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ID番号 : 08450
事件名 : 損害賠償請求控訴事件
いわゆる事件名 : A保険会社上司(損害賠償)事件
争点 : 上司のメールが名誉毀損又はパワーハラスメントに当たり、不法行為を構成するとして慰謝料を請求した事案(労働者勝訴)
事案概要 : A保険会社Bサービスセンター所長Yが、課長代理Xの案件処理状況が悪いことから、X及び職場の同僚十数名に対しXの名誉を毀損又はパワーハラスメントに当たるメールを送り、これが不法行為を構成するとしてXが慰謝料を請求した事案である。
 第一審東京地裁は、本件メールは叱咤督促が目的であって名誉毀損ないしパワーハラスメントには当らず、不法行為にも該当しないとしたためXが控訴。
 第二審東京高裁は、メール中に退職勧告とも取れる表現や、人の気持ちを逆撫でする侮辱的な表現があり、これをXだけでなく職場の同僚十数名にも送信したことは、Xの名誉感情をいたずらに毀損するものであることは明らかで、叱咤督促しようとした目的が正当であったとしても、表現が許容限度を超え著しく相当性を欠き不法行為を構成するとし、ただし、目的は是認できることからパワーハラスメントの意図は認められないとした。そのうえで、損害賠償額について、送信の目的、表現方法、送信範囲を総合し、名誉毀損による慰謝料として5万円の支払いを命じた。
参照法条 : 民法709条
民法723条
刑法230条
体系項目 : 労基法の基本原則(民事)/均等待遇/セクシャル・ハラスメント、アカデミック・ハラスメント
裁判年月日 : 2005年4月20日
裁判所名 : 東京高
裁判形式 : 判決
事件番号 : 平成16(ネ)6245
裁判結果 : 原判決変更、一部認容、一部棄却(上告受理申立)
出典 : 労働判例914号82頁
審級関係 : 一審/東京地/平16.12. 1/平成15年(ワ)28020号
評釈論文 : 山田省三・労働法学研究会報57巻18号26~31頁2006年9月15日
判決理由 : 〔労基法の基本原則-均等待遇-セクシャル・ハラスメント、アカデミック・ハラスメント〕
 1 当裁判所は、控訴人の請求は、慰謝料5万円及びこれに対する不法行為日の後である平成15年12月12日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があり、その余は理由がないものと判断する。〔中略〕
 (1) 控訴人は、本件メールが控訴人の名誉を毀損するものである旨主張するので検討する。
 ア 本件メールの内容は、職場の上司である被控訴人がエリア総合職で課長代理の地位にある控訴人に対し、その地位に見合った処理件数に到達するよう叱咤督促する趣旨であることがうかがえないわけではなく、その目的は是認することができる。しかしながら、本件メール中には、「やる気がないなら、会社を辞めるべきだと思います。当SCにとっても、会社にとっても損失そのものです。」という、退職勧告とも、会社にとって不必要な人間であるとも受け取られるおそれのある表現が盛り込まれており、これが控訴人本人のみならず同じ職場の従業員十数名にも送信されている。この表現は、「あなたの給料で業務職が何人雇えると思いますか。あなたの仕事なら業務職でも数倍の実績を挙げますよ。……これ以上、当SCに迷惑をかけないで下さい。」という、それ自体は正鵠を得ている面がないではないにしても、人の気持ちを逆撫でする侮辱的言辞と受け取られても仕方のない記載などの他の部分ともあいまって、控訴人の名誉感情をいたずらに毀損するものであることは明らかであり、上記送信目的が正当であったとしても、その表現において許容限度を超え、著しく相当性を欠くものであって、控訴人に対する不法行為を構成するというべきである。
 イ 被控訴人は、「本件メールの内容は、課長代理職にふさわしい自覚、責任感をもたせるべく指導・叱咤激励したものであり、控訴人を無能で会社に必要のない人間であるかのように表現したものではない」旨主張するけれども、本件メールの前記文章部分は、前後の文脈等と合わせ閲読しても、退職勧告とも、会社にとって不必要な人間であるとも受け取られかねない表現形式であることは明らかであり、赤文字でポイントも大きく記載するということをも合わせかんがみると、指導・叱咤激励の表現として許容される限度を逸脱したものと評せざるを得ない。被控訴人の上記主張は採用することはできない。
 (2) 控訴人は、「本件メールは、上司が部下を指導したり叱咤激励するというものではなく、部下の人格を傷つけるもので、いわゆるパワーハラスメントとして違法である」旨主張する。
 しかしながら、前説示のとおり、本件メールが、その表現方法において、不適切であり、控訴人の名誉を毀損するものであったとしても、その目的は、控訴人の地位に見合った処理件数に到達するよう控訴人を叱咤督促する趣旨であることがうかがえ、その目的は是認することができるのであって、被控訴人にパワーハラスメントの意図があったとまでは認められない。控訴人の上記主張は採用することはできない。
 (3) 本件メール送信の目的、表現方法、送信範囲等を総合すると、被控訴人の本件不法行為(名誉毀損行為)による控訴人の精神的苦痛を慰謝するための金額としては、5万円をもってすることが相当である。