全 情 報

ID番号 08203
事件名 地位保全、賃金仮払仮処分命令申立事件
いわゆる事件名 ジャパンエナジー事件
争点
事案概要 石油の精製、販売等を目的として設立された株式会社Y1(脱退債務者)の従業員であり、組合員であったXらが、転職促進のための出向満了時になされた解雇は無効であるとして、Y1から新設分割形式で営業譲渡を受け、債務者たる地位を承継したY2(参加人)に対し、〔1〕労働契約上の地位保全、及び、〔2〕賃金仮払いの仮処分を求めたケースで、本件解雇は経営合理化に伴う余剰人員の解雇であり、整理解雇の一類型と位置付け、人員整理の必要性、解雇回避努力、人選の合理性及び解雇手続の相当性といった諸要素を総合的に考慮して解雇権濫用の有無を判断するのが相当であるとした上で、本件解雇時には経営危機が最も深刻であった状況から脱しており、人員整理計画目標も達成され、かつ新規採用者がいることから人員整理の必要性を否定、一方で解雇回避のための相当の努力はなされていたとしつつ、人選の合理性につき「現在及び将来ともにグループ内での活用が困難と判断された者」との選定基準が、客観的、合理的な評価基準であるとの疎明がなく、仮に基準が合理的であるとしても、グループ内企業における適当な職場がないとした判断の根拠の疎明がないとして否定、解雇手続の相当性につき、本件解雇の根拠となる制度制定にあたっての組合との協議は相当であったが、雇用終了は組合の協約締結権限の範囲外であり、また、制度に関しXらに対し事後説明しかなされていなかったことから否定、これらを総合的に考慮すると本件解雇は合理性及び相当性を欠き、無効であるとして、〔2〕については、本決定からおよそ1年間に限り認容、その余の期間につき疎明がないとして却下、〔1〕については、疎明がないとして却下された事例。
参照法条 労働基準法18条の2
労働基準法89条3号
体系項目 解雇(民事) / 整理解雇 / 整理解雇の要件
解雇(民事) / 整理解雇 / 整理解雇の必要性
解雇(民事) / 整理解雇 / 整理解雇の回避努力義務
解雇(民事) / 整理解雇 / 整理解雇基準・被解雇者選定の合理性
解雇(民事) / 整理解雇 / 協議説得義務
解雇(民事) / 解雇権の濫用
裁判年月日 2003年7月10日
裁判所名 東京地
裁判形式 決定
事件番号 平成14年 (ヨ) 21191 
裁判結果 一部認容、一部棄却
出典 労働判例862号66頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔解雇-整理解雇-整理解雇の要件〕
 本件は、債務者が、経営合理化に伴い債権者らを余剰人員として解雇した事案であって、いわゆる整理解雇の一類型に属するものと解されるが、この場合においては、人員整理の必要性、解雇回避努力、人選の合理性及び解雇手続の相当性といった諸要素を総合的に考慮して解雇権濫用の有無を判断するのが相当であると考えられる。
〔解雇-整理解雇-整理解雇の必要性〕
 上記ア(1)記載の認定事実によれば、平成5年ころから石油業界の規制緩和を原因とする構造的な不況が始まり、債務者が他企業に劣らない競争力を保持するためには採算性を向上させて経営の合理化を図らなくてはならない状況に陥ったということは認められるものの、〔1〕長期にわたって行われた債務者の経営改善のための諸施策が功を奏して、平成10年度までに大きく落ち込んだ業績が平成11年度からは持ち直し、本件解雇の行われた前年度である平成13年度(平成14年3月決算)には経常利益として約74億円が計上されるなど、平成14年9月の本件解雇時には上記不況による経営危機は最も深刻な状態から脱していたと見ることができること、〔2〕債務者の策定した構造変革計画及び第1次・第2次経営変革計画における合計2000人の人員削減計画はいずれも平成13年度末に達成され、同時期には全従業員数が約1500名にまで減少していたこと、〔3〕平成14年度には大卒以上の従業員14名を新規採用していること(〈証拠略〉)に照らすと、債務者が、平成14年9月時点において従業員を余剰人員であるとして解雇する高度の必要性があったとはいえない。
〔解雇-整理解雇-整理解雇の回避努力義務〕
 上記ア(2)記載の認定事実によれば、債務者が、平成7年ころからコスト削減策の一環として、役員及び従業員の賃金カット、希望退職募集、移籍、配置転換、資産売却、不採算部門の休止、A社における転職支援等の様々な措置をとってきたことが認められ、これらは解雇を回避するための相当な努力として評価することができる。
〔解雇-整理解雇-整理解雇基準・被解雇者選定の合理性〕
 本件解雇の対象者は第1次・第2次本制度の適用対象者のうち、出向期間を満了しても転職先の見つからない者とされており、その前提となる第1次・第2次本制度の適用対象者は、管理職以外の従業員であって、現在及び将来ともにグループ内での活用が困難と判断された者、すなわち、本人の保有技術、技能、知識等を十分に見極めた上で、将来の活用の可能性について慎重かつ総合的に判断した結果、債務者グループ内に適当な職務を見出せない者をいうとされている。このような人選基準もその判断が客観的、合理的に担保されていれば一つの基準として是認し得るが、現在の活用可能性はともかく、将来の活用可能性という不確定な要素をも判断要素に加える点については、債務者の裁量が入り込む余地が高いものといわざるを得ないから、その判断が客観的、合理的に担保されているといえるためには、そのような裁量を許さない十分な評価基準が整備されていることが必要であると考えられるが、一件記録を精査しても、この点については十分な疎明がない。
〔解雇-整理解雇-協議説得義務〕
 本件解雇は出向期間の定め及び同期間満了後の解雇を内容とする第2次本制度を根拠としてなされたものであるから、同制度の策定手続の相当性を検討すべきであるところ、債務者は、上記ア(3)記載のとおり、債権者らが属する本件組合との間で同制度の策定につき15回に上る労使協議会を経て、組合側の要望も取り入れた形で労使協定を締結し、最終的な合意に至っているのであって、この点は手続の相当性を基礎付ける事情として一応評価することができる。
 しかしながら、本来、特定の組合員の雇用の終了に関する事項は、労働組合の一般的な労使協定締結権限の範囲外であり、当該組合員の授権を個別に得ることが必要と解されるところ、本件組合は、既に第1次本制度の適用対象者とされており、第2次本制度が実施されればいずれ被解雇者となる可能性の高い債権者らの意見を聴くことなく、上記労使協定を締結したものであり、他方、債務者も、債権者らに対し、第2次本制度策定について事後的な説明をしたに過ぎないのであって、これらの事情を考慮すると、債務者のとった手続が債権者らとの関係で十分な相当性を備えたものであるということはできない。
〔解雇-解雇権の濫用〕
 以上によれば、債務者が解雇回避のための努力をしたことについては評価することができるけれども、人員整理の必要性、人選の合理性、解雇手続の相当性についてはいずれも不十分であり、これらを総合的に考慮すると、本件解雇は、整理解雇としての合理性及び相当性を認めることができず、解雇権の濫用にあたり無効といわざるを得ない。