全 情 報

ID番号 08013
事件名 地位保全等仮処分申立却下決定に対する抗告事件
いわゆる事件名 安川電機八幡工場(パート解雇)事件
争点
事案概要  電気機械器具の製造・販売等を主な事業目的とする会社Yに期間雇用労働者として雇用され一〇年以上の期間にわたり契約更新してきた短時間契約従業員(パートタイマー)X1ら二名が、Yから契約期間の途中で整理解雇されたこと(他のパートタイマーも解雇されている)から、Yに対し、本件解雇は、〔1〕解雇予告義務に違反し、〔2〕不当労働行為に該当し、〔3〕解雇理由が存在せず、解雇権の濫用であるから、無効であると主張して、労働契約上の地位保全及び賃金の仮払いの仮処分を申し立てたケースの抗告審。; 原審はX1らの申立てを却下していたが、抗告審は、〔1〕Yには解雇予告義務違反は認められず、また〔2〕X1らは、解雇予告に納得できなかったため、労働組合の支部を結成したのであることから、X1らが支部を結成し労働組合運動をしたことを理由とするものではないことは明らかであって、本件解雇は不当労働行為に該当しないが、〔3〕本件のような期間の定めのある労働契約の場合は、民法六二八条により原則として解除はできず、やむことを得ざる事由があるときに限り、期間内解除ができるにとどまり、就業規則の解雇事由の解釈にあたっても、当該解雇が三か月の雇用期間の途中でなされなければならないほどの、やむを得ない事由の発生が必要であるというべきであるとしたうえで、Yの業績悪化が急激であったとしても、労働契約締結から五日後に、三か月の契約期間終了を待つことなく解雇しなければならないほどの予想外かつやむを得ない事態が発生したと認めるに足りる疎明資料はなく、Yは労働契約更新についての責任は負わなければならないというべきであり本件解雇は無効であるとしたが、被保全の権利については、本件解雇が無効であるとしてもX1らの雇用期間の終期をむかえた現時点では既に労働契約は終了していることになるとしつつ、本件では長期にわたり雇用期間を多数回にわたり更新してきたことからすれば、Yが契約更新しなかったことについて解雇に関する法規制が類推適用される余地があり、Yの労働契約を終了させた理由が合理的であって、社会通念上相当なものとして是認できれば被保全権利が存在するとしたうえで、X2については、整理解雇の四要件のうち被解雇者選定の点が妥当ではないから、仮の地位を定める仮処分についての被保全の権利の存在が一応疎明されており、結局、現時点での労働契約上の権利を有すること及び本件解雇の翌日以後の賃金請求権の存在が一応疎明されており保全に必要性も認められるとして、労働契約上の地位保全の仮処分及び本件解雇の翌日以後本案第一審判決言渡しに至るまでの賃金の仮払処分を認めたが、X1については、整理解雇の四要件をすべて充足しているから、結局、本件解雇の翌日から労働契約期間満了までについてのみその賃金の請求権の存在が一応疎明されているとして、その期間についての賃金の仮払仮処分を認めた事例。
参照法条 労働基準法2章
民法628条
民法1条3項
体系項目 解雇(民事) / 解雇事由 / 已ムコトヲ得サル事由(民法628条)
解雇(民事) / 短期労働契約の更新拒否(雇止め)
解雇(民事) / 整理解雇 / 整理解雇の要件
解雇(民事) / 整理解雇 / 整理解雇基準・被解雇者選定の合理性
裁判年月日 2002年9月18日
裁判所名 福岡高
裁判形式 決定
事件番号 平成14年 (ラ) 124 
裁判結果 一部認容(原決定変更)、一部却下
出典 労働判例840号52頁
審級関係
評釈論文 平田秀光・労働法律旬報1561号56~59頁2003年10月10日
判決理由 〔解雇-解雇予告-解雇予告違反と不法行為〕
 相手方は、同年6月27日ころ、上記解雇予告をしたパートタイマー従業員全員に、「パート退職願い」用紙を配布して、これに記入・押印して提出するよう指示したことが認められるが、その際、退職理由欄には「会社都合」と記入するよう指示しており、「パート退職願い」用紙を配布したことをもって、上記通告が退職勧奨であって、解雇予告ではないとは認められない。また、(証拠略)によれば、相手方と支部との団体交渉の過程で、相手方が上記「退職願い」の提出をもって解雇を受け入れたものと判断する旨発言したことは認められるが、同発言をもって、解雇予告を撤回したものとは認められないし、その他、相手方が、解雇予告を撤回したと認めるに足りる疎明資料はない。したがって、相手方に解雇予告義務違反は認められない。
〔解雇-解雇事由-已ムコトヲ得サル事由(民法628条)〕
 抗告人らは、雇用期間を各3か月と定めて雇用された従業員であり、平成13年6月20日ころ、相手方との間で、同月21日から同年9月20日までの期間を定めた労働契約を締結しているところ、このように期間の定めのある労働契約の場合は、民法628条により、原則として解除はできず、やむことを得ざる事由ある時に限り、期間内解除(ただし、労働基準法20,21条による予告が必要)ができるにとどまる。したがって、就業規則9条の解雇事由の解釈にあたっても、当該解雇が、3か月の雇用期間の中途でなされなければならないほどの、やむを得ない事由の発生が必要であるというべきである。ところで、後記のとおり、相手方の業績は、本件解雇の半年ほど前から受注減により急速に悪化しており、景気回復の兆しもなかったものであって、人員削減の必要性が存したことは認められるが、本件解雇により解雇されたパートタイマー従業員は、合計31名であり、残りの雇用期間は約2か月、抗告人らの平均給与は月額12万円から14万5000円程度であったことや相手方の企業規模などからすると、どんなに、相手方の業績悪化が急激であったとしても、労働契約締結からわずか5日後に、3ケ(ママ)月間の契約期間の終了を待つことなく解雇しなければならないほどの予想外かつやむをえない事態が発生したと認めるに足りる疎明資料はない。相手方の立場からすれば、抗告人らとの間の労働契約を更新したこと自体が判断の誤りであったのかもしれないが、労働契約も契約である以上、相手方は、抗告人らとの間で期間3か月の労働契約を更新したことについての責任は負わなければならないというべきである。したがって、本件解雇は無効であるというべきである。〔中略〕
〔解雇-短期労働契約の更新拒否(雇止め)〕
 抗告人らが14~17年間もの長期にわたって、3か月ずつの雇用期間を多数回にわたって更新してきたことからすれば、相手方が抗告人らとの間の労働契約を更新しなかったことについて、解雇に関する法規制が類推適用される余地があるというべきである。〔中略〕
〔解雇-整理解雇-整理解雇の要件〕
 以上の事実によれば、抗告人らが、雇用期間3か月で、勤務時間も正規社員より短いパートタイマー従業員であり(証拠略)、八幡工場においては、パートタイマー従業員数は、相手方の業績に応じて短期間にかなり変動していること(証拠略)も考慮すれば、以下のとおり、本件においては、いわゆる整理解雇の4要件の内、人員削減の必要性、解雇回避努力、手続の妥当性の3要件は満たされていると一応判断することができる。〔中略〕
〔解雇-整理解雇-整理解雇基準・被解雇者選定の合理性〕
 被解雇者選定の妥当性について検討するに、相手方が設定した前記(2)エの被解雇者の選定基準自体には、合理性が認められるというべきである。
 そして、(証拠略)によれば、抗告人X1は、出勤率は84.23パーセントでその所属班(同班の被解雇者の割り当ては3名)の4番目に悪かったほか、無断欠勤や無断遅刻があり、これまでにも上司に注意をされたが是正されていなかったことが認められるから、上記選定基準に該当し、相手方が抗告人X1を選定したことに違法は認められない。
 しかし、抗告人X2については、(証拠略)によれば、出勤率で40名のリストに登載されたことは認められるものの、その率は90.40パーセントで所属班(同班の被解雇者の割り当ては3名)の7番目であり、率、順位ともそう高くないところ、相手方が主張する抗告人X2の勤務態度や協調性の問題点については、時期、態様等について具体的な主張がなく、これを疎明するに足りる客観的な資料や他の候補者との比較資料の提出もなく、さらに、相手方が、当初、抗告人X2に対して年齢とか勤務状況であると答え、その後も具体的な理由は明確にされていなかったこと(証拠略)に照らし、抗告人X2が選定されたことが妥当であると認めるに足りる疎明はないというほかない。したがって、抗告人X2については、仮の地位を定める仮処分についての被保全権利の存在が一応疎明されているというべきである。