全 情 報

ID番号 08023
事件名 損害賠償請求各控訴事件
いわゆる事件名 建設省中部地方建設局(準職員)事件
争点
事案概要  愛知国道工事事務所長により、非常勤職員として任用され、昭和四六年に中部地方建設局長によって行政職(二)五等級(常勤労務者)に転任された以後、給与についても一般職の職員の給与等に関する法律六条一項一号ロに規定する行政職俸給表(二)の適用を受けてきた定員外職員たる準職員(行(二)職員)Xが、平成四年に同法六条一項一号イに規定する行政職俸給表(一)(行(一)表)を適用される定員内職員(行(一)職員)に任用されるまでの間、恒常的に行(一)表適用職務に従事してきたため、このような場合、任命権者としては担当職務の実態に適合させるためにXを行(一)職員に任用すべき義務があり、仮に人事権の行使が裁量事項であるとしても、行(一)職員に任用させることなく恒常的に行(一)表適用職務に従事させることは裁量権の著しい逸脱ないし濫用に該当するから、行(一)職員として任用しなかったことは違法であり、あるいは行(二)職員をして恒常的に行(一)適用職務に従事させることは違法であるとして、国Yに対し、主位的に国家賠償法による損害賠償請求権に基づき、昭和五五年には転職試験により行(一)職員に任用できたはずであるとして、以後一二年分の行(一)職員との賃金差額分及び慰謝料の支払と、建設省等の広報誌への謝罪広告の掲載を、予備的に不当利得返還請求権に基づき、右賃金差額分の支払を請求したケースの控訴審(XY控訴)。; 中部地方建設局長がXを行(一)職員に任用しなかったことが、人事裁量権の逸脱・濫用に当たらないが、行(二)職員に職務命令により、本務として恒常的に行(一)表適用職務を担当させ、これに従事させることは、給与の根本基準に違反し、給与法等によって保障された法定の勤務条件を侵害するものであって違法な職務命令であるとし、Xがその官職に比し、複雑、困難及び責任の度において、より重い職務に従事したことによる精神的及び肉体的苦痛こそが損害であるというべきであるとして、Xの慰謝料請求を一部認容し、謝罪広告掲載請求については請求を棄却した原審の判断を相当として、差額賃金分及び謝罪広告の掲載などを求めたX及び一審敗訴部分の棄却を求めたYの控訴がともに棄却された事例。
参照法条 国家賠償法1条
一般職の職員の給与等に関する法律別表第一行政職俸給表イ行政職俸給法(一)
一般職の職員の給与等に関する法律別表第一行政職俸給表イ行政職俸給法(二)
体系項目 労働契約(民事) / 労働契約上の権利義務 / 使用者に対する労災以外の損害賠償
裁判年月日 2002年10月25日
裁判所名 名古屋高
裁判形式 判決
事件番号 平成12年 (ネ) 903 
裁判結果 各棄却(確定)
出典 労働判例838号5頁
審級関係 一審/07662/名古屋地/平12. 9. 6/平成5年(ワ)622号
評釈論文
判決理由 〔労働契約-労働契約上の権利義務-使用者に対する労災以外の損害賠償〕
 1審被告は、給与決定の前提である俸給表の適用は、任命権者による官職への任用を待たなければならないところ、1審原告を行(一)職員に任用しなかったことに人事裁量権の逸脱、濫用はないから、1審原告に行(一)表適用職務を命じることは給与の根本基準に対する違反にならないと主張するが、行(二)職員である1審原告に行(一)表適用職務を命じることと行(一)表適用職務を担当する1審原告を行(一)職員に任用しないことは別個の問題であって、後者の行為が人事裁量権の逸脱、濫用に当たらないからといって、前者の行為が給与の根本基準に違反しないとする理由にはならない。
 さらに、1審被告は、1審原告に行(一)表適用職務を恒常的に命ずることが国公法に違反するとしても、国賠法上の違法は、個別の国民に対して負担する職務上の法的義務違反であるから、国公法が職務命令の名宛人である公務員の精神的安寧なり「人格、名誉」を法益として保護していないのであるから、国賠法上の違法性はなく、慰謝料請求は認められないと主張する。
 しかしながら、前記のとおり、国公法、職階法、給与法及び人事院規則に基づく職務給という給与の根本基準は、公務の民主的で能率的な運営を実現するため人事行政の公正を確保すると同時に、職員に対して官職の分類に応じて平等な勤務条件を保障しているものであるところ、1審被告が行(二)職員である1審原告に行(一)表適用職務を恒常的に命じてきたことは、上記国公法等によって保護されている1審原告の平等な勤務条件を享有する法益を侵害するものであるから、国賠法上の違法性も備えるものということができ、その法益侵害によって1審原告に精神的苦痛が生ずれば、1審被告はその精神的苦痛を填補すべき損害賠償責任を負うものというべきである。