全 情 報

ID番号 08241
事件名 損害賠償等請求事件
いわゆる事件名 東宝タクシー事件
争点
事案概要 タクシー事業を営むYの従業員でタクシー乗務員であったAが、Y事務所トイレ内でくも膜下出血により倒れ、死亡したことについて、Aの相続人であるXらが、Yに安全配慮義務違反があるとして、Yに対し、債務不履行に基づく損害賠償請求をした事案で、裁判所は、タクシー乗務員の業務の性質上、業務開始前の点呼を受けた後は、自らの判断で自由に車両を運行するのであり、運行管理者などが乗務員の健康状態を把握すべきであるといえども、出庫した乗務員の健康状態を逐一把握する義務までは存しないとし、Yに安全配慮義務違反があったとはいえないとし、Xの請求を棄却した事例。
参照法条 民法415条
体系項目 労働契約(民事) / 労働契約上の権利義務 / 安全配慮(保護)義務・使用者の責任
裁判年月日 2003年12月19日
裁判所名 千葉地
裁判形式 判決
事件番号 平成13年 (ワ) 1610 
裁判結果 棄却
出典 労経速報1856号11頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔労働契約-労働契約上の権利義務-安全配慮(保護)義務・使用者の責任〕
 雇用契約は、労働者の労務提供と使用者の報酬支払をその基本内容とする有償双務契約であるが、通常の場合、労働者は、使用者の指定した場所に配置され、使用者の供給する設備、器具等を用いて労務の提供を行うものであるから、使用者は、報酬支払義務にとどまらず、労働者が労務提供のため、設置する場所、設備もしくは器具等を使用し又は使用者の指示のもとに労務を提供する過程において、労働者の生命及び身体(健康)等を危険から保護するよう配慮すべき義務(安全配慮義務)を負っているものと解するのが相当である。そして、使用者の安全配慮義務は、雇用契約に付随する義務であるから、その具体的内容は、労働者の職種、労務内容、労務提供場所等安全配慮義務が問題となる具体的状況等によって異なるべきものである。
 これを本件の場合に即してみると、上記のとおり、被告には、運輸規則の適用があり、運行管理規定や就業規則があるところ、被告は、亡Aを乗務員として雇用し、亡Aは、市中において、被告保有の車両を使用して乗客を運搬する業務に従事していたのであるから、乗務員の健康状態の把握に努め、上記業務開始前は始業点検等により、また、業務開始後は何らかの方法により、疾病、疲労等健康状態の悪いことが認識・予見できたときは、乗務を差し控えさせるとともに、その健康状態に応じた措置を講じ、もって、労働者である亡Aの生命、身体等に危険が及ばないように配慮する義務があったものと解するのが相当である。〔中略〕
 タクシー乗務員は、その業務の性質上、業務開始前の点呼を受けた後は自らの判断で自由に車両を運行し、稼働するものであって、運行管理者等が乗務員の健康状態を把握すべきであるといっても、出庫した乗務員の健康状態を逐一把握する義務までは存しないというべきである。運行管理規程九条一二項が「運行状況を常に把握し、状況に変化がある時は適切な指示を行える体制を確立しておく」と規定しているのは、個々の車両の運行状況について把握すべきことを定めたものではなく、被告の営業区域における道路状況や交通状況をふまえ、一般的に被告の保有する車両の運行状況がどのようになっているかを把握しておくべき義務を定めたものと解される。
 そうすると、運行管理者等が乗務員の稼働状況ないし動静を常に把握しておくべき義務までは存しないといわなければならない。