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ID番号 08011
事件名 損害賠償請求事件
いわゆる事件名 フレックスジャパン・アドバンテック事件
争点
事案概要  特定労働者派遣事業を営む株式会社Xが、元従業員で幹部職にあったY1~Y4らが、X在職中及び退職後にわたって、同業の株式会社Y5と共謀して、違法な方法によりXの派遣スタッフを大量に引き抜いた(八〇名が退職し、そのほとんどが翌日にY5会社に入社し、X在職、Y1~Y4らもY5あるいはY5が業務委託契約を締結している外注取引先会社A社に入社している)と主張して、〔1〕Y1~Y4に対し雇用契約上の誠実義務に違反した債務不履行責任又は不法行為責任に基づく損害賠償を請求し、〔2〕Y5に対し、Y1~Y4らと連帯して、引き抜き行為によってXが被った損害賠償を請求したケース。; 〔1〕については、Y1及びY2については、その地位、立場からすれば、突然Xを退職すれば、業務運営に支障が生じることを認識していたと推認されるが、Y5又はA社への就職が内定していながら、これをXに秘し、突然Xに対して退職届を提出、何ら引継ぎ事務も行わず、Xの派遣スタッフに対してXの営業所が閉鎖されるなどと虚偽の情報を伝え、金銭供与をするなどしてY5への転職を勧誘し、そのままX在職中と同じ派遣先企業への派遣を約束するなどしてXの受ける影響について配慮することなく引き抜き行為を行ったのであり、その態様は計画的かつ極めて背信的であるとしたうえで、これらの行為は単なる転職の勧誘にとどまらず、社会的相当性を著しく逸脱した違法な引き抜き行為であり、従業員としての誠実に職務を遂行すべき義務に違反するもので債務不履行ないし不法行為に該当するばかりでなく、元従業員としても著しく社会的相当性を逸脱した方法による勧誘行為であって不法行為に該当するとし、〔2〕についても、Y1及びY2と共謀して、単なる転職勧誘の範囲を超え、社会的相当性を著しく逸脱して引き抜き行為を行ったものというべきであり、不法行為に基づきY1及びY2と連帯して損害賠償責任を負うとし、新たな派遣先企業を獲得し、あるいは派遣先企業における派遣スタッフ数を回復するまでの期間に生じた損害は違法な引抜き行為と相当因果関係があるというべきであるとして、請求が一部認容された事例。
参照法条 民法709条
民法415条
体系項目 労働契約(民事) / 労働契約上の権利義務 / 使用者に対する労災以外の損害賠償
労働契約(民事) / 労働契約上の権利義務 / 安全配慮(保護)義務・使用者の責任
裁判年月日 2002年9月11日
裁判所名 大阪地
裁判形式 判決
事件番号 平成13年 (ワ) 3053 
裁判結果 一部認容、一部棄却(確定)
出典 労働判例840号62頁
審級関係
評釈論文 山下昇・法政研究〔九州大学〕70巻2号185~194頁2003年10月
判決理由 〔労働契約-労働契約上の権利義務-使用者に対する労災以外の損害賠償〕
 被告Y1及び被告Y2についての雇用契約上の債務不履行又は不法行為責任
 ア 従業員は、使用者に対し、雇用契約に付随する信義則上の義務として就業規則を遵守するなど雇用契約上の債務を誠実に履行し、使用者の正当な利益を不当に侵害してはならない義務を負い、従業員がこの義務に違反した結果、使用者に損害を与えた場合は、これを賠償すべき責任を負うというべきである。
 そして、労働市場における転職の自由の点からすると、従業員が他の従業員に対して同業他社への転職のため引き抜き行為を行ったとしても、これが単なる転職の勧誘にど(ママ)どまる場合には、違法であるということはできない。仮にそのような転職の勧誘が、引き抜きの対象となっている従業員が在籍する企業の幹部職員によって行われたものであっても、企業の正当な利益を侵害しないようしかるべき配慮がされている限り、これをもって雇用契約の誠実義務に違反するものということはできない。しかし、企業の正当な利益を考慮することなく、企業に移籍計画を秘して、大量に従業員を引き抜くなど、引き抜き行為が単なる勧誘の範囲を超え、著しく背信的な方法で行われ、社会的相当性を逸脱した場合には、このような引き抜き行為を行った従業員は、雇用契約上の義務に違反したものとして、債務不履行責任ないし不法行為責任を免れないというべきである。そして、当該引き抜き行為が社会的相当性を逸脱しているかどうかの判断においては、引き抜かれた従業員の当該会社における地位や引き抜かれた人数、従業員の引き抜きが会社に及ぼした影響、引き抜きの際の勧誘の方法・態様等の諸般の事情を考慮すべきである。
 また、従業員が勤務先の会社を退職した後に当該会社の従業員に対して引き抜き行為を行うことは原則として違法性を有しないが、その引き抜き行為が社会的相当性を著しく欠くような方法・態様で行われた場合には、違法な行為と評価されるのであって、引き抜き行為を行った元従業員は、当該会社に対して不法行為責任を負うと解すべきである。〔中略〕
 被告Y1及び被告Y2は、原告金沢営業所の責任者というべき地位にあり、その営業活動において中心的な役割を果たすいわゆる幹部社員であったということができる。そして、このような地位にある者であれば、管轄する地区の営業状況については十分これを把握しているはずであるし、現に被告Y1は自分が原告を退職すれば自分についてくる派遣スタッフもいると思っていた。(被告Y1本人)のであるから、被告Y1及び被告Y2は、同被告らが突然原告を退職すれば、更に派遣スタッフが一斉に原告を退職することとなり、その結果、原告の業務運営に支障が生じることを認識していたものと推認される。ところが、被告Y1及び被告Y2は、原告在職中に被告会社又はティ・ディ・シーへの就職が内定していながらこれを原告に秘し、突然原告に対して退職届を提出した上、退職に当たって何ら引継ぎ事務も行わず、また、原告の派遣スタッフに対して原告の営業所が閉鎖されるなどと虚偽の情報を伝え、金銭供与をするなどして被告会社への転職を勧誘し、しかも、そのまま原告在職中と同じ派遣先企業への派遣を約束するなどして原告が顧客先企業への派遣スタッフを喪失することなどにより受ける影響について配慮することなく引き抜き行為を行ったのであって、その態様は計画的かつ極めて背信的であるといわなければならない。
 そして、これらの事情からすると、被告Y1及び被告Y2のA社及びB社への派遣スタッフに対する勧誘行為は、単なる転職の勧誘にとどまらず、社会的相当性を著しく逸脱した違法な引き抜き行為であり、従業員として誠実に職務を遂行すべき義務に違反するもので、債務不履行ないし不法行為に該当するばかりでなく、元従業員としても著しく社会的相当性を逸脱した方法により行った勧誘行為であって、不法行為に該当するというべきである。したがって、被告Y2及び被告Y1は、上記引き抜き行為によって原告に生じた損害を連帯(不真正連帯)して賠償する義務を負う。〔中略〕
〔労働契約-労働契約上の権利義務-安全配慮(保護)義務・使用者の責任〕
 企業が同業他社の従業員に対して自社へ転職するよう勧誘するに当たって、単なる転職の勧誘の範囲を超えて社会的相当性を逸脱した方法で従業員を引き抜いた場合、当該企業は、同業他社の雇用契約上の債権を侵害したものとして、不法行為責任に基づき、引き抜き行為によって同業他社に生じた損害を賠償する義務があるというべきである。