全 情 報

ID番号 08018
事件名 解雇無効確認等請求事件
いわゆる事件名 東京都土木建築健康保険組合事件
争点
事案概要  健保組合Yの職員で労働組合の組合員でもあったXが、業績悪化により職員の過員が生じたこと、Xの勤務成績不良を理由に解雇されたことから、Yに対し、本件解雇は無効であると主張して労働契約上の権利を有することの確認及び未払賃金等の支払を請求したケースで、本件解雇当時、Yの予算が減少し、人員削減措置を行わざるを得ない必要性があり、二六名であったYの職員数は当時の適正職員数の最大値である二三名を超えているから、少なくとも一名は「過員」であるという状態であったと認めることができ、X一人を解雇した本件解雇は就業規則の解雇事由(予算の減少による過員)に該当する事由が認められるとしたうえで、本件解雇は不当労働行為であるとはいえず、また人員削減の必要性、解雇回避努力(希望退職は募っていないが、解雇前に収入面の増加、支出面の削減、人件費の合理化にも着手していること等)、人選の妥当性(勤務評定という客観的な評価に基づいて最も低い評価を受けたXを解雇するという人選は妥当)、手続の妥当性(組合との協議、解雇の理由、経営状況について資料を提出しながら説明していること等)に関する各事情を総合すると、本件解雇について解雇に処することが著しく不合理であり社会通念上相当なものとして是認することができないとはいえないから、本件解雇が解雇権の濫用として無効であるとはいえないとして、Xらの請求が棄却された事例。
参照法条 労働基準法2章
労働基準法89条3号
民法1条3項
体系項目 解雇(民事) / 解雇権の濫用
解雇(民事) / 整理解雇 / 整理解雇の要件
解雇(民事) / 整理解雇 / 整理解雇の回避努力義務
解雇(民事) / 整理解雇 / 整理解雇基準・被解雇者選定の合理性
解雇(民事) / 整理解雇 / 協議説得義務
裁判年月日 2002年10月7日
裁判所名 東京地
裁判形式 判決
事件番号 平成12年 (ワ) 6452 
裁判結果 棄却
出典 労経速報1821号14頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔解雇-解雇権の濫用〕
 使用者が労働者を解雇した場合、就業規則の定める解雇事由に該当する事実があっても、解雇に処することが著しく不合理であり、社会通念上相当なものとして是認することができないときには、解雇権の濫用として無効であると解するのが相当である。〔中略〕
〔解雇-整理解雇-整理解雇の回避努力義務〕
 前記1で認定したとおり、被告は、本件解雇に先立って、職員全員に対し希望退職を募ることはしていないし、原告に対し、昭和五二年一二月以降は、一時帰休や希望退職などを勧めていないことが認められ、従業員の解雇をする使用者の一般的な対応としては、やや適切を欠いていたことは否めない。
 しかしながら、前記1で認定したとおり、被告は、本件解雇前に、経営改善策として、収入面の増加(保険料率の見直し)、支出面の削減(付加給付の見直し、保険事業の見直し、諸経費節減)を実施し、さらに、人件費の合理化にも着手していることが認められること、本件解雇が原告の勤務実績・勤務実績の不良に着目してされたものであること、原告に対する平成一〇年度以降の勤務評定において配置替先がないとの意見が付されていることに照らすと、職員全員に希望退職を募っていないことや原告に希望退職等を打診していないことをもって、解雇回避努力を尽くしていないとまではいえない。〔中略〕
〔解雇-整理解雇-整理解雇基準・被解雇者選定の合理性〕
 本件解雇は、人員削減措置を講ずる必要上があることを背景に、平成一〇年度以降の勤務評定で最も低い評価を受けた原告を選定してされたものであって、勤務評定という客観的な評価に基づいて最も低い評価を受けた者を解雇するという人選がされたものであるから、本件解雇における被解雇者の人選は妥当であったと認めるのが相当である。〔中略〕
〔解雇-整理解雇-協議説得義務〕
 被告は、原告に本件解雇日の一か月前に予告をし、その際にも原告に解雇理由を説明するとともに、その後解雇日まで四回にわたり原告の所属する本件労働組合と協議を重ね、本件解雇の理由、被告の経営状況について、資料を提出しながら説明していること、本件解雇日後の東京都労働委員会のあっせん手続においても、解雇理由書を交付したりして協議に応じていること、和解が成立しなかったのは和解を拒否するとの原告の強い意向が原因であることが認められる。
 これらの事実を総合すると、被告が、本件解雇に当たり、原告に対し、解雇の必要性、その時期、方法につき、納得を得るために説明を行い、誠意をもって協議したと認めるのが相当である。〔中略〕
〔解雇-解雇権の濫用〕
〔解雇-整理解雇-整理解雇の要件〕
 以上のとおり、人員削減の必要性、解雇回避努力、人選の妥当性、手続の妥当性に関する各事情を総合すると、本件解雇について、解雇に処することが著しく不合理であり社会通念上相当なものとして是認することができないとはいえないから、本件解雇が解雇権の濫用として無効であるとはいえない。