全 情 報

ID番号 08029
事件名 解雇無効確認等請求事件
いわゆる事件名 バイオテック事件
争点
事案概要  電子治療器の販売等を業とする株式会社Yの経理課主任であったXが、〔1〕部下に対する態度が感情的で一貫性がなくXの部下に対する態度が原因でアルバイトら複数の従業員が退職し、正社員の女性一名が退職を申し出ているなど、業務上の言動がわがままで自己中心的で社員間の宥和が保てないこと、〔2〕クレジット審査に絡む物品の要求により営業担当職員らから苦情が出ていたこと、〔3〕男性社員に対するセクシュアル・ハラスメントがあったことで、職場の雰囲気が悪化し営業成績に悪影響を与えるおそれがあったことを理由に解雇されたことから、Yに対し、本件解雇は解雇事由がないにもかかわらずなされたものであり無効であると主張して、労働契約上の地位確認及び賃金支払を請求したケースで、YにおいてXを管理職として処遇する場合には業務に著しい支障が生じていたことができるとしたうえで、注意した場合のXのこれまでの対応や社員数がわずか二〇名前後であったことを勘案すると、管理職から降格や配転を行ってもそのことが原因でXが周囲の者や他の管理職に対して感情的な対応を行うなどしてかえって業務に支障を生じるおそれがあったものであり、降格や配転によっては著しい支障を回避することはできずXを解雇するよりほかはなかったものと認められるとして、本件解雇は使用者に認められた解雇権の行使として、客観的に合理的な理由があり、社会通念上相当として是認でき有効であるとしてXの請求が棄却された事例。
参照法条 労働基準法89条3号
男女雇用機会均等法21条1項
民法1条3項
体系項目 解雇(民事) / 解雇事由 / 勤務成績不良・勤務態度
解雇(民事) / 解雇事由 / 従業員としての適性・適格性
解雇(民事) / 解雇手続 / 解雇理由の明示
労基法の基本原則(民事) / 均等待遇 / セクシャル・ハラスメント、アカデミック・ハラスメント
裁判年月日 2002年11月27日
裁判所名 東京地
裁判形式 判決
事件番号 平成13年 (ワ) 24498 
裁判結果 棄却
出典 労経速報1824号20頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔解雇-解雇事由-勤務成績不良・勤務態度〕
〔解雇-解雇事由-従業員としての適性・適格性〕
 原告は、被告において、経理事務においてコンピュータ導入を主導した実績があり、被告代表者から経理業務について一定の信頼を得て主任に任命されたものの、部下を指導する立場にある管理職としては、部下に対する態度が感情的で一貫性がなく、原告の部下に対する態度が原因でアルバイトら複数の従業員が退職し、かつ、正社員の女性一名が退職したい旨申し出ており、他の部下らからも感情的な指導について苦情が寄せられたこと、クレジットの審査の際の原告の物品要求により営業担当職員らから苦情が出ていたこと、宴会の際に原告が男性社員の体に触る等の行為で男性社員にしばしば不快感を与えていたことが認められ、被告において原告を管理職として処遇する場合には、被告の業務に著しい支障が生じていたということができる。
 そして、前記1(2)(3)(4)のとおり、これまでにAやBから原告に対し、クレジットの審査の際の営業担当職員らからの苦情や、宴会での原告の態度等について注意した際、原告が、Aらに反発したり、注意後に当該部下やその他の目下の者に冷たい態度をとる様子があったこと、被告の当時の社員数がわずか二〇名前後であったことを勘案すると、管理職からの降格や配転を行っても、そのことが原因で、原告が、周囲の者やAやBら管理職に対し、感情的な対応を行う等して、かえって業務に支障が生じるおそれがあったものである。そうすると、降格や配転によっては、前記著しい支障を回避することはできず、被告としては、原告を解雇するより外はなかったものと認められる。
 したがって、本件解雇は、使用者に認められた解雇権(民法六二七条一項)の行使として、客観的に合理的な理由があり、社会通念上相当として是認できるから、有効である。〔中略〕
〔労基法の基本原則-均等待遇-セクシャル・ハラスメント、アカデミック・ハラスメント〕
 原告は、原告には被害者に対し、人事権や管理権やこれに類する強い立場を有するなど支配権を有しないから、セクシャルハラスメントには該当しない旨主張するが、原告は、被告の社員の中で数少ない管理職のうち一人であり、年長であった上、営業を担当する社員にとっては、営業歩合にかかわるクレジット審査の業務を担当していたのであり、支配権がないとは直ちにいえないし、前記(4)で認定した行為態様に照らし、被害者らがこれを嫌がっていなかったとは認められない。原告の主張は採用できない。〔中略〕
〔解雇-解雇手続-解雇理由の明示〕
 被告は、原告の宴会における態度を職務規律違反であるとして具体的な行為態様を挙げて正式に注意をしたり、譴責等の処分にした事実は認められないし(1(4)(6))、本件解雇に際してもこのような事実の存在を解雇理由として原告に説明していないこと(証拠略)が認められる。しかし、(人証略)は、原告との雇用契約を円満に終了させるため、又は、仮処分での和解交渉を決裂させないため主張を控えていた旨供述し、証拠(略)によれば、仮処分の初期の段階では和解交渉が行われていたことが認められるから、解雇理由として解雇時に告げられなかったり、仮処分での主張が後になされたことをもって、原告の宴会における態度が、裁判のために後から考えた解雇理由であるとはいえない。