全 情 報

ID番号 08212
事件名 地位確認等請求事件
いわゆる事件名 ゼネラル・セミコンダクター・ジャパン事件
争点
事案概要 ダイオードを主とした半導体製品を日本国内で輸入販売している株式会社であるYが、Yの親会社であるAがB1により買収され、YもB1の子会社であるB2の統括下に入ったところ、B2の経費削減の意向を受け、Xを含む5名を整理解雇したことに対し、Xが解雇の無効を主張して、〔1〕労働契約上の権利を有する地位にあることの確認、〔2〕未払い賃金の支払を求めたケースで、本件解雇がYの就業規則の整理解雇の規定の要件を充たしているか否かを判断するにあたっては、Yにおける人員削減の必要性、解雇回避努力の有無、人選の合理性の諸要素を総合して判断するのが相当であるとした上で、人選の合理性につき、それなりの合理性がないわけではないとしながらも、Xのように長年問題もなく勤務してきた従業員を解雇するには、真に、人員削減の必要性があり、解雇回避努力も尽くした上でなければ解雇は有効となりえないとし、人員削減の必要について、Yの売上げは横ばいか、若干微増の状況が続いており、未処分利益余剰金も計上されていること、従業員数の削減目標を本件解雇前月までに達成していたこと等から、立証がなされていないとして、解雇回避努力について、本件解雇に際しては、何らの解雇回避努力を尽くしていないとして、就業規則の解雇規定該当性を否定し、本件解雇に理由なしと判断、Xの請求が、〔1〕〔2〕いずれも認容された事例。
参照法条 労働基準法18条の2
労働基準法89条3号
体系項目 解雇(民事) / 整理解雇 / 整理解雇の要件
解雇(民事) / 整理解雇 / 整理解雇の必要性
解雇(民事) / 整理解雇 / 整理解雇の回避努力義務
裁判年月日 2003年8月27日
裁判所名 東京地
裁判形式 判決
事件番号 平成14年 (ワ) 25003 
裁判結果 認容(控訴)
出典 タイムズ1139号121頁/労働判例865号47頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔解雇-整理解雇-整理解雇の要件〕
 就業規則の規定(「職制の改廃、経営の簡素化、事業の縮小その他会社業務の都合により剰員を生じたとき」、「その他会社業務の都合上、やむを得ない事由があるとき」に該当する事実が存在するときは、被告は、従業員を解雇することができるとの規定)は、いわゆる整理解雇の定めと解することができる。この点に関し、被告は、人員削減の必要性があり、解雇回避努力を尽くしており、解雇される従業員の選定基準、選定も合理的であるとして、就業規則第四六条(6)、(7)の要件をいずれも充たしているので本件解雇は有効であると主張し、原告はこれを否認し、この点が本件の争点であるので、以下、被告の主張が認められるか否かについて検討することにする。〔中略〕
〔解雇-整理解雇-整理解雇の要件〕
〔解雇-整理解雇-整理解雇の必要性〕
〔解雇-整理解雇-整理解雇の回避努力義務〕
 本件解雇が就業規則第四六条(6)、(7)の要件を充たしているか否かを判断するに当たっては、被告において人員を削減する必要があったのか、被告の解雇回避努力の有無、人選の合理性の諸要素を総合して判断するのが相当である。
 イ これを本件についてみるに、前記1及び2(3)、(5)によれば、原告は月額三九万円余の賃金を得ている従業員であるところ、原告の行っている業務は出荷伝票等の作成が主であり、英語力、PC能力の不足、会社への貢献度等を考えると、経営者である被告においてこの際原告を解雇しようとする意図にはそれなりの合理性がないわけではない。しかし、原告は前記(3)イ(ア)で認定したとおり入社時には英語力、PC能力を持っていることは要件とされていなかったのであり、入社以来二〇年間以上問題もなく被告に勤務していたものであり、このような従業員を解雇するためには、真に、人員削減の必要性があり、解雇回避努力も尽くした上での解雇でなければ、解雇は有効とはなり得ない。
 ウ これを本件についてみるに、被告は人員削減の必要性を主張するが、前記認定事実によれば、〔1〕被告の平成一三年五月から現在に至るまで売り上げは横ばいか、若干微増の状況が続いており、平成一三年度の当期未処分利益剰余金は六億一〇〇〇万円もあり、これは同年度の給与手当一億七〇二三万円の約三年半分に相当する額であること、また、同一四年度上半期の未処分利益剰余金も依然として五億五〇二〇万円を計上していること(前記(3)エ(ア))、〔2〕被告の従業員の推移をみると、本件解雇前月までの従業員数はYが発表した平成一二年末の従業員数を二三%削減するという目標を達成した数字であること、また、被告において、平成一三年末の正社員数を五名削減する必要があったというのであれば、本件解雇前月までに五名退職しており原告を解雇しなくても既に目標を達成していること(前記(3)カ(イ))、〔3〕被告の従業員のうちカスタマーサポート業務に従事している者は、平成一三年五月一日時点で、正規従業員が原告を含めると六名、有期契約社員二名、派遣社員一名の合計九名であるところ、本件解雇後の平成一四年七月時点でも、正規従業員二名、有期契約社員二名、派遣社員五名の合計九名と総数はまったく同じであること(前記(3)カ(ウ))などが認められ、そうだとすると、就業規則第四六条(6)にいうところの「会社業務の都合により剰員を生じたとき」、換言すれば人員を削減する必要があったか否かは疑問であり、未だこの点の立証がされているとはいえない。また、被告は過去における解雇回避努力を主張するが、これをもって、本件解雇の際の解雇回避努力の事実ということはできず、前記(4)イで認定した事実によれば、被告は、本件解雇に際しては、何らの解雇回避努力を尽くしていないといえる。以上のような本件に顕れた解雇に関する諸事情を総合すると、被告は、就業規則第四六条(6)、(7)の要件である「職制の改廃、経営の簡素化、事業の縮小その他会社業務の都合により剰員を生じたとき」、「その他会社業務の都合上、やむを得ない事由があるとき」に該当する事実の存在を立証しているということはできず、この判断を覆すに足りる証拠は存在しない。