ID番号 | : | 08110 |
事件名 | : | 地位確認等請求控訴事件 |
いわゆる事件名 | : | 大阪空港事業(関西航業)事件 |
争点 | : | |
事案概要 | : | 伊丹空港の航空貨物の積み降ろしや機内掃除等の業務を営む会社Yの専属的下請会社Aの従業員であったXら32名が、関西国際空港開港による人員過剰に起因するYからの業務委託契約解除により経営困難に陥ったAの事業閉鎖に伴い、Aから全従業員対象として解雇されたところ、〔1〕YとAは実質的には同一であること、〔2〕Yは労組B弱体化という不当労働行為を目的としてAの法人格を利用し濫用したこと、もしくは〔3〕黙示の労働契約の成立、〔4〕議事録等の存在を根拠として、雇用契約上の権利を有する地位の確認及び賃金の支払を請求したケースの控訴審で、一審の結論と同様、Xの主張は認められないとして、請求が棄却された事例。 |
参照法条 | : | 労働基準法10条 民法1条3項 |
体系項目 | : | 労基法の基本原則(民事) / 使用者 / 法人格否認の法理と親子会社 |
裁判年月日 | : | 2003年1月30日 |
裁判所名 | : | 大阪高 |
裁判形式 | : | 判決 |
事件番号 | : | 平成12年 (ネ) 3513 |
裁判結果 | : | 棄却(上告) |
出典 | : | 労働判例845号5頁 |
審級関係 | : | 一審/07607/大阪地/平12. 9.20/平成9年(ワ)6423号 |
評釈論文 | : | 本久洋一・法学セミナー49巻8号117頁2004年8月/和田肇・労働判例850号5~11頁2003年9月1日 |
判決理由 | : | 〔労基法の基本原則-使用者-法人格否認の法理と親子会社〕 法人格の濫用による法人格否認の法理は、法人格を否認することによって、法人の背後にあってこれを道具として利用して支配している者について、法律効果を帰属させ、又は責任追及を可能にするものであるから、その適用に当たっては、法人を道具として意のままに支配しているという「支配」の要件が必要不可欠であり、また、法的安定性の要請から「違法又は不当な目的」という「目的の要件」も必要とされるのであり、法人格の濫用による法人格否認の法理の適用に当たっては、上記「支配の要件」と「目的の要件」の双方を満たすことが必要であると解される。 そして、取引行為等から生じる単発的又は定型的な法律関係とは異なり、本件のような雇用関係という継続的かつ一定程度包括的な法律関係の存在を法人格否認の法理を適用して背後にある法人との間で認める場合には、上記「支配の要件」における支配の程度は、上記法律関係の特質にかんがみ、強固なものでなければならず、双方の法人が実質的に全く同一であることまでは要しないとしても、背後にある法人が、雇用主と同視できる程度に従業員の雇用及びその基本的な労働条件等について具体的に決定できる支配力を有していたことを要するものと解される。 したがって、「支配の要件」と「目的の要件」とを単に相関的にとらえ、濫用目的が強度であれば支配の程度は緩やかであっても、法人格否認の法理が適用されるとの控訴人らの前記主張は、採用することができない。 3(一) そこで、以上のような見地から、本件を検討するに、前記認定事実によれば、会社Aは、被控訴人の元臨時従業員が、被控訴人の協力を得て設立したその専属的下請業者であり、その経営は、被控訴人からの業務の発注に依存し、被控訴人の保証の下に金融機関から融資を受けていたこともあって、被控訴人は、委託業務量、委託代金の単価等下請委託契約の内容を定めるに当たっては、会社Aに対し、取引上優越的な立場を有していたものであり、関西航業の経営面、労使問題等においても、事実上強い影響力を及ぼしていたものと認められる。 しかしながら、前記一2(一)のとおり、〔1〕被控訴人と会社Aの間には株式の保有関係や役員の派遣等の人事面での交流はなく、被控訴人が、会社Aの株主として又はその派遣役員等を通じて、会社Aの経営方針・業務執行等について最終的に決定できる地位にはなかったこと、〔2〕会社Aの従業員の賃金の総枠については、事実上被控訴人が会社Aに支払う委託代金によって左右されるものではあるが、これは、会社Aが被控訴人の専属的下請業者であることから、被控訴人からの収入が賃金支払の原資となるという以上のものではなく、個々の従業員の採用、配置及び賃金の支給額は、その総枠の中で、会社Aが独自に決定していたものであるから、被控訴人によって会社Aの従業員の採用、配置及び賃金が決定されていたということはできないし、また、従業員の出退勤・休暇等の管理、時間外労働の命令及び退職等についても会社Aが独自に行い、被控訴人は、これに関与していなかったこと、〔3〕会社Aと被控訴人との間に業務の混同はなく、また、会社Aの従業員が被控訴人の従業員の指揮命令下に作業を行うといった関係にもなかったことに照らすと、被控訴人の会社Aに対する影響力は、取引上の優越的な立場に基づく事実上のものにとどまるものであって、被控訴人が上記影響力を行使して会社Aの従業員の雇用及びその基本的な労働条件等を具体的に決定することができる支配力を有し、あるいはこれを行使してきたとまで認めることはできないから、法人格の濫用による法人格否認の法理の適用の要件としての被控訴人による会社Aに対する支配があったということはできない。 |