ID番号 | : | 08028 |
事件名 | : | 金員仮払仮処分命令申立事件 |
いわゆる事件名 | : | ノース・ウエスト航空(賞与請求)事件 |
争点 | : | |
事案概要 | : | 米国の航空会社Yの日本支社労働組合所属の組合員であったXら三四四名が、Yが夏季賞与について定期昇給なしとの条件を承諾するのであれば例年どおりの率をもって支給する旨同組合に提示し、同組合が上記条件を受け入れることができない旨を回答したところ、同賞与が支給されなかったことから、被保全権利である賞与請求権については、定期昇給なしとする条件は不当であり、本件意思表示は無条件の夏季賞与給付の意思表示である、あるいは賞与は賃金たる性質を有しており、これまでも支給されていたのであって信義則上賞与請求が発生しているなどと主張して、賞与の仮払を申し立てたケースで、賞与請求権については、会社が申し入れた前提条件を組合が承諾しない限り合意が成立せずその発生が一切認められない、と解すべきものではなく、従前から支給されていた経緯、支給金額、他の従業員に対する支給状況、会社の経営内容、従前支給されていた賞与の性格等の諸事情に照らし、支給しないことが従前の労使関係に照らして合理性を有せず、支給しない状態を是認することにより労働者に対して経済的に著しい不利益を与える場合には、前提条件の存在を主張すること自体が信義則違反となって、むしろ無条件の賞与請求の申入れと解すべきであり、同申入れを組合が承諾した場合には合意が成立したものと同様に取り扱い、一時金(賞与)請求権の発生を認めるべきであると解するのが相当であるとしたうえで、本件においてはXらの夏季一時金請求権は肯定できるとし、二分の一の額についてのみ保全が認容された事例。 |
参照法条 | : | 労働基準法3章 労働基準法11条 民法1条2項 |
体系項目 | : | 賃金(民事) / 賞与・ボーナス・一時金 / 賞与請求権 |
裁判年月日 | : | 2002年11月19日 |
裁判所名 | : | 千葉地 |
裁判形式 | : | 決定 |
事件番号 | : | 平成14年 (ヨ) 323 平成14年 (ヨ) 386 平成14年 (ヨ) 415 |
裁判結果 | : | 一部認容、一部却下 |
出典 | : | 労働判例841号15頁 |
審級関係 | : | |
評釈論文 | : | 小早川真理・法政研究〔九州大学〕70巻3号203~211頁2003年12月/石田眞・法律時報76巻2号137~140頁2004年2月/中丸素明・労働法律旬報1547号14~17頁2003年3月10日/矢野昌浩・労働法律旬報1556号44~47頁2003年7月25日 |
判決理由 | : | 〔賃金-賞与・ボーナス・一時金-賞与請求権〕 賞与請求権については、労働協約又は就業規則等の合意に基づくことが原則であるところ、本件事案においては、債務者の就業規則には夏季又は冬季に一時金を支給する旨の規定はなく(争いのない事実)、また、平成14年度の夏季一時金の支給については、未だ労働協約の締結がなされていないことは前述したとおりである。ところで、賞与請求権については、会社が申し入れた前提条件を組合が承諾しない限り合意が成立せず、その発生が一切認められないと解すべきものではなく、従前から支給されていた経緯、支給金額、他の従業員に対する支給状況、会社の経営内容、従前支給されていた賞与の性格等の諸事情を考慮し、支給しないことが従前の労使関係に照らして合理性を有せず、支給しない状態を是認することにより労働者に対して経済的に著しい不利益を与える場合には、前提条件の存在を主張すること自体が信義則違反となり、無条件の賞与請求の申入れと解すべきであり、同申入れを組合が承諾した場合には合意が成立したものと同様に扱い、一時金(賞与)請求権の発生を認めるべきであると解するのが相当である。〔中略〕 〔賃金-賞与・ボーナス・一時金-賞与請求権〕 夏季及び冬季一時金支給については、支社組合と債務者間の合意に基づくことを基本とするが、28年余りの間合意不成立で不支給となった事例がこれまで一度としてなく、債権者らにとっては、夏季及び冬季一時金が例年どおり支給されるものとの期待を懐くことは当然のことであるところ、一時金支給の算定は、基本月給、住宅手当、扶養手当及び運転手当の合計額を基本とし、その7か月分が従来から支給されていたこと、年間一時金支給総額は、年間固定給収入額の6割に達している事情にあるばかりか、他の航空会社と比較した場合であっても、年間一時金についてはおよそ3か月分多く支給されており、基本月給においては平均して十数万円程低く抑えられているのに対し、年間一時金支給額が高額であって、債務者における場合には、夏季及び冬季一時金の支給は、報償的性格のみにとどまらず、固定賃金たる性格をも併有しているものとみられること、債務者が米国に対する同時多発テロの影響を受け航空旅客輸送需要が減少し、多額の経営赤字状態にあることは否定できないものの、債務者の米国内パイロット及び地上職員に対しては、定期昇給を実施し、国内の整備職員に対しても時間給の増額措置を講じており、債権者らに対する夏季一時金の原資を捻出できない程の経営的苦境にはなく、また、債権者らに本件夏季一時金額の支給をしても、債務者の経営状態が困難に陥る事情も見られないこと、債権者らの夏季一時金請求額が米国系の他の航空会社と同様の水準にとどまり、必ずしも高額であるとまではいえないこと、債権者らは、夏季一時金の支払いを受け得ない場合には、年間固定給収入額に占める割合がおよそ6割に達していることから日常生活に重大な影響を受けること等、従前から夏季及び冬季一時金が支払われてきた労働慣行、一時金が賃金たる性格を併有していること、要求額が米国系旅客航空他社と同水準であること、債務者の経営及び財政状況、債権者らの期待及び不支給の場合に債権者らが受けることが予想される経済的打撃等の諸事情を総合的に勘案した場合、定期昇給及びベースアップの不実施が債務者にとって今後の会社経営上の重要な課題であるとしても、かかる条件を付して支社組合が受諾しないとの理由をもって、夏季一時金の支払いを拒絶することは信義則に反するものというべきであり、書面による無条件の賞与申入れと解することができ、支社組合が同申し入れについて、債務者に対し書面による本件妥結の意思表示をしたことは前記第2の1(3)に説示したとおりであり、これにより債務者と支社組合との間で夏季一時金に関する書面による合意が成立したものと同様に扱い、債権者らは、基本月給、住宅手当、扶養手当及び運転手当の合計額を基礎として算定された金額を限度とした夏季一時金請求権を有しているというべきである。 |