全 情 報

ID番号 08022
事件名 解雇無効確認等請求事件
いわゆる事件名 ヒロセ電機事件
争点
事案概要  各種電気機械器具の製造及び販売などを業とする会社Yに、海外重要顧客であるA社での勤務歴等に着目して業務上必要な日英の語学力、品質管理能力を備えた即戦力となる人材であると判断されて品質管理部海外顧客担当で主事一級という待遇で中途採用されたXが、入社四か月後に、上司への誹謗、業務命令違反、基本的、専門的知識、能力の欠如、職場規律違反等を理由に就業規則の規定に基づき解雇されたことから、Yに対し、本件解雇は解雇権の濫用に該当し無効であるとして、労働契約上の地位の確認を請求したケースで、Xには「業務遂行に誠意がなく知識・技能・能率が著しく劣り将来の見込みがない」というべきであり就業規則所定の解雇事由があるとしたうえで、本件解雇は解雇に処することが著しく不合理であり、社会通念上相当なものとして是認することができないとは到底いえないとして、Xの請求が棄却された事例。
参照法条 労働基準法89条3号
民法1条3項
体系項目 解雇(民事) / 解雇事由 / 職務能力・技量
解雇(民事) / 解雇権の濫用
裁判年月日 2002年10月22日
裁判所名 東京地
裁判形式 判決
事件番号 平成13年 (ワ) 24688 
裁判結果 請求棄却(確定)
出典 労働判例838号15頁/労経速報1818号18頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔解雇-解雇事由-職務能力・技量〕
 本件は、原告の職歴、特に海外重要顧客であるA社での勤務歴に着目し(前記1(2)イ)、業務上必要な日英の語学力、品質管理能力を備えた即戦力となる人材であると判断して品質管理部海外顧客担当で主事1級という待遇で採用し、原告もそのことは理解して雇用された中途採用の事案であり、長期雇用を前提とし新卒採用する場合と異なり、被告が最初から教育を施して必要な能力を身につけさせるとか、適性がない場合に受付や雑用など全く異なる部署に配転を検討すべき場合ではない。労働者が雇用時に予定された能力を全く有さず、これを改善しようともしないような場合は解雇せざるを得ないのであって、就業規則37条2号の規定もこのような趣旨をいうものと解するのが相当である。
 そこで前記前提事実等に証人Bを併せ検討する。
 まず、原告の業務遂行態度・能力(「業務遂行に誠意がなく知識・技能・能率が著しく劣り」)について見るに、原告は、実はA社ではさしたる勤務経験を有さず品質管理に関する知識や能力が不足していた。また、前記原告の作成した英文の報告書にはいずれも自社や相手先の名称、クレーム内容、業界用語など到底許容しがたい重大な誤記、誤訳や「カバーケース」を「hippo-case」と誤訳した点のように英語の読解力があれば一見して明らかであるものを含め多数の誤記・誤訳があり、期待した英語能力にも大きな問題があり、日本語能力についても、原告が日本語で被告に提出する文書を妻に作成させながら、自己の日本語能力が不十分であることを申し出ず、かえって、その点の指摘に反論するなど、客観的には被告に原告の日本語能力を過大に評価させていたことから、当初、履歴書等で想定されたのとは全く異なり極めて低いものであった。さらには、英文報告書は上司の点検を経て海外事業部に提出せよとの業務命令に違反し、上司の指導に反抗するなど勤務態度も不良であった。このような点からすると原告の業務遂行態度・能力は上記条項に該当するものと認められる。〔中略〕
〔解雇-解雇事由-職務能力・技量〕
 本採用の許否を決定するに際し、日本語能力や他からの指導を受け入れる態度、すなわち協調性に問題があるとされ、原告において改善努力をするという約束の下に本採用されたのであるから、上司の指摘を謙虚に受け止めて努力しない限り被告としては雇用を継続できない筋合いのものであった。しかるに、本採用後、原告が日本語能力等の改善の努力をした形跡はなく、かえって、その後さらに英語力や品質管理能力にも問題があることが判明したにもかかわらず、原告の態度は、前記1(4)ア、イ(オ)、ウ(エ)など、B副参事から正当な指導・助言を受けたのに対し、筋違いの反発をし、品質管理に関する知識や能力が不足しているにもかかわらず、ごくわずかの期間にすぎないA社での経験や能力を誇大に強調し、あるいは、Cのサポートを断り、「上司の承認を得る」という手続を踏まずに報告書を提出するという業務命令違反をし、さらには、D部長ら上司からの改善を求める指導に対し自己の過誤を認めず却って上司を非難するなど、原告はその態度を一層悪化させており、原告は被告からの改善要求を拒否する態度を明確にしたといえるから、これらの点の改善努力は期待できず、上記条項に該当するものと認められる。
 イ 以上によれば原告には「業務遂行に誠意がなく知識・技能・能率が著しく劣り将来の見込みがない」というべきであり、就業規則37条2号の定める解雇事由がある。〔中略〕
〔解雇-解雇権の濫用〕
 就業規則の定める解雇事由に該当する事実がある場合でも、解雇に処することが著しく不合理であり、社会通念上相当なものとして是認することができないときには、解雇権の濫用として無効になると解するのが相当である。〔中略〕
〔解雇-解雇事由-職務能力・技量〕
 原告が指摘する点のうち(ア)及び(カ)は解雇後の事情であり直ちに権利濫用の判断に影響を与えるようなものではなく、(イ)及び(オ)については前記2のとおり、当初予定されたよりも原告の能力は大幅に低いものであり、(ウ)は前記のとおり事実の存在が認められず、(エ)は、会社の業務を他人に行わせるということは債務不履行に他ならない上、それが被告の原告に対する評価に誤解を与える性質のものであることを考慮すると何ら解雇権の濫用を基礎付けるものではない。ましてや、原告が重要な経歴(特にA社の在職期間)を詐称しており(原告は、「履歴書/職務経歴書」は原告の妻が原告から具体的内容の指示を受けずに作成し、原告はその内容を確認しないまま提出したと供述するが、仮にそうだとすると原告は正確な内容の履歴書を提出しようという意欲すらないといえる。)、本件解雇が入社後4か月半程度でされたものであることからすると、本件解雇は、解雇に処することが著しく不合理であり、社会通念上相当なものとして是認することができないとは到底いえない。