ID番号 | : | 08124 |
事件名 | : | 地位確認等請求控訴事件(3573号)、仮執行の原状回復他申立事件(4637号) |
いわゆる事件名 | : | 日本工業新聞社事件 |
争点 | : | |
事案概要 | : | 日刊新聞の発行及び図書の印刷・発行等を業とする株式会社Yの経済記者で組合員でもあったXが、論説委員会論説委員となった後、その約二年後に販売・開発局の千葉支局長に配転を命じられたのに対し、これに異議をとどめつつ赴任したが、8ヵ月にわたり1回80行の記事を出稿したのみで、支局長としての業務を行わず、一方で、Yに対し、反リストラ・マスコミ労働者会議・A委員会(リストラ労組)を結成した旨通告して、団体交渉の申し入れを行っていたところ(リストラ労組は本件配転が不当配転であり、会社が団交を拒否して組合への支配介入しているとして地裁に救済命令の申立てをしている)、YからXの行為は就業規則の懲戒解雇事由(異動命令その他業務上の必要に基づく会社の命令を拒否したとき)に該当するとして、懲戒解雇されたことから、Yに対し、本件懲戒解雇は不当労働行為に該当し、あるいは懲戒解雇事由が存在しないか、懲戒解雇権の濫用に当たり無効であると主張して、労働契約上の地位確認及び賃金の支払等を請求したケースで、本件解雇はYが解雇権を濫用したものであり、無効であるとして、Xの請求を認容した一審に対して、解雇を有効と判断してXの請求を棄却した事例。 |
参照法条 | : | 労働基準法89条9号 |
体系項目 | : | 懲戒・懲戒解雇 / 懲戒事由 / 職務懈怠・欠勤 懲戒・懲戒解雇 / 懲戒手続 |
裁判年月日 | : | 2003年2月25日 |
裁判所名 | : | 東京高 |
裁判形式 | : | 判決 |
事件番号 | : | 平成14年 (ネ) 3573 平成14年 (ネ) 4637 |
裁判結果 | : | 取消自判(上告) |
出典 | : | 労働判例849号99頁/第一法規A |
審級関係 | : | 一審/07975/東京地/平14. 5.31/平成8年(ワ)8380号 |
評釈論文 | : | |
判決理由 | : | 〔懲戒・懲戒解雇-懲戒事由-職務懈怠・欠勤〕 被控訴人Xは、千葉支局に支局長として赴任してから本件解雇に至るまでの半年以上の間、支局長として行うべき支局や支局員に対する管理業務を一貫して行わなかったばかりか、新聞記者としても、80行程度の記事を1回出稿したのみで、その後は、記事の出稿要請を拒否し、記者として最低限の取材活動を行った形跡すら窺われず、控訴人が経営の立直策の一(ママ)貫として主催した千葉県内における展示会への参加も拒否した上に、控訴人の社長名で支局長としての業務に従事するように求められたにもかかわらず、これにも耳を傾けようとしなかったのであるから、こうした被控訴人の姿勢は、単に、会社の利益代表者と疑われるのを避けようとしたものにとどまらず、控訴人の従業員として行うべき最低限の業務をも放棄したものというほかなく、被控訴人の一連の振舞いが就業規則78条5号の懲戒解雇事由に該当することは明らかであり、その内容や、新たに発足した千葉支局の業務を半年以上にわたって滞らせた結果も重大というべきであることに鑑みると、被控訴人が千葉支局に赴任する以前の取材活動等において控訴人に対する貢献がそれなりにあったことを十分に考慮したとしても、控訴人が被控訴人を懲戒解雇したことは、客観的にみても合理的な理由に基づくものというべきであり、本件解雇は、社会通念上相当と是認することができ、懲戒権を濫用したものということはできない。 〔懲戒・懲戒解雇-懲戒手続〕 就業規則及び賞罰委員会規程の文言及び内容、殊に、賞罰委員会の委員が役員又は局長以上の職位を有する者の中から選任されるものとされていることに鑑みると、本件賞罰委員会は、労使の代表等によって構成される懲戒委員会などの例とは異なり、使用者である控訴人の懲戒権等の行使を公正ならしめるために設置された内部的な機関にすぎず、このような本件賞罰委員会の性格に照らすと、賞罰委員会規程が委員会の審議に加わることができないものとしている「事案の直接の関係者」とは、当該賞罰の議に付された本人又はこれに準ずる者及び賞罰の審議の対象とされた賞罰事由(非違行為等)そのものに直接関わった者(本人と共同して非違行為等に関わった者など)をいうと解するのが相当であり、同規程の定めは、これらの者が委員として賞罰委員会の審議に参加した場合には公正を害するおそれがあることから、これを排除する趣旨に出たものと解される。 これを本件についてみると、本件賞罰委員会には、B常務、C販売開発局長、D常務取締役、E取締役、F営業局長、G事業局長、H編集局長の7名が委員として出席し、B常務が委員長に就任して、被控訴人に対する懲戒処分が審議されたこと、委員長のB常務は管理担当の役員であり、C販売開発局長は、平成6年7月4日にI局長の後任として販売開発局長に就任して被控訴人の直接の所属長となった者であって、両名は、被控訴人に対して具体的な業務命令を出した者であること、C販売開発局長は、業務命令違反が懲戒処分に相当するとして、所属長として賞罰委員会に付議の申請(ママ)した者であることは、前記のとおりであって、このように上司として業務命令を発し又は所属長として賞罰委員会に付議の申請(ママ)した者が当該賞罰の議に付された本人又はこれに準ずる者や、審議の対象とされた非違行為等そのものに直接関わった者でないことは明らかであるから、両名が賞罰委員会規程14条所定の「事案の直接の関係者」に当たるものということはできない。これを実質的にみても、前記賞罰規程では、委員は、控訴人の役員又は局長以上の管理職員の中から選任されることとされているものであるところ、こうした役員又は管理職員は、従業員に対する業務命令に多かれ少なかれ関与することは避けられず、単に業務命令を発したとか、所属長として賞罰委員会に付議の申請をしたということだけで、審議に加わることができないとすることは、本件賞罰委員会の規程上も想定されたことではないというべきである。 のみならず、本件賞罰委員会は、前記のとおり、使用者である控訴人の懲戒権等の行使を公正ならしめるために設置された内部的な自律的制限機関にすぎないのであるから、単に議事が賞罰委員会の規程に違反して行われたということだけで、直ちに当該懲戒処分の無効を来すものと解することはできず、他には手続上の瑕疵というべき事由も見当たらないのであるから、本件解雇を無効とすることはできない。 |