ID番号 | : | 08016 |
事件名 | : | 退職金請求事件 |
いわゆる事件名 | : | 加藤建設事件 |
争点 | : | |
事案概要 | : | 土木一式工事等を業務目的とする株式会社Yに年俸制の給与で採用され、その後月給制となり、在職一〇年四か月、満六三歳の定年により、Yを退職したXが、YではXの在職中(月給制になる前)に定年年齢を五八歳から六〇歳に延長したことに伴い、退職金規定を改正し、退職金は五八歳時の基礎額ならびに勤続年数で計算して据え置くが、五八歳以上で自己都合退職するときは定年扱いとすることとされ、年俸者についての算式も内規の改訂がなされたが、従前よりも金額が下回る場合には、その額の保証がされることとなり(Yの親睦団体の代表Aが従業員代表として右改正に同意をし、その内容は、各部門長で構成された事業本部会議と各職場長で構成された職場連絡協議会で内容説明と関係書面の交付がなされ、各職場ごとに口頭伝達や書面配布がなされた)、その後さらに六〇歳を越える定年延長を可能とする就業規則が改正され、それにともない六〇歳定年を延長する期間を据置期間には算入しないよう退職金規程も改正された(この改正にも親睦団体の代表Bが同意し、各担当役員、各部門長で構成された支店長会議で説明され各職場に持ち帰られた)ところ、Yに対し、右退職金規程の改正は無効であると主張して、すでに受領した退職金と旧規定に基づく退職金の差額として約四一九万円の支払を請求したケース。; 一回目の旧退職金規程の改訂は不利益変更とはいえず、また二回目の改正も六〇歳を超えて更に定年が延長されるという利益を享受する者に対してのみ、定年延長を条件として定年延長期間を据置期間に算入しないこととしたものにすぎず、従業員にとって従前の利益は何ら損なわれておらず、不利益変更とはいえず、かかる変更は従業員に対する周知も行われていると認めることができ、Xに適用されるのは、新退職金規定と新内規であると認めるのが相当であり、本件ではXが受領すべき退職金及び特別退職金は全額支払済みであると認めることができるとして、請求が棄却された事例。 |
参照法条 | : | 労働基準法89条3号の2 労働基準法93条 |
体系項目 | : | 就業規則(民事) / 就業規則の一方的不利益変更 / 退職金 |
裁判年月日 | : | 2002年9月27日 |
裁判所名 | : | 名古屋地 |
裁判形式 | : | 判決 |
事件番号 | : | 平成13年 (ワ) 664 |
裁判結果 | : | 請求棄却(控訴) |
出典 | : | 労働判例840号43頁 |
審級関係 | : | |
評釈論文 | : | |
判決理由 | : | 〔就業規則-就業規則の一方的不利益変更-退職金〕 平成3年10月1日の旧退職金規定の改正は、58歳から60歳への定年延長に伴うものであり、退職金の額が58歳時の基礎額並びに勤続年数で計算した額に据え置かれることになるが、定年が2年間延長されるのであり、しかも、定年延長を拒否し、従来の58歳定年で退職を希望する従業員については、「満58歳以上で自己都合退職するときは定年扱いとする。」としており、従業員にとって従前の利益は何ら損なわれておらず、また、内規による年俸社員の退職金基礎額の算定方式も変更されているが、変更後の方式により基礎額が下回る従業員には、従前の額が保障されているのであるから、これらの変更をもって不利益変更ということはできない。〔中略〕 平成9年4月1日の改正は、60歳の定年を更に延長できるものとし、これに伴い、60歳定年を更に延長する期間は、年5.5パーセントで利率を計算する据置期間に算入しないこととしたものである(なお、据置期間に対する利率についても、別の定めによるものと改められたが、この別の定めを認めるに足りる証拠はなく、従前の据置期間に対する利率である年5.5パーセントがそのまま維持されたものと認めるのが相当である。)が、60歳を超えて更に定年が延長されるという利益を享受する者に対してのみ、定年延長を条件として定年延長期間を据置期間に算入しないこととしたものにすぎず、従業員にとって従前の利益は何ら損なわれておらず、従前と比べて不利益に変更されたものということはできない。 サ 以上によれば、被告における旧退職金規定及び旧内規から新退職金規定及び新内規への改正は、不利益変更ということはできず、従業員に対する周知も行われていると認めることができ、平成12年5月9日に退職した原告に適用されるのは、平成9年4月1日改正の新退職金規定と平成3年10月1日改正の新内規であると認めることができる。〔中略〕 原告は、旧退職金規定及び旧内規を適用した結果と、新退職金規定及び新内規を適用した結果を比較すると、被告主張と原告主張の退職金基礎額の差は8万7692円であり、退職金金額は490万8381円もの大きな差を生じ、原告の既得権を著しく奪うものであって、労働者に極めて不利益な内容となっている旨主張する。 しかし、原告が主張する既得権とは、旧退職金規定及び旧内規が前提としていた58歳の定年が原告のように63歳まで延長された場合であっても、その延長期間を含めた在職期間に基づいて、旧退職金規定及び旧内規によって退職金が計算されることが当然の権利であるとするものであるが、58歳の定年を前提とする旧退職金規定及び旧内規によって、かかる計算方法による退職金受給権が既得権として保障されていたものと認めることはできない。旧退職金規定及び旧内規から新退職金規定及び新内規への改正が不利益変更ということができないことは既に説示したとおりである。 |