全 情 報

ID番号 08017
事件名 解雇無効確認等請求事件
いわゆる事件名 東洋印刷事件
争点
事案概要  印刷会社Yの電算室に配属されていたXら四名が、Yでは印刷の受注量の減少や印刷業の業務形態の変更により受注単価が安くなるなどにより売上が減少するとともに電算室では赤字となっていたところ、電算室の閉鎖のために解雇されたことから、右解雇は整理解雇の要件を充足しておらず、不当労働行為であり無効であると主張してYに対し、雇用契約上の地位確認及び賃金の支払を請求したケースで、Yは業績不振の下にあってもYに具体的利益を生み出すとは考えられない会社に対し多額の迂回融資を行い、金融機関への金利を毎年、ほとんど一方的に負担し、本件解雇当時も金利負担をし続けるだけの余力があり、本件解雇当時のYは経費削減の必要性はあるにしても、さほどには切迫していなかったものと評価できるとしたうえで、電算部門が不採算部門であって対策を立てる必要があることは明らかであるといわなければならず、また本件解雇までの間高齢従業員を中心に解雇する等の人員削減を実施していたことは解雇回避努力の一環として評価できるが、Xらを営業職(当時のXらの配転先として考えられた部門)に配転することが検討されていないこと、人員削減の必要性の切実さともあいまって総合的に判断すると、解雇回避努力を履践したと評価することは困難であり、この要素を欠く本件解雇は権利濫用であるとして、請求が一部認容された事例。
参照法条 労働基準法2章
民法1条3項
労働基準法89条3号
体系項目 解雇(民事) / 整理解雇 / 整理解雇の要件
解雇(民事) / 整理解雇 / 整理解雇の必要性
解雇(民事) / 整理解雇 / 整理解雇の回避努力義務
解雇(民事) / 解雇権の濫用
裁判年月日 2002年9月30日
裁判所名 東京地
裁判形式 判決
事件番号 平成11年 (ワ) 25596 
裁判結果 一部認容、一部却下
出典 労経速報1819号25頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔解雇-整理解雇-整理解雇の要件〕
 本件解雇は、被告が不採算部門として原告らが配属されていた電算室を閉鎖するために解雇するものであり、原告らに何らの責に帰すべき事情が存在しないから、本件解雇が、被告の有する解雇権の濫用に該当するか否かは、人員整理の必要性が存したか、被告に解雇回避努力を尽くしたか、被解雇者の選定が合理的になされたか、解雇手続が妥当であったかという要素を総合的に判断するのが相当である。〔中略〕
〔解雇-整理解雇-整理解雇の必要性〕
 本件解雇前後の短期的な状況を見ると、業績不振の下にあっても、平成七年ころ、被告に具体的な利益を生み出すとは考えられない会社に対し、多額の迂回融資を行って、金融機関への金利を毎年、ほとんど一方的に負担し、本件解雇当時も、金利負担をし続けるだけの余力があったと認めることができる。以上のとおり、本件解雇当時の被告は、長期的構造的な業績不振から、対策を講じる必要性はあるものの、短期的には資金面での余力があり、経費削減の必要性はあるにしても、さほどには切迫していなかったものと評価することができるのである。〔中略〕
〔解雇-整理解雇-整理解雇の回避努力義務〕
 前記認定のとおり、被告は、本件解雇までの間、取締役を含む高齢の従業員を中心に解雇する等の人員削減を行っていたのであり、これは解雇回避努力の一環として評価できる。その他に、電算室閉鎖を打ち出してから本件解雇までの間に、被告は、原告らに対して、A社への出向と電算室独立を打診したこと、営業への配転を打診しなかったことが解雇回避努力の履践に関しては問題となるので、これらについて検討する。
 まず、A社への出向に関していえば、前記認定のとおり、この会社の業績自体芳しくなく、人員が削減されていることから見て、出向の現実性に疑問がある。電算部門の独立の提案についていえば、前述のとおり、将来への見通しが極めて不確実なこの提案を原告らが受け入れることを期待することは困難であるから、これらの提案をもって、解雇回避努力を履践したと評価することはできない。〔中略〕
 本件解雇前後に採用された営業担当職員は、新規に顧客獲得のために、厳しい執務環境で仕事をしていること、原告らは、原告Xを除けば、いずれも活版や電算写植等の業務経験しかなく、外回りの業務の経験がないこと、原告Xにしても、営業に約四年間在籍したとはいえ、補助事務をしていたに過ぎず、新規の顧客開拓の業務経験はないことから、被告において、原告らを営業部門に配転することについて躊躇したことは、理解できないではない。しかし、前述のとおり、被告は業績不振であるとはいいながら、被告に利益をもたらさない会社への迂回融資により、金融機関に対して毎年多額の利息負担をするほどの余力のある企業なのであり、人員削減の必要性はあるにしても、さほどには差し迫っていなかったこと、被告は、新規の顧客開拓のために経験を不問とする募集を行ったこと、証拠(略)によれば、被告代表者においても、原告らの誰が特に営業職には不適格であるとは言っていないこと、一般的に印刷業務の経験がある者が、営業を行うことは可能であること、原告らは異口同音に営業職としても活躍できると言明していることという各事実を考慮すると、本件解雇に至る経緯の中で、原告らを営業職に配転することが全く検討されず、提案していないことは、人員削減の必要性の切実さの程度とも相まって総合的に判断すると、解雇回避努力を履践したと評価することは困難である。したがって、この要素を欠く本件解雇は、原告ら四人全員につき、権利濫用であるとの評価を免れることはできない。
〔解雇-解雇権の濫用〕
 以上によれば、本件解雇は権利濫用に該当するから、その余の点を判断するまでもなく、原告らに対する本件解雇はいずれも無効であるという結論になる。