全 情 報

ID番号 08015
事件名 地位確認等請求事件
いわゆる事件名 渡島信用金庫(降格・降職・配転)事件
争点
事案概要  信用金庫Y1の従業員で組合員でもあるXが、Y1から始末書三通を徴されたことから降格、減給とされ、その後も、始末書三通及び顛末書一通を徴されたことから降格、減給とされるとともに、本店本部の審査部管理課長から砂原支店次長に配転され、更に今金支店次長から函館支店次長に配転された後、資格を管理事務職から一般事務職へ、職位も支店次長から一般職員にそれぞれ降格・降職されたうえ(本件降格行為・本件降職行為)、別の支店に配置転換され(本件配転行為)、本給の切下げ及び役職手当の無配(約四万五千円)、住宅手当も減額(約二万円から一万三〇〇〇円へ)など(本件減給行為)の処遇を受けたことから、右処遇は人事権の濫用に当たり無効であると主張して、Y1に対し、函館支店において勤務する地位にあること及び従前の資格・職位にあること等の確認及び従前の賃金との差額の支払を求めるとともに本件処遇それ自体及びその際のY1の対応はその代表者であるY2及びY3によりなされた違法行為であったとしてY1らに対し慰謝料の支払を請求したケース。; 〔1〕本件降格及び降職行為については、本件降格、降職行為等が人事権の行為としての裁量権を逸脱しているかどうかを判断するに当たっては、使用者としてのY1における業務上、組織上の必要性の有無及び程度、労働者としてのXの受ける不利益の性質及びその程度、Y1における降格、降職等の運用状況等の事情を総合考慮すべきであるとしたうえで、Y1による本件降格行為は、なお人事権の行使としてその裁量を逸脱したものとまで評することができず権利濫用と断ずることはできない、また本件降職行為も権利濫用とはいえないから、有効としたが、〔2〕配転行為の効力については、職場の秩序と士気を保つ必要等の事情からXを他の支店に配転させる点での必要性自体は認めることができるものの、Xを降格・降職させる以上、Y1による不当労働行為であると推認するのが相当であるとして無効であるとし、〔3〕本件減給行為については、まず本件では人事権行使による降格に伴う減給については明確な定めを欠くものといわざるを得ないとしつつ、Y1での給与規定の趣旨似たらせば資格規定における資格と給与規程における等級との剥離を商事させておくべきではないと解されるから、本件では、昇格に関する規定を降格の場合にも類推適用して、いわば漸減的に減給されると解するのが相当であるとして、そのような方法によらない本件減給行為(本給部分)はいずれも無効であるとして未払賃金の請求が一部認容され、慰謝料請求についても、本件でY2及びY3の行った指示等(部課長一〇名ほどの面前でY2から嘘をつく職員は使えないなどと叱責されたこと、Y2及びY3の指示に基づき、以降、本件処遇により転勤するに至るまで函館支店における通常業務からはずされ就業規則等を読む作業に専念するよう余儀なくされたこと等)は業務命令権ないし労務指揮権の濫用として違法であるといわざるを得ず、これら一連の行為によりXは精神的な人格的利益を侵害されたものと認められるとして、二〇万円についてXらの請求が認容された事例。
参照法条 労働基準法2章
労働組合法7条
民法1条3項
労働基準法3章
体系項目 労働契約(民事) / 人事権 / 降格
配転・出向・転籍・派遣 / 配転命令権の濫用
賃金(民事) / 賃金請求権と考課査定・昇給昇格・降格・賃金の減額
裁判年月日 2002年9月26日
裁判所名 函館地
裁判形式 判決
事件番号 平成12年 (ワ) 303 
裁判結果 一部認容、一部棄却(控訴)
出典 労働判例841号58頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔労働契約-人事権-降格〕
 本件降格、降職行為等が人事権の行使としての裁量権を逸脱しているかどうかを判断するに当たっては、使用者としての被告Y1における業務上、組織上の必要性の有無及び程度、労働者としての原告の受ける不利益の性質及びその程度、被告Y1における降格、降職等の運用状況等の事情を総合考慮すべきである。〔中略〕
 本件降格行為は、これが原告に及ぼす不利益が著しいものでない限り、人事権の行使としてなお裁量の範囲内にあると解するのが相当であるところ、争点(2)についての後記判断のとおり、本件降格が直ちに原告の減給につながるものではなく、原告の生活に格別不利益を与えることはない一方で、本件降格行為は、被告Y1の地域に根ざした金融機関として性質上、その組織を維持し、これを円滑に機能させるためにやむを得ない面があったものというべきである。もっとも、原告は管理職でなくなれば管理職手当が得られなくなるところ、これは業務の種類・態様が異なることによる当然の事態であり、原告は管理職でなくなればその責任も軽減され、職務自体の質も軽減されるのであるから、この点の不利益をことさら重視することはできない。以上の諸事情を併せ考慮すれば、被告Y1による本件降格行為は、これがなされた経緯に照らすと、その相当性に疑問の余地なしとまではいえないものの、なお人事権の行使としてその裁量を逸脱したものとまでは評することができず、権利濫用と断ずることはできないというほかはない。〔中略〕
〔配転・出向・転籍・派遣-配転命令権の濫用〕
 本件配転行為の効力について検討するに、原告を管理職から一般職員に降格、降職させる以上、職場の秩序と士気を保つ必要等の事情から原告を降格、降職前の職場である函舘支店より他の支店に配転させる点での必要性自体は認めることができる。しかしながら、原告を北桧山支店に配転した行為は、次の理由に照らせば被告Y1による不当労働行為であると推認するのが相当であり、したがってこれは無効であると解すべきである。〔中略〕
〔賃金-賃金請求権と考課査定・昇給昇格・降格・賃金の減額〕
 重要な労働条件の不利益変更である賃金の引き下げについて明確な規定が欠缺する以上、被告Y1では人事権行使による降格に伴って減給することはないと解する余地もあるが、給与規程22条及び23条の趣旨に照らせば、資格規程における資格と給与規程における等級との剥離を生じさせておくべきではないと解されるから、本件では、原告が主張するように、同規程31条を降格の場合にも類推適用して、いわば漸減的に減給されると解するのが相当である。よって、これに従い、同条の規定を降格、減給する場合に置き換えて、人事権行使により降格した場合の本給は、「降格直前に受けていた号数に対応する基本給及び加給月額と同額の基本給及び加給月額が昇格した等級にある場合にはその額に対応する号数」、「降格直前に受けていた号数に対応する基本給及び加給月額と同額の基本給及び加給が降格した等級にない場合には、降格直前に受けていた基本給及び加給月額の直近下位の額に対応する号数」によって算定する方法を適用するのが相当である。そうすると、同方法によらない平成9年1月6日付け、同年6月30日付け及び本件減給行為(本給部分)はいずれも無効であり、この点に関する被告Y1の主張は採用できない。