全 情 報

ID番号 08068
事件名 保険金引渡請求事件
いわゆる事件名 倉持(総合福祉団体生命保険)事件
争点
事案概要 砂利の販売等を事業とするYの役員であった亡Aの相続人であるXらが、Yが亡Aを被保険者として締結した団体定期保険及び個人生命保険契約に基づき、亡Aの死亡によってYが支払を受けた保険金について、各法定相続分に応じた死亡保険金及び入院給付金等の支払いを求め、又は被告の退職金規定に基づいて計算された死亡退職金の未払分の支払を求めたケースにおいて、本件団体定期保険については、企業が保険金の一部を取得しないことが予定されている等の契約の性質上、未払保険金は不当利得に当たるとして引渡しを認める一方、個人生命保険契約については、保険金を遺族に支払う旨の合意がなされていない上、企業がその保険金の一部を取得することが許されないとはいえず、信義則上の引渡義務もないとして引渡しを認めなかった事例。
参照法条 労働基準法11条
労働基準法3章
労働基準法89条3号の2
体系項目 労働契約(民事) / 労働契約上の権利義務 / 団体生命保険
賃金(民事) / 退職金 / 死亡退職金
裁判年月日 2002年10月21日
裁判所名 東京地
裁判形式 判決
事件番号 平成12年 (ワ) 7096 
裁判結果 一部認容、一部棄却(控訴)
出典 労働判例842号68頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔労働契約-労働契約上の権利義務-団体生命保険〕
 以上によれば、本件保険契約1にはヒューマンヴァリュー特約が付されていないところ、本件保険契約1は、ヒューマンヴァリュー特約を付さない限り、その保険金の利用目的が役員又は従業員に対する弔慰金等の支払に限定され、保険金額が弔慰金規定等所定の弔慰金額を超えないものとされ、保険金全額がすべて弔慰金等として同規定所定の受給者に支払われ、企業が保険金の一部を取得しないことが契約上予定されている。そして、本件保険契約1の保険金受取人は被告とされているところ、企業を保険金の受取人とする旨が約定された場合であっても、企業が保険会社から支払を受けた保険金は、弔慰金規定等に基づきその全額が同規定に定める受給者に支払われることとされ、受給者のこのような権利を実効あらしめるため、企業が保険金を請求する際受給者がこれを了知することを要するとされている。
 以上判示の点を総合すれば、被告が本件保険契約1に基づきB生命から支払を受けた役員死亡保険金は、弔慰金規定等の受給者に対しその全額が支払われることが、本件保険契約1の契約内容とされていたと解すべきである。〔中略〕
 原告らは、Aが本件保険契約2及び3の被保険者になることを同意する際、被告との間で、Aが死亡したとき又は高度障害を負ったときは、被告が受け取る保険金の全部又は相当部分を遺族に支払う旨の明示の合意が成立した旨主張するが、本件全証拠によっても、これを認めることはできない。〔中略〕
 原告らは、会社が自ら雇用する労働者や取締役を被保険者として保険契約の契約者兼保険金受取人となった場合には、信義則上の義務として、特段の事情のない限り、会社が受け取った高度障害保険金又は死亡保険金のうちその相当額を、被保険者となった当該労働者若しくは取締役又はその遺族に支払う義務を負う旨主張する。
 イ しかし、企業が保険契約者及び保険受取人になり、役員、幹部、従業員等を被保険者とする個人保険契約の目的の一つが、弔慰金や退職金等の従業員等あるいはその遺族に対する福利厚生措置の財源確保にあるとしても、企業がその保険金の一部を取得すること自体がその目的に反するものではないことは前判示のとおりである。そして、前判示の金融監督庁のガイドライン(〈証拠略〉)及び他の行政指導等も企業が保険金を取得することを前提として、従業員等又はその遺族に対する福利厚生措置の財源確保等という目的に沿って業務運営が行われるように企業を指導する旨をいうにすぎず、直ちに被保険者の遺族に対し企業に対する保険金引渡請求権を付与することを予定するものではなく、他に、本件保険契約2及び3について、被保険者である役員又はその遺族が保険金受取人に対し法律上保険金の支払請求権を有すると解すべき根拠もない。
〔賃金-退職金-死亡退職金〕
 前判示の事実によれば、Aは、昭和28年12月1日入社して従業員となって以後、常務取締役に就任した時も退職金の支払を受けておらず、その死亡時に入社以来死亡時までの勤続期間に応じる退職金の支払を受けている上、常務取締役に就任した後も被告代表取締役の指揮命令の下に経理等の業務に従事していたのであるから、常務取締役就任後もその従業員たる地位も失わなかったものと認められる。
 そして、このようなAの死亡退職金額が被告の定めた規定に基づき算定すると2770万8000円となることが当事者間に争いのないことは、前判示のとおりである。