全 情 報

ID番号 08020
事件名 社員報奨表彰金請求事件
いわゆる事件名 殖産住宅事件
争点
事案概要  建築工事請負業務及び建築設計監理業務等を目的とする株式会社Y(その後、民事再生手続開始の決定がなされている)で営業担当として従事していたが、会社都合により退職したXが、Yに対し、退職前に発生したYの社員報奨・表彰規定に基づく報奨表彰金の支払を請求し、〔1〕民事再生申立て後の施主の契約解除が本件報奨金及び本件表彰金に与える影響及び〔2〕支払日にYに在籍していることが上積み加算部分及び本件表彰金の発生要件となるかが争われたケース。; 〔1〕については、本件報奨金及び表彰金は労働の対償として使用者労働者に支払うもので、本件規定によって、あらかじめ支給条件が明確に定められたものであるから労基法一一条にいう「賃金」に該当し、本件報奨金等は本件規定に基づき発生するものであるから、その支給要件は、本件規定の文言に示された当事者の意思を合理的に解釈することによって決すべきであるとしたうえで、本件規定によれば、本件報奨金及び表彰金は対象となる半期終了後の最初の給与支給日である支払日までに、施主の解除等の事由により基準を下回った場合は、清算条項に基づき、支払済みの本件報奨金を清算することが必要となり、本件表彰金についても支払日までの解除により基準を下回った場合は発生しないと解されるとし、〔2〕についても、本件報奨金は対象となる半期終了後の最初の給与支給日である支払日までに、施主の解除等の事由により基準を下回った場合は、上積み加算部分は発生しないことになり、支払済みの本件報奨金についても賃金から合意のうえ相殺する等して清算することが必要となると解されるところ、かかる清算を行うには、社員が対象期間中在籍していることが必要であるから、本件規定の文言上、本件報奨金の上積み加算部分を受給するため、少なくともその対象期間中は在籍していることが予定されていること等のほか、諸事情を考慮すれば、右清算条項は、支払日にYに在籍していること上積み加算部分の発生要件としたものと解すべきであり(自発的退職か会社都合退職かにかかわらない)、支払日前に退職したXには、本件報奨金のうち上積み加算部分は発生しないというべきであり、また、本件表彰金についても支払日にYに在籍していることがその発生要件であるとの本件規定の解釈は、事実たる慣習として労働協約の内容となったと解すべきであり、支払日前に退職したXには本件表彰金は発生しないとして、Xらの請求がすべて棄却された事例。
参照法条 労働基準法3章
体系項目 賃金(民事) / 福利厚生
賃金(民事) / 賞与・ボーナス・一時金 / 支給日在籍制度
裁判年月日 2002年10月16日
裁判所名 東京地
裁判形式 判決
事件番号 平成14年 (ワ) 13109 
裁判結果 棄却
出典 労経速報1820号15頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔賃金-福利厚生〕
〔賃金-賞与・ボーナス・一時金-支給日在籍制度〕
 本件報奨金は、営業担当者が一定の基準の営業成績を達成したときに、被告が報奨金を支払うことで、被告の売上げ伸長を図る制度であり、本件規定を運用してきた営業企画部課長は、支払日前に退職した者に対しては上積み加算部分を支払うことはできないと考えてきたこと、昭和六三年以降現在まで、退職後に本件報奨金を請求した者は原告以外になかったこと、原告自身も、支払日前に自発的に退職した者は本件報奨金を請求できないと考えていたことが認められ、これらの事情を総合すると、前記精算条項は、支払日に被告に在籍していることを上積み加算部分の発生要件としたものと解釈すべきである。
 イ 原告は、被告の民事再生申立て後の退職は会社都合によるもので自発的退職ではないから、本件報奨金を請求できると考えるべきだし、被告の東京支店長も同趣旨のことを述べていた旨供述し、証拠(略)によれば、原告は、平成一四年一月の被告の民事再生手続開始申立て後、被告から退職勧奨を受け、これに応じて退職に同意し、同年二月二八日に会社都合による退職の辞令を受けたことが認められる。しかし、前記精算条項の文言及び前記本件報奨金の制度趣旨によれば、支払日に在籍するとの条件は、自発的退職か会社都合退職かにかかわらず要求されているものというべきであるから、原告の供述は採用できない。
 ウ 以上から、支払日前に退職した原告には、本件報奨金のうち上積み加算部分は発生しないというべきである。〔中略〕
〔賃金-福利厚生〕
〔賃金-賞与・ボーナス・一時金-支給日在籍制度〕
 本件表彰金は、営業担当者が一定の基準の営業成績を達成したときに、被告が営業担当者を表彰し表彰金を支払うことで、被告の売上げ伸長を図る制度であり、本件規定を運用してきた営業企画部課長は、支払日前に退職した者に対しては表彰ができない以上本件表彰金を支払うことはできないと考えてきたこと、昭和六三年以降現在まで、退職後に本件表彰金を請求した者は原告以外になかったこと、原告自身も、支払日前に自発的に退職した者は本件表彰金を請求できないと考えていたことが認められるから、少なくとも昭和六三年から現在までの間、被告において、支払日前に退職した者に対しては本件表彰金を支給しない取扱いが行われてきたこと、前記取扱いは、被告の社員報奨・表彰金規定に基づき、労使双方がその解釈として承認し従ってきたものであると認めることができる。
 したがって、支払日に被告に在籍していることが本件表彰金の発生要件であるとの本件規定の解釈は、事実たる慣習として労働協約の内容となったと解すべきである。