判断に委ねられており、債務者が恣意的に承認するか否かを判断するおそれがあることは否定できないことからすると、債権者らを含むA労組の組合員側において、上記〔1〕の要件を充足していることを明らかにした上で、事前にその旨を届け出て債務者の承認を求めたにもかかわらず、債務者がさしたる合理的な理由もなく組合員側の届出を承認しないような場合には、組合員が債務者の承認なくして勤務時間中に組合活動を行ったとしても、労務提供義務違反の責めを負わないと解するのが相当である。〔中略〕 〔解雇-解雇事由-業務命令違反〕 債権者らによる平成13年4月16日以降の組合活動離職届の提出とこれに対するB営業所の管理職による押印又は自署は、C会社時代からの取扱いが踏襲され、Yになってからの債務者が従前の取扱いをことさら問題視するようなこともなかったことが窺われるが、その後、遅くとも債務者が文書で債権者らに対して就労命令を発するようになった同年7月19日以降からは、従前の取扱いを改め、債権者らが組合活動離職届を提出しても、これを承認しない意思を明確にするようになったということができる。そして、同日以降、債権者らから提出された組合活動離職届に対するB営業所の管理職の押印又は自署は、債権者らの離職を承認するというよりも、むしろ組合活動離職届をB営業所の管理職が受け取ったことを確認する趣旨で押印又は自署したとみられることからすると、同年7月18日までに組合活動離職届が提出され、B営業所の管理職の押印又は自署のある分については、本件労働協約31条に基づく債務者の承認があったといえるものの、同月19日以降の分については、債務者の承認があったと認めることはできないというべきである。 したがって、債権者らは、同年7月18日までに組合活動離職届を提出した分について、労務提供義務違反の責めを負うものではなく、この部分に関する債務者の本件解雇は理由はないというべきである。〔中略〕 〔解雇-解雇事由-業務命令違反〕 審尋の全趣旨によれば、債務者は、経営再建の観点から、当該乗務日に組合活動離職をした者がいる場合には、公休の者の中から乗務を(ママ)希望者を募り、できるだけ遊休車が出ないようにしており、離職者の離職時間が数時間にすぎない場合であっても、乗務すべき車がないとして、結果的にその後タクシー乗務に就くことはできず、債権者らとしては、乗務すべき日に組合活動を行う必要がある場合、たとえ数時間しか組合活動を行う必要がない場合であっても、結局、終日離職せざるを得なかったことが窺われる。 そして、以上の諸事情のほか、A労組は、債務者の債権者らに対する就労命令に対し、書面で就労できない理由を述べていることや、債務者の取締役(前社長)であるDの大阪府地方労働委員会に対する審問調書(〈証拠略〉)において、同人は、債務者の債権者らに対する就労命令について、債権者らが「本当に組合活動で忙しいので、業務につくことができん。」ということを、弁明の機会を与えた時や話し合いの時に述べていた旨供述していることを総合考慮すると、債権者らが平成13年7月19日以降に組合活動離職届を提出した分について、いずれも本件労働協約31条のいう「止むを得」ない事由があったと認めるのが相当である。そして、本件では、債権者らの組合活動離職届の提出に対し、債務者がこれを承認しない合理的な理由を見い(ママ)出すことは困難といわなければならない。〔中略〕 〔解雇-解雇事由-業務命令違反〕 以上検討してきたとおり、債務者の債権者らに対する本件解雇は、いずれも解雇理由についての疎明を欠くといわざるを得ないから、不当労働行為の成否(争点(2))について判断するまでもなく、解雇権の濫用として無効というべきである。〔中略〕 〔賃金-賃金請求権の発生-無効な解雇と賃金請求権〕 解雇期間中の賃金請求権が肯定される場合の賃金額は、当該労働者が解雇されなかったならば労働契約上確実に支給されたであろう賃金の合計額を指し、これら賃金額が労働者の出勤率、出来高、査定等によって異なって算定される場合には、最も蓋然性の高い基準(例えば、従業員の平均額、当該労働者の解雇前の実績)を用いて算定するのが相当である。 |