ID番号 | : | 08062 |
事件名 | : | 懲戒処分無効確認等請求控訴事件 |
いわゆる事件名 | : | 日本経済新聞社(記者HP)事件 |
争点 | : | |
事案概要 | : | 新聞発行を業とするYで記者Xが、自らのホームページ(HP)上において報道現場における疑問点について論じた文章を公開していたが、そこにはXが事実と異なる取材相手の名前を適当に考えて報告したことによりYの新聞に虚偽の記事が掲載されたとの記述等が含まれていたところ、これを知った上司AからHPを閉鎖するよう指摘を受けたため、HPに関する社内基準の作成を要請したうえでこれに応じたが、右基準の作成がなされなかったことからHPを再開するとともにYが社外秘としている事実やYを批判する文章等を公開したところ、この再開を知ったAから再度HPの閉鎖を求められ、またYからは事情聴取を経て上申書と顛末書の提出を指示され、HPを閉鎖したが、その後14日の出勤停止処分及び資料部への配転が命じられたことから(結局Yを依願退職している)、Yに対し、出勤停止処分等を違法、無効として、その無効確認、不支給賃金等支払、及び不法行為に基づく損害賠償の支払を請求したケースの控訴審で、Xの行為はYの就業規則所定の懲戒事由に該当し、Yによる懲戒処分が不相当であるともいえないとしてXの控訴が棄却され、一審の結論が維持された事例。 |
参照法条 | : | 労働基準法2章 労働基準法89条9号 |
体系項目 | : | 懲戒・懲戒解雇 / 懲戒事由 / 守秘義務違反 配転・出向・転籍・派遣 / 配転命令の根拠 |
裁判年月日 | : | 2002年9月24日 |
裁判所名 | : | 東京高 |
裁判形式 | : | 判決 |
事件番号 | : | 平成14年 (ネ) 2307 |
裁判結果 | : | 棄却(上告) |
出典 | : | 労働判例844号87頁 |
審級関係 | : | |
評釈論文 | : | 小西康之・ジュリスト1238号138~141頁2003年2月1日 |
判決理由 | : | 〔懲戒・懲戒解雇-懲戒事由-守秘義務違反〕 控訴人は、不特定多数の者がその内容を知り得るインターネット上の自己のホームページに、被控訴人の新聞記者として活動する中で知り得た事実や体験を題材として作成した文章を掲載し、その一部には、取材過程や取材源を明らかにする記述や、被控訴人の記事には記者によって創作された部分が日常的にあるのではないかとの不信感を読者に与えかねない記述があったもので、控訴人は、控訴人が公開している文章の問題点を上司から指摘され、ホームページの閉鎖を求められて、一旦はこれに応じたものの、被控訴人がホームページに関する社内基準を作成しないことを理由に、被控訴人の了解を得ないままホームページの公開を再開し、問題点を指摘された文章についても、これを削除したり、修正を加えたりすることもなくそのまま再掲したばかりか、その後も、取材過程や取材源を明らかにする記述を含んだ新たな文章や、被控訴人のマスコミとしての信用に傷をつける記述を含んだ文章を新たに掲載したものということができる。 仮に、取材源等を秘匿することが控訴人の指摘するようにマスコミの悪しき慣行であるとしても、取材源や具体的な取材の過程を公表することにより、実際問題として被控訴人の今後の円滑な取材活動が妨げられるなど、被控訴人の業務に支障が出るおそれがある以上、その公表は、雇用者である被控訴人の判断に委ねられるべきであり、控訴人が、一般論として被控訴人の悪しき慣行を批判することは言論の自由として許されるとしても、従業員である控訴人の一方的な判断で、控訴人が被控訴人の新聞記者として行った具体的な取材の過程や取材源を被控訴人の了解もなく個人的に公表することが許されないことは明らかであって、それが被控訴人の経営、編集方針でもあることは、控訴人が公開している文章の問題点を上司から指摘され、ホームページの閉鎖を求められたことからも容易に認識できたというべきである(〈証拠略〉によれば、控訴人は、前記「誤報の裏で」と題する文章中で、「新聞業界には「~営業課長によると」などと書いてはいけない習慣がある。読者の重要な判断材料となる情報源は、明かされない仕組だ。」と記述していたことが認められ、控訴人自身、取材源の秘匿がマスコミの慣行であることは十分に認識していたものである。)。そして、上司によるホームページの全面的な公開禁止が行き過ぎた指示であったとしても、控訴人が自らの判断でこれを再開するに当たり、少なくとも問題点を指摘された文章を削除するなどの措置を講ずることは容易に可能であったにもかかわらず、控訴人は、被控訴人の了解を得ないままホームページの公開を再開し、問題点を指摘された文章を削除したり、修正を加えたりすることもなくそのまま再掲したばかりか、その後も、取材の過程や取材源を公表する記述を含んだ新たな文章を公開したのであるから、被控訴人の就業規則33条1号によって従業員が遵守すべきこととされている「会社の経営方針あるいは編集方針を害するような行為をしないこと」に故意に反したものというほかない。そればかりか、控訴人の「捏造記事」と題する文章は、記者である控訴人自身が自らの記事の一部(取材対象者の名前)に創作があったことを吐露したものであり、それ自体は些細なことであっても、被控訴人の記事には記者によって創作された部分が日常的にあるのではないかとの不信感を広く読者に与えかねないものであり、これをホームページに掲載することが同号に反することも明白であり、また、「悪魔との契約1ないし4」と題する文章は、被控訴人を「悪魔」あるいは「屍姦症的性格を帯びた邪悪な企業」と呼称するものであり、被控訴人のマスコミとしての信用を害するものであって、同就業規則35条2号において、「会社の秩序風紀を正しくよくしていくために」遵守すべきとされている「流言してはならない。」に反するものであるというほかないから、控訴人には同就業規則71条1号所定の懲戒処分事由(就業規則違反)があり、その内容に鑑みれば、14日間の出勤停止処分である本件懲戒処分が不相当であるということもできない。 〔配転・出向・転籍・派遣-配転命令の根拠〕 控訴人について、いかなる場合にも新聞記者以外の職種への配転がされることはないという内容の限定された雇用契約が締結されたとはいえないところ、本件配転命令は、控訴人が受けた本件懲戒処分が新聞記者としての業務に関して生じた懲戒事由に基づくものであったため、控訴人を本社における取材業務に就かせることは当面相当ではないと判断されたことに基づくものであって、控訴人が入社間もない若年者であったことに鑑みても、その判断には合理性があり、本件配転命令が違法であるとは認められない。 |