全 情 報

ID番号 08042
事件名 損害賠償請求控訴事件
いわゆる事件名 トオカツフーズ事件
争点
事案概要 調理パン・弁当・おにぎり等の製造販売を行うYにおいて、作業中に飯缶反転装置に挟まれて死亡した従業員の相続人であるXが、Yに対し安全配慮義務違反に基づいて損害賠償を求めたのに対し、Yが大幅な過失相殺の主張したところ、原審において請求が一部認容されたため、X及びY双方が控訴したケースで、本件装置にアングルがあるとしても、本件装置を使用した作業に従事する者が体を挿入することは予想ができ、挟まれればその者の身体や生命に危険を及ぼすおそれがあるといえるから、本件装置には危険性が内在しているものというべく、これに安全柵やカバーを付さなかったことはYに安全配慮義務の履行に関し不履行があったといわざるを得ないとして損害賠償責任を認めつつも、4割の過失相殺をするのが相当であるとして、原判決を変更し、Xの控訴を棄却した事例。
参照法条 民法415条
民法623条
労働基準法2章
労働基準法84条2項
体系項目 労働契約(民事) / 労働契約上の権利義務 / 安全配慮(保護)義務・使用者の責任
労災補償・労災保険 / 損害賠償等との関係 / 労災保険と損害賠償
裁判年月日 2001年5月23日
裁判所名 東京高
裁判形式 判決
事件番号 平成12年 (ネ) 5023 
裁判結果 変更(確定)
出典 タイムズ1072号144頁
審級関係 一審/浦和地/平12. 9. 8/平成9年(ワ)2288号
評釈論文 林豊・平成13年度主要民事判例解説〔判例タイムズ臨時増刊1096〕280~281頁2002年9月
判決理由 〔労働契約-労働契約上の権利義務-安全配慮(保護)義務・使用者の責任〕
 証拠(乙二の3、検証)及び弁論の全趣旨によれば、本件隙間は、上部において約三五センチメートルあって、人が手や首を入れようとすれば入る幅を有していること、本件装置のスカートやアングルに異物が付着することがあり、本件隙間から付着の状態を見ることが出来ること、本件装置は八秒間完全に停止しその間開いていることが認められ、これらの事実によれば、本件装置にアングルがあるとしても、本件装置に従事する者が異物を除去しようとして、本件隙間に身体を挿入することは予想ができ、挟まれればその者の身体や生命に危険を及ぼすおそれがあるといえるから、本件装置には危険性が内在しているものというべく、これを予防するための安全柵やカバーを付さなかったことは、一審被告に安全配慮義務の履行に関し不履行があったといわざるを得ない。そうであれば、本件装置において今まで事故が発生しなかったとしても、そのことが直ちに右認定を覆すものとはいえないし、本件装置の危険性に照らして、近くに操作盤が設置され容易に停止できるとしても、一審被告が安全配慮義務を履行したものとは認められない。〔中略〕
 本件は安全配慮義務違反に基づく損害賠償請求であるから、その損害の範囲は債権債務関係にある者の債務不履行による損害に限られ、一審原告らの固有の慰謝料はその範囲に含まれないものというべきである(最高裁昭和五五年一二月一八日第一小法廷判決・民集三四巻七号八八八頁参照)。そして、A固有の精神的損害を慰謝するには、Aの年齢(本件事故当時二二歳)や本件事故の態様のほか、一審被告の安全対策の程度、Aが夜勤の連続であり疲労していたことや業務に頑張って取り組んでいて本件事故にあったこと(一審原告X)などを孝慮すると、二〇〇〇万円が相当というべきである。〔中略〕
 引用した原判決の認定した事実によれば、Aが自ら本件隙間に右腕を入れ首を挟まれたものと推認することができる。そして、証拠(乙一二、証人B、検証)によれば、Aは、平成九年七月一日から炊飯部門の仕事を行うようになったのであるから、本件枠が反転した後、八秒間は停止するものの、その後はもとに戻るため、本件隙間に身体を入れれば挟まれることは熟知していたのに、右腕と首を入れたものと認めることができる。そして、過去に本件事故と同様の事故がない(証人B)ので、Aが本件隙間に首や右腕を入れた理由は必ずしも明らかではないものの、それが業務のために行ったものではないと認めるべき証拠はない。
 以上の事情を総合勘案すると、Aにつき四割の過失相殺をするのが相当である。
〔労災補償・労災保険-損害賠償等との関係-労災保険と損害賠償〕
 一審原告らは、労災保険は社会保障的性格を有し、過失相殺的減額を行わないこと、使用者は労災保険の当事者であって保険代位の問題が生じないこと、労災保険給付は費用毎に独立性を有し、損害賠償請求訴訟において費目間の流用が許されないことからすると、過失相殺を行う場合には、過失相殺をする前に労災保険の給付額を控除すべきである旨主張する。
 労働者災害補償保険は、業務上の事由等による労働者の負傷、死亡等に対して迅速かつ公正な保護をするために、必要な保険給付を行い、あわせて、業務上の事由等により負傷等をした労働者の社会復帰の促進、当該労働者及びその遺族の援護、適正な労働条件の確保等を図り、もって労働者の福祉の増進に寄与することを目的とするものであり(労災保険法一条)、使用者の故意・過失の有無にかかわらず、そして、事故が専ら労働者の過失によるときであっても保険給付を行い(同法一二条の二の二第一項参照)、できるだけ労働者の損失を補償しようとしている上、国庫は、労働者災害補償保険事業に要する費用の一部を補助することができるものとしている(同法二六条)のであるから、これが社会保障制度の一環をなすものであることは多言を要しない。しかしながら、一方、法は、適用事業の事業主については、その事業が開始された日にその事業につき労災保険に係る労働保険の保険関係が成立するものとし〔労働保険の保険料の徴収等に関する法律(徴収法)三条〕、労災保険事業に要する費用に充てるための保険料を事業主から徴収するものとし(労災保険法二四条、徴収法一〇条)、また、政府は、一定の事故について保険給付を行ったときは、業務災害に関する保険給付にあっては労働基準法の規定による災害補償の価額の限度で、その保険給付に要した費用に相当する金額の全部又は一部を事業主から徴収することができるものとされている(労災保険法二五条一項)のであって、このことからすると、労災保険法に基づく保険給付は、社会保障的性格を有するものとはいえ、事業主にとっては、保険契約を締結して保険料の支払をした損害保険金としての色彩をも有することを否定することができない。したがって、右給付金相当額は、事業主が労働者に対して損害賠償義務を有する金額すなわち過失相殺後の損害額に補填すべきものと解するのが相当である(前記最高裁判決参照)。