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ID番号 08107
事件名 地位確認等請求控訴事件
いわゆる事件名 平和学園高校(本訴)事件
争点
事案概要 学校法人Yが設置する高等学校の音楽教諭として勤務するXが、生徒数減少を受けて行われたYによる解雇が違法、無効であると主張して、Yに対し、労働契約上の権利を有する地位であることの確認及び賃金の支払を求めたケースの控訴審で、人員整理の必要性、解雇回避努力、被解雇者選定の合理性、手続の妥当性に照らして、解雇を有効とした原審の結論が維持され、Xの請求が棄却された事例。
参照法条 労働基準法18条の2
労働基準法89条3号
体系項目 解雇(民事) / 整理解雇 / 整理解雇の要件
解雇(民事) / 整理解雇 / 整理解雇の必要性
解雇(民事) / 整理解雇 / 整理解雇の回避努力義務
解雇(民事) / 整理解雇 / 整理解雇基準・被解雇者選定の合理性
裁判年月日 2003年1月29日
裁判所名 東京高
裁判形式 判決
事件番号 平成14年 (ネ) 2312 
裁判結果 控訴棄却(上告)
出典 労働判例856号67頁
審級関係 一審/08049/横浜地/平14. 3.14/平成11年(ワ)4097号
評釈論文
判決理由 〔解雇-整理解雇-整理解雇の要件〕
 「当裁判所は、以下において説示するとおり、被控訴人学園の控訴人に対する本件解雇は、整理解雇として、被控訴人学園の就業規則12条1(4)所定の「学級数の減少、その他やむなき事情より剰員が生じたとき。」の解雇事由に該当する適法なものであって解雇権の濫用には当たらないと判断するものである。整理解雇が適法であるか否かを判断するに当たっては、後記のとおり、〔1〕 人員整理の必要性、〔2〕解雇回避努力義務の遂行、〔3〕 被解雇者選定の合理性及び手続の妥当性等を重要な判断要素として総合的に検討するべきであると考えるが、本件解雇に当たって被控訴人学園が準拠した整理対象者の選定基準(本件整理基準)として、学級担任の適性(教員としての資質)及び専門教科の学力・技能等が考慮されていたことにかんがみ、以下においては、被控訴人学園の設立経緯・教育方針等(1(1))、控訴人の勤務状況等(同(2))、人員整理の実施経過(同(3))について順次検討した上で、本件解雇事由の就業規則該当性(同(4))について検討することとする。〔中略〕
〔解雇-整理解雇-整理解雇の必要性〕
 財政状況の判断に当たっては、学校が諸活動に必要な資産を継続的に保持するために維持すべきものとして、帰属収入から組み入れられた金額(基本金の額)が維持されているか否か(貸借対照表の「消費収支差額の部」が、プラスかマイナスか)が最も重要なメルクマールであると考えられるが、被控訴人学園は、平成10年度にはこの消費収支差額の部がマイナスに転じており、しかも、これが急速に増大しているのである(〈証拠略〉)。したがって、被控訴人学園の財政状況は逼迫した状態にあるといわざるを得ないのである。
〔解雇-整理解雇-整理解雇の要件〕
 整理解雇の適否を判断するに当たっては、いわゆる整理解雇の4要件が重要な考慮要素になることは前記のとおりであるが、整理解雇も普通解雇の一類型であって、ただ経営状況等の整理解雇に特有な事情が存することから、整理解雇の適否を判断するに当たっては、それらの事情を総合考慮しなければならないというものに過ぎないのであって、法律上整理解雇に固有の解雇事由が存するものとして、例えば、上記の4要件がすべて具備されなければ、整理解雇が解雇権の濫用になると解すべき根拠はないと考えられる。
〔解雇-整理解雇-整理解雇の回避努力義務〕
 原判決が認定するとおり、被控訴人学園は、平成10年4月、教職員等に構想及び大綱を提示して、学校改革の方針、人件費削減の必要性及び今後の手順等を明らかにした上、希望退職の募集を開始し、募集期限を再延長した後、控訴人を含む13名の教職員に個別の手紙を送付して希望退職に応じるよう説得したが、期限後もこれに応じなかった控訴人ら5名に対して退職勧奨を行い、平成11年2月になっても申し出がなかった控訴人ら3名に対し、同月26日付けで解雇予告通知書を送付したものであり、被控訴人学園としては解雇回避努力義務を尽くしたものということができる。
〔解雇-整理解雇-整理解雇基準・被解雇者選定の合理性〕
 控訴人は、被控訴人学園が同学園における在るべき教師の資質として最も重要視してきたクラス担任への就任要請を、被控訴人学園が納得し得る十分な理由がないのに2度にわたって断り続け、控訴人自身その重要性を認識していながら、その後もクラス担任を引き受ける旨の申し出をしたことはなく、本件解雇に至るまでクラス担任に全く就任した実績がなかったこと、問題とされた人型紙人形事件は、控訴人の内心の意図としては、あるいは一時的な衝動に駆られた行動であり、深い意図や害意はなかったとしても、神を信じ隣人を愛するキリスト教主義を建学の精神とする被控訴人学園にとっては、教師としての基本的な資質、人間性、倫理性を疑わせるものとして到底許されない非違行為として受け止められており、教育関係者に対して看過し得ない衝撃を与えたことは否定し難いところであること、控訴人の礼拝時や演奏会等におけるオルガン演奏についても、自己研鑽したとはいえ、音楽科教諭として期待されていた技能水準には遂に達しておらず、また、厳粛な雰囲気を損なう不適切な行動もあって、上司から再三指導を受けていたこと、その他原判決が認定するような諸事情が認められるところである。確かに、上記のとおり控訴人は、自己研鑽に努めるなど前向きに技能の習得に取り組み、与えられた職務は一応こなしていたものと認められるが、教育に携わる者として常に研鑽に励み、より質の高い教育を実践すべきは当然のことであるともいい得るのであるから、そのことをもって控訴人に教諭としての適格性が備わっているとするのは困難であるといわざるを得ない。
 そうすると、被控訴人学園が、控訴人のこれまでの勤務状況等を総合的に評価して、控訴人が本件整理基準の〔A〕 学級担任を任せられない人(教員としての資質に問題のある人)、〔B〕 専門の教科学力・技能に問題があると考えられた人及び〔D〕 生活上問題のない人(夫が職業についている人及び独身者)に該当するものとして解雇の対象者としたことには合理性があり、したがって、本件解雇は解雇権の濫用には当たらないといわざるを得ない。