全 情 報

ID番号 08100
事件名 地位保全等仮処分命令申立事件
いわゆる事件名 名古屋セクハラ(K設計)事件
争点
事案概要 建設、設計を業とする株式会社Yに勤務していたXが、セクシュアル・ハラスメントを受けたことなどについて、Yに対し就業環境改善要求を申し出たが、適切な対応がされないままに配転命令を受けるなどした後、懲戒解雇されたため、同解雇は無効であるとし、労働契約上の権利を有する地位にあることを仮に定めること等を求めたケースで、本件配転命令が無効である以上、Xがこれに従わず、大阪事務所に出勤しなかったことをもって、「正当な理由なく無断欠勤14日以上に及び、出勤の督促に応じないとき」に当たるということはできず、これを懲戒解雇事由とする本件懲戒解雇は無効というべきであるとし、Xの申立てが一部認容された事例。
参照法条 男女雇用機会均等法21条
労働基準法89条9号
労働基準法24条
民事保全法23条
体系項目 労基法の基本原則(民事) / 均等待遇 / セクシャル・ハラスメント、アカデミック・ハラスメント
懲戒・懲戒解雇 / 懲戒事由 / 職務懈怠・欠勤
懲戒・懲戒解雇 / 懲戒事由 / 業務命令拒否・違反
賃金(民事) / 賃金・退職年金と争訟
裁判年月日 2003年1月14日
裁判所名 名古屋地
裁判形式 決定
事件番号 平成14年 (ヨ) 868 
裁判結果 一部認容、一部却下(抗告(後抗告取下))
出典 タイムズ1138号105頁/労働判例852号58頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔労基法の基本原則-均等待遇-セクシャル・ハラスメント、アカデミック・ハラスメント〕
 A所長は、債権者に対し、「Xさんは、女性にはいつも優しいね。」と酔ってやゆするような調子で言い、さらに、「ぼくたちには、いつも冷たいけど。」と言った。そのA所長の言葉に同調して、B次長は、「そうだ、サービスが悪い。」とげらげら笑いながら大声で言った。その笑いに他の社員も同調して笑っていた。債権者は、屈辱的で不快な思いを抱いて、その場を離れた(この点につき、債務者は、そのような発言がなされたとしても、これが「職務上の地位や権限を利用して不利益や利益を与える性的言動」(いわゆる「対価型セクシュアル・ハラスメント」)に該当しないことはもとより、「労働環境や就業環境に著しく悪い影響を与える性的言動。職務の遂行や能力の発揮などに支障が出たりするようなもの」(いわゆる「環境型セクシュアル・ハラスメント」)にも該当し得るようなものではないことは明らかである旨主張する。しかし、かかる発言自体が直ちにセクシュアル・ハラスメントに該当するものではないとしても、少なくとも債権者に屈辱的で不快な思いを抱かせるに足りる言動ということができ、後記認定のとおり、債権者において、そのような発言を受ける就業環境が著しく不快なものであり、個人の職業能力発揮に支障を生じるものであるなどとして、苦情申入れとしかるべき対応を求める旨の本件申入れをしたことについて、これが不当であるとか、理由がないとかいうことの根拠となり得るものではない。)。
〔懲戒・懲戒解雇-懲戒事由-職務懈怠・欠勤〕
〔懲戒・懲戒解雇-懲戒事由-業務命令拒否・違反〕
 債権者は、平成3年1月に臨時社員として債務者の名古屋事務所に採用され、同年7月に正社員となった以降、10年以上にわたり、名古屋事務所において勤務してきたものであり、債権者にとって大阪への配置転換が一定の不利益を伴うものであることは明らかである。
 そして、債権者が、本件申入れを行い、その後の債務者側の対応に納得しないまま、愛知労働局雇用均等室にも相談するなどした上で、債務者に対し、セクシュアル・ハラスメントの防止と就業環境の改善を要求してきたことに対し、債務者は、債権者が申し立てたセクシュアル・ハラスメントや職場環境に関する事実の存否について、債権者からの個別、具体的な事情聴取をすることもなく、債権者が要求した話合いについても誠実に対応することがないまま、今回の件について雇用均等室に相談したことによって話を大きくした責任は債権者にある、その責任を取って、大阪に転勤するか、辞めるか2つに1つだなどとして、本件配転命令を発したものである。
 使用者の配転命令権は、無制約に行使することができるものではなく、これを濫用することの許されないことはいうまでもない。しかるに、本件配転命令は、債権者が本件申入れをし、これに対する債務者の対応に納得できないまま、愛知労働局雇用均等室に相談するなどしたことについて、話を大きくした責任があるとして、その責任を取らせるための不利益処分を課すことを動機・目的として行われたものということができる。しかし、債権者の申立てに係るセクシュアル・ハラスメント及び職場環境に関する事実関係は前記認定のとおりであって、債権者が虚偽事実を申し立てたなどということはできず、債権者が責任を負うべき事情は認めることができない。
 そうすると、本件配転命令は、本件申入れをしたことなどについて何ら責任を負うべき立場にない債権者に対し、不利益処分を課すことを動機・目的として行われたものであり、不当な動機・目的に基づくものというべきであって、配転命令権を濫用した無効なものといわざるを得ない。
 ウ 本件配転命令が無効である以上、債権者がこれに従わず、大阪事務所に出勤しなかったことをもって、「正当な理由なく無断欠勤14日以上に及び、出勤の督促に応じないとき」に当たるということはできず、これを懲戒解雇事由とする本件懲戒解雇は無効というべきである。