全 情 報

ID番号 07995
事件名 地位保全等仮処分申立事件
いわゆる事件名 東井運輸事件
争点
事案概要  自動車運送事業等を業とする株式会社Yのトラック運転手であったXが、Yの専務から、取引先からXの態度が非常に悪かった旨のクレームがはいったことについての事実確認を受けるとともに求められた始末書を作成・提出したが、その際、さらに従前からのXの業務態度の悪さを指摘されるとともに退職届の用紙を渡され、それを提出するよう促されたところ、結局、Yの事務所内で退職届を作成し、専務らに対して提出したが、この退職の意思表示は、Yの専務らの強迫によりしたものであったからその後の団体交渉の際に取消しの意思表示をした、又は錯誤により無効であると主張して、Yに対し、労働契約上の地位を仮に定めること及び賃金相当額の賃金の仮払いを申立てたケースで、本件退職の意思表示は強迫、又は錯誤によるものではないとして申立てが却下された事例。
参照法条 民法95条
民法96条
体系項目 退職 / 退職願 / 退職願と錯誤
退職 / 退職願 / 退職願と強迫
裁判年月日 2002年7月31日
裁判所名 大阪地
裁判形式 決定
事件番号 平成14年 (ヨ) 10043 
裁判結果 却下
出典 労経速報1817号16頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔退職願と強迫〕
 認定の事実からすると、専務及び常務が、債権者に対し「これを書くまで帰るな」等と言っていたとの事実は認められるものの、債権者は、債務者事務所の出入り口に最も近い位置におり、携帯電話に電話がかかると、専務らに「電話切れ」「電話すんな」「表出るな」と怒鳴られながらも同事務所から出て、外で組合委員長らと携帯電話で話をしたことからすると、債権者が退職届を作成するまで債務者事務所に閉じこめられ、出ることができない状況にあったということはできないし、怒鳴られたために恐怖心を生じたということもできない。なお、(1)認定の事実に加えて、仮に、債権者が主張するように、債務者が平成一四年一月以前に暴力団を使って従業員から金員を脅し取ろうとしたことがあるとの事実が認められたとしても、これらの事実をもってただちに、債務者が、債権者に対し、暴力団を使って債権者の家族に危害を加える旨恐怖心を生じさせるような行為をしたということはできない。
 よって、本件退職の意思表示が債務者の強迫に基づくということはできない。
〔退職願と錯誤〕
 争点(2)(錯誤に基づく意思表示かどうか)について
 債権者が本件退職の意思表示をした経緯は前記1(1)認定のとおりであるところ、債権者が、その内心において「退職届は有効ではない」と思っていたことの疎明はないし、債権者がこのような動機を明示ないし黙示に債務者に対して表示したことの疎明もないのであるから、債権者の主張を採用する余地はない。