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ID番号 : 08452
事件名 : 損害賠償請求事件
いわゆる事件名 : ギオン(日本流通企画)事件
争点 : 食品配送業会社従業員の死亡につき、遺族らが安全配慮義務違反を求めた事案(原告勝訴)
事案概要 : 冷凍食品などの保管、配送業を営む会社の従業員が骨髄異形成症候群(MDS)に罹患し、肺炎を発病して死亡したことにつき、会社には、過密な労働を緩和するなど必要な健康管理を行わなかったことに安全配慮義務違反があったとして、遺族らが損害賠償を請求した事案である。
 千葉地裁は、立場・業務内容などから伺える過重労働の状況やMDSの状態などを考慮すれば、労働者は、過重労働とMDSによって黄色ブドウ球菌性肺炎に罹患し、それが重症化して死亡するに至ったものと認めるのが相当であるとして因果関係を認めるとともに、使用者は労働者がMDSに罹患していて毎月検査を受けていることを知っていたのであるから、労働者の負担を軽減し過密労働を緩和するよう配慮すべき義務があったにもかかわらず、これを怠ったために労働者を死亡させたものであると認定し、使用者の安全配慮義務違反による債務不履行を認め、合併により使用者の権利義務を承継した会社の損害賠償義務を一部認容した。
参照法条 : 民法415条
民法418条
体系項目 : 労働契約(民事)/労働契約上の権利義務/安全配慮(保護)義務・使用者の責任
裁判年月日 : 2005年9月21日
裁判所名 : 千葉地
裁判形式 : 判決
事件番号 : 平成14(ワ)2228
裁判結果 : 一部認容、一部棄却(控訴後和解)
出典 : 時報1972号117頁/労働判例927号54頁
審級関係 :  
評釈論文 : 左近允寛久・季刊労働者の権利268号75~80頁2007年1月
判決理由 : 〔労働契約-労働契約上の権利義務-安全配慮(保護)義務・使用者の責任〕
 亡太郎は、過重労働により、少なくとも過重労働が有力な原因となって、黄色ブドウ球菌性肺炎に罹患したものとみるのが相当である。
 イ ところで、前記(1)キ(キ)のとおり、亡太郎のMDSは、入院時の検査の時よりも以前のいずれかの段階で、それまでの症状程度をはるかに超えて急激に増悪していたことになる旨の山澤医師の所見があるが、これは、前記(1)キ(イ)、(オ)の青墳医師及び横田医師の各所見並びに《証拠略》に照らして採用することができない。
 また、前記(1)キ(ウ)、(エ)のとおり、過重労働や疲労と感染症との因果関係は、これを具体的に示す文献等がないので、証明ないし断定できない旨の甫守医師や倉石医師の所見があるが、訴訟上の因果関係の立証は、一点の疑義も許されない自然科学的証明ではなく、経験則に照らして全証拠を総合検討し、事実と結果との間に高度の蓋然性を証明することであり、その判定は通常人が疑いを差し挟まない程度に真実性の確信を持ち得るものであることを必要とし、かつ、それで足りると解される(最高裁昭和四八年(オ)第五一七号同五〇年一〇月二四日第二小法廷判決・民集二九巻九号一四一七頁参照)から、甫守医師及び倉石医師の前記所見は、亡太郎の過重労働と黄色ブドウ球菌性肺炎との間の因果関係を肯定する前記判断を左右するに足りない。
 ウ ただし、前記(1)キ(ア)、(イ)、(エ)、(オ)などの事実によれば、亡太郎の既往症であるMDSも、程度は不明であるが、黄色ブドウ球菌性肺炎の発症あるいは重症化に寄与していたことが認められるから、亡太郎は、過重労働とMDSによって、黄色ブドウ球菌性肺炎に罹患し、それが重症化し、死亡するに至ったと認めるのが相当である。
 (3) 以上の次第で、亡太郎の前記業務と黄色ブドウ球菌性肺炎による死亡との間には因果関係があるといわなければならない。
 二 争点(2)(安全配慮義務違反の有無)について
 (1) 前記第二の一(4)のとおり、使用者には、労働者の労働負荷が過重にならないように日常的に労働条件について配慮するとともに、十分な健康管理態勢をとって労働者の健康把握に努め、万が一にも重篤な疾病等に陥らないように配慮する安全配慮義務があるところ、これは雇用契約に付随する義務である。
 したがって、被告は、亡太郎が、長時間労働等による過重労働の状態にあり、しかも、亡太郎がMDSに罹患していて毎月検査を受けていることを知っていたのであるから、配送担当者等を増員する措置を講じるなどして亡太郎の負担を軽減し過密労働を緩和するよう配慮すべき義務があったにもかかわらず、これを怠ったため、黄色ブドウ球菌性肺炎に罹患させ死亡させたのであるから、被告には雇用契約上の付随義務である安全配慮義務に違反した債務不履行(以下「本件債務不履行」という。)があるといわなければならない。
 そして、被告において前記措置を講じて亡太郎の負担軽減等をすることができなかったことを認めるに足りる証拠はないから、本件債務不履行が被告の責めに帰すべき事由に基づかないとはいえない。
 そうすると、被告には、本件債務不履行により亡太郎が被った損害を賠償する義務がある。