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ID番号 08151
事件名 出向命令無効確認請求上告事件
いわゆる事件名 新日本製鐵(日鐵運輸第2)事件
争点
事案概要 旧A社と旧B社との合併により設立された株式会社Yの従業員X1及びX2が、Yでは鉄鋼業界の構造不況の下において経営の合理化等を図る必要があったところ、Xらの従事していた業務が会社Cへ委託されるのに伴い、委託業務の円滑な遂行等を目的としてCへの出向を命じられ、その後もYでは厳しい経営環境が続いていたこともあって、3年ごとに右出向命令が3回延長されたことから、Yに対し右出向命令が無効であるとして同出向命令の無効確認を求めたケースの上告審で、原審においては一審の結論と同様、本件出向命令には必要性、合理性が認められ、権利濫用と評すること等はできないとして、X1らの請求が棄却されたが、最高裁においても原審の判断が支持されて、X1らの上告が棄却された事例。
参照法条 労働基準法2章
民法625条
民法1条3項
体系項目 配転・出向・転籍・派遣 / 出向命令権の根拠
配転・出向・転籍・派遣 / 出向命令権の限界
裁判年月日 2003年4月18日
裁判所名 最高二小
裁判形式 判決
事件番号 平成11年 (受) 805 
裁判結果 棄却(確定)
出典 時報1826号158頁/タイムズ1127号93頁/裁判所時報1338号2頁/労働判例847号14頁/労経速報1831号25頁/第一法規A
審級関係 控訴審/07293/福岡高/平11. 3.12/平成8年(ネ)555号
評釈論文 加茂善仁・季刊労働法203号208~225頁2003年12月/小畑史子・労働基準55巻9号36~41頁2003年9月/石橋洋・法律時報76巻4号114~117頁2004年4月/大内伸哉・ジュリスト1264号140~144頁2004年3月15日/中内哲・日本労働法学会誌102号211~218頁2003年10月/本久洋一・法学セミナー49巻5号119頁2004年5月
判決理由 〔配転・出向・転籍・派遣-出向命令権の根拠〕
 原審の適法に確定した事実関係等によれば、(1)本件各出向命令は、被上告人がY社の構内輸送業務のうち鉄道輸送部門の一定の業務を協力会社である株式会社Cに業務委託することに伴い、委託される業務に従事していた上告人らにいわゆる在籍出向を命ずるものであること、(2) 上告人らの入社時及び本件各出向命令発令時の被上告人の就業規則には、「会社は従業員に対し業務上の必要によって社外勤務をさせることがある。」という規定があること、(3) 上告人らに適用される労働協約にも社外勤務条項として同旨の規定があり、労働協約である社外勤務協定において、社外勤務の定義、出向期間、出向中の社員の地位、賃金、退職金、各種の出向手当、昇格・昇給等の査定その他処遇等に関して出向労働者の利益に配慮した詳細な規定が設けられていること、という事情がある。
 以上のような事情の下においては、被上告人は、上告人らに対し、その個別的同意なしに、被上告人の従業員としての地位を維持しながら出向先であるC社においてその指揮監督の下に労務を提供することを命ずる本件各出向命令を発令することができるというべきである。
 本件各出向命令は、業務委託に伴う要員措置として行われ、当初から出向期間の長期化が予想されたものであるが、上記社外勤務協定は、業務委託に伴う長期化が予想される在籍出向があり得ることを前提として締結されているものであるし、在籍出向といわゆる転籍との本質的な相違は、出向元との労働契約関係が存続しているか否かという点にあるのであるから、出向元との労働契約関係の存続自体が形がい化しているとはいえない本件の場合に、出向期間の長期化をもって直ちに転籍と同視することはできず、これを前提として個別的同意を要する旨をいう論旨は、採用することができない。
〔配転・出向・転籍・派遣-出向命令権の限界〕
 原審の適法に確定した事実関係等によれば、被上告人が構内輸送業務のうち鉄道輸送部門の一定の業務をC社に委託することとした経営判断が合理性を欠くものとはいえず、これに伴い、委託される業務に従事していた被上告人の従業員につき出向措置を講ずる必要があったということができ、出向措置の対象となる者の人選基準には合理性があり、具体的な人選についてもその不当性をうかがわせるような事情はない。また、本件各出向命令によって上告人らの労務提供先は変わるものの、その従事する業務内容や勤務場所には何らの変更はなく、上記社外勤務協定による出向中の社員の地位、賃金、退職金、各種の出向手当、昇格・昇給等の査定その他処遇等に関する規定等を勘案すれば、上告人らがその生活関係、労働条件等において著しい不利益を受けるものとはいえない。そして、本件各出向命令の発令に至る手続に不相当な点があるともいえない。これらの事情にかんがみれば、本件各出向命令が権利の濫用に当たるということはできない。
 また、上記事実関係等によれば、本件各出向延長措置がされた時点においても、鉄道輸送部門における業務委託を継続した被上告人の経営判断は合理性を欠くものではなく、既に委託された業務に従事している上告人らを対象として本件各出向延長措置を講ずることにも合理性があり、これにより上告人らが著しい不利益を受けるものとはいえないことなどからすれば、本件各出向延長措置も権利の濫用に当たるとはいえない。