ID番号 | : | 08012 |
事件名 | : | 賃金仮払仮処分命令申立事件 |
いわゆる事件名 | : | 佐野第一交通(差額賃金仮払)事件 |
争点 | : | |
事案概要 | : | タクシー会社Yの従業員で組合員でもあるXら五七名が、Yが労働協約(基本協約)に基づき締結されていた月例賃金及び賞与に関する協定書(本件労働協約)による賃金体系(月例賃金と賞与を合わせて各人の月間営業収入の六二・五%を支給する)を変更し、新賃金体系を定めた新就業規則(各人の月間営業収入に応じて支給率を定め、それを四〇万円未満の場合は四五%、五〇万円未満の場合は五四%、六〇万円未満の場合は六一%とする)を定め、組合の意見書を添付して労働基準監督署に届出をし、当月から新賃金体系に基づく賃金を支給したものの、本件労働協約を破棄する旨を文書で通告されたのは、その約二か月後であったところ、これに関してXらの一部らが求めた旧賃金体系に基づく賃金と差額賃金の仮処分命令の申立てが認容され、また本訴提起でも和解が成立し、就業規則改訂月から約六か月分についてYが右差額相当分の解決金を支払うことなどを内容とする和解が成立しその金員が支払われたが、それ以降の賃金については新賃金体系による賃金しか支払われなかったことから、和解金が支払われた以降の期間について、Yに対し、従来の賃金体系による賃金支払請求権がある旨を主張して、その差額賃金支払の仮払いを申し立てたケース。; 本件労働協約は期間の定めのないものと解するのが相当であり、Yが組合に対し、文書により破棄する旨を通知したことにより、それから九〇日の経過をもって解約され執行したものといえるとしたうえで、労働協約終了後も労働関係を継続していく労働契約当事者の合理的意思は、就業規則等の補充規範があればそれに従い、依るべき補充規範がないときには、新たな労働協約が成立するか、新たな就業規則の制定による労働条件の合理的な改訂が行われるまでの間は暫定的に従来の労働協約上の労働条件に従うことにあると解されるところ、本件においては依るべき補充規範がないから(Yが補充規範として主張する新就業規則は、もともと本件労働協約に反して無効であったのであり、本件労働協約が失効したからといってその効力が当然に復活することにはならない)、本件については従前の本件労働協約の定めていた旧賃金体系等の労働関係が暫定的に継続しているものと解すべきとして、差額賃金の一部について仮払いが命じられた事例(なおXらの一部については、差額賃金請求権が認められないとして申立てが却下)。 |
参照法条 | : | 労働基準法92条 |
体系項目 | : | 就業規則(民事) / 就業規則と協約 |
裁判年月日 | : | 2002年9月13日 |
裁判所名 | : | 大阪地岸和田支 |
裁判形式 | : | 決定 |
事件番号 | : | 平成14年 (ヨ) 38 平成14年 (ヨ) 58 |
裁判結果 | : | 一部認容、一部却下 |
出典 | : | 労働判例837号19頁/労経速報1830号9頁 |
審級関係 | : | |
評釈論文 | : | |
判決理由 | : | 〔就業規則-就業規則と協約〕 本件労働協約は、有効期間についての定めを置いていないこと、平成9年9月以降、本件労働協約に定める労働関係と同内容の労働関係が継続してきたこと、それ以降、文書でもって新たな労働協約が締結されたことはないこと、本件労働協約が平成9年分限りのものとすると平成10年以降は基本協約13条の「別に定める協約」がないという不合理が生じることなどに照らせば、本件労働協約は、平成9年分限りのものではなく、期間の定めのないものと解するのが相当である。 そうすると、本件労働協約は、債務者会社が、平成13年7月4日に、組合に対して、文書により破棄する旨を通告したことにより、それから90日の経過をもって解約され、失効したものといえる(労働組合法15条)。 イ しかし、本件においては、なお、従前の本件労働協約の定めていた旧賃金体系等の労働関係が、暫定的に継続しているものと解すべきである。 なぜなら、労働協約の終了後も労働関係を継続していく労働契約当事者の合理的意思は、就業規則等の補充規範があればそれに従い、依るべき補充規範がない場合には、新たな労働協約が成立したり、新たな就業規則の制定による労働条件の合理的改定が行われたりするまでの間は、暫定的に従来の労働協約上の労働条件に従うことにあると解されるところ、本件においては、依るべき補充規範がないからである。 この点につき、債務者会社は、補充規範として新就業規則がある旨を主張しているが、もともと新就業規則は本件労働協約に反して無効だったのであり、本件労働協約が失効したからといって、その効力が当然に復活することにはならないから、上記主張は採用できない。そして、本件労働協約が平成13年10月に失効して以降、組合との交渉を尽くした上での意見聴取や労働基準監督署への届出等の正規の手続きを経て新たに就業規則が定められたことはない(本件労働協約の失効という状況の変化を踏まえて、債務者会社と組合との間で正式な交渉がされたということすら窺われない。)。 したがって、債務者会社と組合との間で新たな労働協約が締結されるか、新たな就業規則の制定により労働条件の合理的改定が行われるまでの間は、労働契約当事者の合理的意思として、従前の労働条件(旧賃金体系)が存続する。 |