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ID番号 08214
事件名 「窒素磁石」に係る発明の対価請求事件
いわゆる事件名 日立金属窒素磁石事件第一審判決
争点
事案概要 磁性材料などの研究開発・製造販売などを業とする株式会社Yの従業員であったXが、「希土類-鉄-窒素系永久磁石」に関する本件各発明は特許法35条1項所定の職務発明であり、Yに特許を受ける権利を承継させたとして、同条3項に基づき、Yに対し、その「相当の対価」としてY規程により支払われた金員との不足額の支払を求めた事案で、裁判所は、「相当の対価」を定めるに当たっては、「その発明により使用者などが受けるべき利益の額」及び、「その発明がされるについて使用者などが貢献した程度」という二つの要素ならびに諸般の事情を総合的に考慮して算定するとし、そして、Yの貢献度を全体の90%とし、残りの10%から、Y規程に基づいて支払われた金員を控除した範囲について、Xの請求を認容した事例。
参照法条 特許法35条4項
労働基準法2章
体系項目 労働契約(民事) / 労働契約上の権利義務 / 職務発明と特許権
裁判年月日 2003年8月29日
裁判所名 東京地
裁判形式 判決
事件番号 平成14年 (ワ) 16635 
裁判結果 一部認容、一部棄却(控訴)
出典 時報1835号114頁/タイムズ1140号248頁/労働判例863号35頁/判工
審級関係
評釈論文 ・労政時報3608号68~69頁2003年11月7日/金山直樹・判例タイムズ1145号95~101頁2004年5月15日
判決理由 〔労働契約-労働契約上の権利義務-職務発明と特許権〕
 勤務規則等により職務発明について特許を受ける権利等を使用者等に承継させた従業者等は、当該勤務規則等に、使用者等が従業者等に対して支払うべき対価に関する条項がある場合においても、これによる対価の額が特許法35条4項の規定に従って定められる対価の額に満たないときは、同条3項の規定に基づき、その不足する額に相当する対価の支払を求めることができると解するのが相当である(最高裁平成13年(受)第1256号同15年4月22日第三小法廷判決・裁判所時報1338号5頁参照)。〔中略〕
 特許法35条4項は、同条3項所定の「相当の対価」の額について「その発明により使用者等が受けるべき利益の額及びその発明がされるについて使用者等が貢献した程度を考慮して定めなければならない」旨規定している。したがって、特許を受ける権利の承継についての相当の対価を定めるに当たっては、「その発明により使用者等が受けるべき利益の額」及び「その発明がされるについて使用者等が貢献した程度」という2つの要素を考慮すべきであるが、これのみならず、使用者等が特許を受ける権利を承継して特許を受けた結果、特許発明を排他的独占的に実施することによって現実に利益を受けた場合には、使用者等が上記利益を受けるについて使用者等が貢献した程度、すなわち、具体的には発明を権利化し、独占的に実施し又はライセンス契約を締結するについて使用者等が貢献した程度その他証拠上認められる諸般の事情を総合的に考慮して、相当の対価を算定することができるものというべきである。〔中略〕
 特許法35条4項には「その発明がされるについて使用者等が貢献した程度」を考慮すべきである旨規定されているが、前記(1)のとおり、特許を受ける権利の承継後に使用者が現実に得た実施料をもって「その発明により使用者等が受けるべき利益の額」として「相当の対価」を算定する場合においては、考慮されるべき「使用者等が貢献した程度」には、「その発明がされるについて」貢献した程度のほか、使用者等がその発明により利益を受けるについて貢献した程度も含まれるものと解するのが相当である。すなわち、「使用者等が貢献した程度」として、具体的には、その発明がされるについての貢献度のほか、その発明を出願し権利化するについての貢献度、実施料を受ける原因となった実施契約を締結するについての貢献度、その他諸般の事情が含まれるものと解するのが相当である。
 イ 原告は、「使用者等が貢献した程度」とは、使用者等の貢献を金銭的価値として算定した上で、その金額を控除することにより、「相当の対価」を定めるに当たり、考慮されるべきものである旨主張する(原告の主張2(1))。
 しかしながら、職務発明に対する使用者等の貢献には、有形無形のものがあり、金銭的に評価できるものに限らず労力の負担等様々な形態があって、客観的に金銭的に評価することが困難なものも多いところ、特許法35条4項が使用者が貢献した「程度」と規定しているのも、このような趣旨に基づくものと解される。そして、特許法35条の趣旨が職務発明について特許を受ける権利が当該発明をした従業員等に原始的に帰属することを前提に、職務発明について特許を受ける権利及び特許権の帰属及びその利用に関して、使用者等と従業者等のそれぞれの利益を保護するとともに、両者間の利害を調整して衡平を図ることにあることからすれば、結局、「相当の対価」の額は、「使用者等が受けるべき利益の額」について、「使用者等が貢献した程度」を割合的に認定することにより定められるものと解するのが相当である。〔中略〕
 以上の諸事情を併せ総合的に考慮すると、被告が本件各発明がされるについて貢献しまた前記利益を受けるについて貢献した程度としては、全体の約90パーセントと認めるのが相当である。