ID番号 | : | 07996 |
事件名 | : | 損害賠償等請求事件 |
いわゆる事件名 | : | 名海運輸作業事件 |
争点 | : | |
事案概要 | : | 港湾運送事業等を業とする会社Yの従業員(A・B)ら運輸会社でトレーラー運転手であったXがXのトレーラーへの鋼材の積み込み作業を行った際、機械操作のミスによりXが重症・後遺障害を負ったことから、当該従業員らの使用者であるYに対して使用者責任(民法七一五条一項)に基づく損害賠償の支払を請求したケースで、Xが受傷したのはAの誤操作あるいはBの間違った指示によるものと認めるのが相当であり、この点につきA・Bには過失があり、Aらの上記行為はYの業務執行についてなされたものと認められるから、その使用者であるYには本件事故によるXの損害を賠償する責任があるといわねばならないとしたうえで、本件の諸事情を総合考慮した結果、本件後遺障害(左腎臓亡失、腸管癒着、自律神経障害、C型肝炎)によるXの労働能力喪失率は、少なくとも基準通達所定の障害等級五級のそれである七九%を下らないと認めるのが相当である(また症状固定後のXの労働能力が上記の程度であることからすれば、症状固定前の段階においても、Xには、これと同等以上の労働能力の喪失状態が継続していたと認めるのが相当であり、これを前提にXの休業損害を算定するのが妥当である)とした結果、Xの損害は約四三九八万円(休業損害約四九七万、後遺傷害逸失利益約一一九五万のほか、入通院慰謝料、後遺傷害慰謝料等)とされたが、労災保険法上の障害補償年金は、これと同一の事由の関係にある消極損害に対してのみ損害の補填となるとして、支給の確定した障害補償年金額(約六六五万円)について控除がなされ(なお支給が未確定の将来の年金は損害額から控除できず、また老齢厚生年金・特別支給金は、使用者又は第三者の損害賠償義務との調整規定を欠き、損害の填補としての性質を有するものではないとして控除の対象とならないとされた)、右控除後の額についてXの請求が認容された事例。 |
参照法条 | : | 民法715条 労働基準法84条2項 |
体系項目 | : | 労働契約(民事) / 労働契約上の権利義務 / 安全配慮(保護)義務・使用者の責任 労災補償・労災保険 / 損害賠償等との関係 / 労災保険と損害賠償 |
裁判年月日 | : | 2002年8月6日 |
裁判所名 | : | 名古屋地 |
裁判形式 | : | 判決 |
事件番号 | : | 平成12年 (ワ) 2295 |
裁判結果 | : | 一部認容、一部棄却(控訴) |
出典 | : | 労働判例835号5頁 |
審級関係 | : | |
評釈論文 | : | 西村健一郎・月刊ろうさい54巻3号4~7頁2003年3月/中災防安全衛生関係裁判例研究会・働く人の安全と健康4巻9号88~92頁2003年9月 |
判決理由 | : | 〔労働契約-労働契約上の権利義務-安全配慮(保護)義務・使用者の責任〕 認定の事実によれば、本件事故当時は、本件スラブを積載予定位置の上方で停止させ、降下に支障がないのを調べたうえ、Bの確認で原告が降下を了承する返事をしていたなど、まさに本件スラブを番木の上に最終的に降ろす段階だったと認められる。 したがって、にもかかわらず、本件スラブが前進して原告が受傷したのは、Bから降下の合図が出たのに、前示岸壁での作業の経験の浅いAが前進の合図と取り違える等して誤った操作をしたか、又はBが間違って前進の合図を出したことによるものと認めるのが相当であり、AないしBには、上記の点につき過失があると認められる。 そして、前示(1)認定の事実によれば、Aらの上記行為は被告の業務執行についてなされたものと認められるから、その使用者である被告には、本件事故による原告の損害を賠償する責任があるといわねばならない。〔中略〕 前示2(1)〔3〕認定のとおり、原告は、C会社に復職後、従前就いていた大型トレーラー運転手の勤務に従事することができなくなり、事故後の新しい職種による給与とトレーラー運転手当時の給与との差額相当額について、本件差額支払【2】を受けていたものであるところ、前示2(4)〔3〕判示の事情も考慮すれば、同差額支払は、C会社が損害の填補として行なっていたものと認めることができるから、本件支払打切り後は、原告は、上記差額相当額について休業損害として賠償を請求できるというべきである。〔中略〕 入通院慰謝料(請求1000万円) 900万円 本件事故の態様・結果、本件傷害の内容・程度、治療の経過、入通院期間等のうち一般的事情のほか、(a)原告に本件事故発生につき過失がなく、また傷害の内容が非常に重篤で、まさに一命を取り留めたというべき状態だったことや、(b)他方、被告が事故後十分謝罪の意思を明らかにしなかったこと、(c)並びにこれらに加えて、前示2(5)〔3〕末尾判示の事情及び被告代理人において治療の必要性等に関し過度に攻撃的な尋問を行ない、原告本人の精神的苦痛を不必要に増加させていることも考慮すれば、上記の金額が適切というべきである。〔中略〕 不法行為による損害賠償請求権は、被害者が現実に損害及び加害者を知った時点から進行を開始するところ、1回だけの不法行為によって発生する損害は、これが更にいくつかの損害費目から構成される場合であっても、継続的不法行為に基づく損害と異なり、1個の損害を構成しているというべきであるから、その損害を知ったといえる同一の時点から、全体の賠償請求権が消滅時効の進行を開始すると解するのが相当である。 そして、通常は上記のような損害費目の一部でも現実に知った場合、被害者は、これによって全体の損害の発生を推知し、その内容を調査することができるから、上記損害を知ったというを妨げないが、これに対し、損害費目の一部の発生を知っただけでは、他の損害費目が発生するか否か及びその内容・数額を知り得ない場合には、上記理解は当てはまらないのであって、特段の事情のない限り、このように予測困難な損害費目の有無・内容等が判明した時点において、初めて損害を知ったというのが相当である。 (2) これを本件についてみるに、前示3掲記の各損害のうち、付添看護費用と入院雑費は、少なくとも最後の入院が終わる時点までは、その内容・数額を予測することはできないところ、前示2(3)第2段に認定のとおり、原告の腸管癒着剥離手術等においては、手術の効果を見極めるのが困難であり、最終の入院がどれになるかについても、当該時点で一義的判断をすることは容易ではない。また休業損害、入通院慰謝料、後遺障害逸失利益、後遺障害慰謝料は、症状固定の時点までは、その内容を予測することが困難だったというべきである。 したがって、本件事故に基づく原告の全損害は、症状固定の時点から消滅時効が進行すると解すべきところ、原告の症状が固定したのは、前示2(3)認定のとおり平成11年9月16日であり、一方本訴が提起されたのは、それから3年以内である前示第2、1(9)の平成12年5月19日であるから、被告の消滅時効の主張は容易に採用できないといわねばならない。 〔労災補償・労災保険-損害賠償等との関係-労災保険と損害賠償〕 労災保険法上の障害補償年金による損害の填補について検討するに、同年金給付は、これと同一の事由の関係にある損害費目を填補することができるところ(労災保険法12条の4、64条)、障害補償年金は、これと同一の事由の関係にある消極損害に対してのみ損害の填補となるというべきである。また、同給付が年金であることからすれば、その支給が確定しない将来の年金については、これを損害から控除することはできず、口頭弁論終結時までに支給が確定した部分に限り損害の填補と扱うことが許されるところ、平成11年10月から支給が開始された前示年金のうち、本件口頭弁論が終結した平成14年3月19日までに支給が確定した金額を正確に確定するだけの証拠はないが、上記両時点の間に約2年6か月近くが経過していることからすれば、少なくとも上記支給が確定した金額は、前示第2、1(8)(ア)(a)の障害補償年金年額266万1900円の2年6か月分を下らないと認めることができ、これを計算すると665万4750円となる。 したがって、更にこれを前示3(7)の損害合計4398万3325円(うち、休業損害及び後遺障害逸失利益の合計1693万1325円)から控除すると、残額は3732万8575円(うち、休業損害及び後遺障害逸失利益の残額は合計1027万6575円)となり、被告には、同額及びこれに対する(原告請求のとおり)本件事故の翌日である昭和61年7月23日から支払済まで民法所定の年5分の割合による遅延損害金を支払う義務がある。 |