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ID番号 08172
事件名 雇用関係確認等請求事件
いわゆる事件名 伊予銀行・いよぎんスタッフサービス事件
争点
事案概要 銀行であるY2及びその関連会社に労働者派遣を行うことを業とする、Y2の完全出資子会社であり、人材派遣事業部門の営業譲渡を受けたY1に派遣労働者として雇用され、派遣先であるY2の支店業務に携わっていたXが、Y1から雇用契約の更新を拒絶された事に対し、当該更新拒絶は権利濫用として許されず、またXとY2との間にも黙示の労働契約が成立しているとして、〔1〕XとY1との雇用契約関係の存在、〔2〕XとY2との黙示の労働契約の成否、ならびに〔3〕Y2に対し不法行為責任または労働者派遣契約における派遣先としての信義則上の責任に基づき慰謝料の支払を、Y1に対し派遣先における良好な就労関係を維持するために配慮すべき注意義務を怠ったとして、慰謝料支払を請求したケースで、判決は、〔1〕に関して、Xの雇用継続に対する期待は派遣法の趣旨に照らして合理性を有さず保護すべきものとはいえないとした上で、XとY1との間の登録型雇用契約は、雇用期間の満了及びY1とY2との派遣契約の期間満了により終了したとし、〔2〕に関して、XがY2との間で明示の労働契約を締結したとの事実を認めることはできないとし、またYらによるXの雇用及び派遣体制には、派遣法の規定及び趣旨に照らして、少なからず問題があることは否めないというべきとしつつも、XとY1との雇用契約が有名無実のものであるとは言い難く、Y2とXとの間で黙示の労働契約が成立したとは認められないとし、〔3〕に関して、まずY2の不法行為責任については、全体として社会的相当性を逸脱するほどの違法性を有するものとは認めがたいとし、次に、Y1の債務不履行ないし不法行為責任については、Y1の派遣元の対応として適切な対応を試みており、XとY1との間の登録型雇用契約の雇止めは適法であって、登録型派遣労働者であるXについて新たな就業場所を確保すべき義務があるとは認められないし、本件は解雇ではないから雇止めの理由を文書で明示してなかったことも何ら違法となるものではないとして債務不履行ないし不法行為は成立せず、最後に、Yらの債務不履行ないし不法行為責任については、Yらの行為により、Xの人格的利益が侵害され、精神的損害が生じたものとまでは認められないとして慰謝料請求を退け、結論としてはXの請求をすべて棄却した事例。
参照法条 労働基準法2章
労働基準法14条
労働者派遣事業の適正運営確保及び派遣労働者の就業条件整備法2条5号
民法709条
民法415条
体系項目 解雇(民事) / 短期労働契約の更新拒否(雇止め)
労働契約(民事) / 成立
労働契約(民事) / 労働契約上の権利義務 / 使用者に対する労災以外の損害賠償
裁判年月日 2003年5月22日
裁判所名 松山地
裁判形式 判決
事件番号 平成12年 (ワ) 757 
裁判結果 棄却(控訴)
出典 労働判例856号45頁/労経速報1855号11頁/第一法規A
審級関係
評釈論文 鎌田耕一・労働判例863号5~13頁2004年4月1日
判決理由 〔解雇-短期労働契約の更新拒否(雇止め)〕
 しかし、「常時雇用される労働者」とは、雇用形式のいかんを問わず、事実上、期間の定めなく雇用されている労働者をいい、ここには、一定の期間を定めて雇用されている者であっても、その雇用期間が反復継続されて事実上、期間の定めなく雇用されている者と同等と認められる者、すなわち、過去1年を超える期間について引き続き雇用されている者、又は採用の時から1年を超えて引き続き雇用されると見込まれる者が含まれるというべきである(〈証拠略〉)。
 本件では、Y1は、原告を含めたすべての派遣労働者について、6か月の期間の定めのある雇用契約を締結していたものではあるが、採用時から1年を超えて引き続き雇用することを見込んでいたものと認められるし(〈証拠略〉)、親会社である被告Y2銀行への派遣であったことに照らすと、客観的にも1年を超えた雇用は可能と見ることができたというべきである。そうすると、Y1採用の派遣労働者は、「一定期間を定めて雇用されている者であっても、採用の時から1年を超えて引き続き雇用されると見込まれる者」に該当するから、特定労働者派遣事業の届出のみでこれを雇用することができたものと認められる。〔中略〕
〔解雇-短期労働契約の更新拒否(雇止め)〕
 一般に、有期雇用契約が反復継続したとしても、特段の事情がない限り、当該有期雇用契約が期間の定めのない契約に転化するなど、その契約の基本的性質が変容するとは認められないが、有期雇用契約が当然更新を重ねるなどして、あたかも期間の定めのない契約と実質的に異ならない状態で存在している場合、あるいは期間満了後も使用者が雇用を継続すべきものと期待することに合理性が認められる場合には、当該有期雇用契約の更新拒絶(いわゆる雇止め)をするに当たっては、解雇の法理が類推適用され、当該雇用契約が終了となってもやむを得ないといえる合理的な理由がない限り許されないというべきである(最高裁昭和49年7月22日判決・民集28巻5号927頁、同昭和61年12月4日判決・裁判集民事149号209頁参照)。これは、本件のような登録型雇用契約の場合でも同様である。
 イ そこで、検討すると、〔中略〕期間の定めのない契約と実質的に異ならない状態で存在しているとまでいえるかはともかくとして、雇止めとなった平成12年5月31日当時、原告がA支店への派遣による雇用継続について強い期待を抱いていたことは明らかというべきである。
 しかし、派遣法は、派遣労働者の雇用の安定だけでなく、常用代替防止、すなわち派遣先の常用労働者の雇用の安定をも立法目的とし、派遣期間の制限規定をおくなどして両目的の調和を図っているところ、同一労働者の同一事業所への派遣を長期間継続することによって派遣労働者の雇用の安定を図ることは、常用代替防止の観点から同法の予定するところではないといわなければならない〔中略〕。そうすると、上記のような原告の雇用継続に対する期待は、派遣法の趣旨に照らして、合理性を有さず、保護すべきものとはいえないと解される。
 ウ また、本件における原告と被告Y1との登録型雇用契約は、被告Y1と被告Y2との派遣契約の存在を前提とする契約であるところ、本件全証拠によっても、この基本的性質が変容したと認めるに足りる特段の事情は見当たらない。
 そうすると、依然として、原告と被告Y1との登録型雇用契約は被告Y1と被告Y2との派遣契約の存在を前提として存在するものである。
 そして、企業間の商取引である派遣契約に更新の期待権や更新義務を観念することはできないから、被告Y1と被告Y2との派遣契約は、その期間が満了し、更新がなされなかったことにより終了したものと認められる。
〔労働契約-成立〕
 (1)労働契約は、労働者が使用者との間に、その使用者の指揮、監督を受けて労務に服する義務を負う一方、その対価として賃金を受ける権利を取得することを内容とする債権契約であり、したがって、一般の契約と同様に契約締結者の意思の合致によってはじめて成立するものであるところ、前記認定のとおり、原告は被告Y1との間で明示の労働契約(登録型雇用契約)を締結したことが明らかである。他方、本件全証拠によっても、原告が被告Y2との間で明示の労働契約を締結したとの事実を認めることはできない。もっとも、労働契約といえども、黙示の意思の合致によっても成立しうるものであり、これは、本件のように、別途派遣法に基づく明示の派遣契約が締結されている場合でも変わるところはない。すなわち、派遣元の存在が形式的名目的なものに過ぎず、実際には派遣先において派遣労働者の採用、賃金額その他の就業条件を決定しており、派遣労働者の業務の分野・期間が派遣法で定める範囲を超え、派遣先の正規職員の作業と区別し難い状況となっており、また、派遣先において、派遣労働者に対して作業上の指揮命令、その出退勤等の管理を行うだけでなく、その配置や懲戒等に関する権限を行使するなど、実質的にみて、派遣先が派遣労働者に対して労務給付請求権を有し、かつ賃金を支払っていると認められる事情がある場合には、前記明示の派遣契約は有名無実のものに過ぎないというべきであり、派遣労働者と派遣先との間に黙示の労働契約が締結されたと認める余地があるというべきである。〔中略〕
〔労働契約-成立〕
 以上によれば、(2)アのとおり、被告らによる原告の雇用及び派遣体制には、派遣法の規定及び趣旨に照らして、少なからず問題があることは否めないというべきであるが、他方、(2)イで示したところによれば、被告Y1は形式のみでなく、社会的実体を有する企業であり、原告の就業条件、採用の決定、さらには原告に対する賃金(慰労金を含む)の支払いは、すべて被告Y1において行っているのであるから、原告と被告Y1との雇用契約が有名無実のものであるとはいい難い。
 したがって、被告Y2と原告との間で黙示の労働契約が成立したとは認められない。
〔労働契約-労働契約上の権利義務-使用者に対する労災以外の損害賠償〕
 原告が対象外業務として行っていた業務の大半を占めるものというべきメール便の処理業務について検討すると、〔中略〕被告らによる原告の雇用及び派遣体制には問題があったというべきであるが、原告の地位を長期間にわたって安定させ、結果としては原告に有利に作用してきたことも否定できないところである。
 これらに照らすと、被告らの行為により、原告の人格的利益(労働者として適法に雇用管理を受ける権利)が侵害され、精神的損害が生じたものとまでは認められないというべきである。
 なお、前述のとおり、被告Y2が原告に自己申告書を提出させていたことについては、それ自体は許されるというべきであるし、また、具体的にプライバシー侵害が生じたとは認められない。
 結局、これらの点について、被告らは債務不履行ないし不法行為責任を負うとは認められない。