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ID番号 : 08457
事件名 : 再任拒否処分取消請求控訴事件
いわゆる事件名 : 京都大学(教授再任拒否処分)事件
争点 : 国立大学助教授が教授昇任後、任期満了時に再任されなかったことことにつき処分の取消しを求めた事案(原告敗訴)
事案概要 : Y国立大学助教授Xが期限付き任期で教授に昇任し、その任期満了時に再任されなかったことを不服として、処分取消しを求めた事案である。
 大阪高裁は、大学の教員等の任期に関する法律(平成15年法律117号改正前)は、大学の自治を尊重する趣旨から任期付き教員の採用や再任については大学の自治に委ねており、同法が再任手続や再任基準等を定めていなくても憲法23条に違反しない、とした。
 また、Y国立大学における任期付き教授の採用に際し、Y国立大学が任期制の具体的内容を定めた規程を当該教授職の公募後に制定したこと、再任に関する事項を協議員会決定である申合わせと内規に委ねたことで違憲・違法ということはできず、公募及び採用内示の時点で任期付き教授の公募であることが明確にされていなかったとしても、Xは任期法4条及び本件規程の各規定に従って昇任処分の前に当該教授職の任期が5年を承知のうえで同意書を提出しており、この意思表示に重大な瑕疵はない、とした。
さらに、不再任は単に任期満了による退職であって、学長の行った任期満了の通知は行政処分に当たらず、任期法2条4号は任期付き教員が任期の満了により当然に退職すると定めており、規程・内規にも再任を原則とする規定は存在しないことから、Xに再任請求権はなく、再任審査の過程で外部評価委員会が再任を可とする報告書を提出したとしても、協議員会がこれと異なる決定をすることを妨げるものではないとしてXに再任期待権はないと判示した。
参照法条 : 日本国憲法23条
大学の教員等の任期に関する法律2条4号
大学の教員等の任期に関する法律3条
大学の教員等の任期に関する法律4条
行政事件訴訟法3条2項
体系項目 : 就業規則(民事)/就業規則と法令との関係/就業規則と法令との関係
解雇(民事)/解雇事由/条件付採用
解雇(民事)/短期労働契約の更新拒否(雇止め)/短期労働契約の更新拒否(雇止め)
退職/定年・再雇用/定年・再雇用
裁判年月日 : 2005年12月28日
裁判所名 : 大阪高
裁判形式 : 判決
事件番号 : 平成16行(コ)54
裁判結果 : 棄却(上告)
出典 : タイムズ1223号145頁/労働判例911号56頁
審級関係 : 一審/京都地/平16. 3.31/平成15年(行ウ)16号
評釈論文 : 矢野昌浩・平成18年度重要判例解説〔ジュリスト臨時増刊1332〕214~216頁2007年4月
判決理由 : 〔就業規則-就業規則と法令との関係-就業規則と法令との関係〕
 ウ 上記のとおり、任期法は、大学の自治を尊重し、これを保障する立場から、任期制の採用自体や再任に関する事項を大学の自主的判断に委ね、かつ、任期付きで任用される者の同意を任用の要件としているものである。したがって、再任に関する手続や再任基準等の事項を法律で定めていないことを理由として、任期法による任期制度が憲法23条に違反するとすることはできない。
 エ また、京都大学は、その自主的判断により、再生研の任期付き教員の任用制度を採用し、かつ、同大学の自主的判断により再任の可否を決定する制度として、再生研の任期制度を構築しているものであるから、この再生研の任期制度が、大学の自治ひいては学問の自由の保障に反する制度であるとはいえない。
〔退職-定年・再雇用-定年・再雇用〕
〔解雇-解雇事由-条件付採用〕
〔解雇-短期労働契約の更新拒否(雇止め)-短期労働契約の更新拒否(雇止め)〕
 控訴人は、上記同意書提出の前に、控訴人が就く予定の再生研の教授職が5年の任期付きであることを承知し、その上で、任期法による5年の任期付きであることに同意する旨の同意書を提出して、本件昇任処分を受けたものと認められる。したがって、その意思表示に重大かつ明白な瑕疵があるとか、意思表示の要素に錯誤があると認めることはできない。
 なお、以上の事実及び任用の際に、控訴人が当然に再任されることを前提として同意したとの趣旨の発言等をしたことを窺わせる証拠はないこと等からすると、控訴人自身は、再任されるものと内心で期待して前記同意書を作成したと考えられるが、そうであったとしても、控訴人が、これを任命権者に表示したとの事実は認められないから、動機の錯誤の問題も起こり得ない。〔中略〕
 (3) 再任請求権について
 ア 任期法にいう任期とは、国家公務員としての教員等の任用に際して定められた期間であって、国家公務員である教員等にあっては当該教員等が就いていた職若しくは他の国家公務員の職に引き続き任用される場合を除き、当該期間の満了により退職することとなるものをいう(同法2条4号)。また、ここに退職とは、人事院規則8―12「職員の任免」71条5号に定義されているとおり、失職の場合又は懲戒免職の場合を除いて、職員が離職することをいう。
 そして、控訴人は、任期法4条及び本件規程の各規定に従って、その同意の下に、再生研の5年の任期付き教授として、平成10年5月1日付けの本件昇任処分により任用されたものであって、その後、京都大学総長から、再生研教授に再び任用されなかったものである。
 したがって、任期法の規定に従えば、控訴人は、平成15年4月30日の任期の満了により退職したということになり、本件通知は、この観念的な事実を通知したにすぎないものであって、行政処分に当たらないと解せざるを得ない。
 イ 控訴人は、上記のとおり、控訴人が就いた再生研の教授職は再任されるのが原則であり、控訴人には再任される権利としての再任請求権があると主張する。
 (ア) しかし、上記のとおり、任期法2条4号は、任期付き教員は、その任期が満了すれば当然に退職すると定めており、同法には、いったん任用された任期付き教員について、再任されるのを原則とするような規定は一切存在しない。再任されるのが原則とすることは、任期を定めて任用することとした任期法の趣旨を否定し、これに相反するものであり、与することができない。そして、任期法2条4号にいう任期の性質は期限であると解するのが相当である。〔中略〕
 (4) 再任申請権、期待権(法律上の利益)について
 次に、控訴人は、控訴人には、法令上の再任申請権あるいは期待権(法律上の利益)があると主張する。
 ア しかし、上記(3)イで述べたとおり、任期法、本件規程及び本件内規には、再任される権利としての再任請求権を認めていると解される規定はない上、任期法は、再任の可否や再任を可とした場合の再任申請の有無にかかわらず、期間の満了により身分を失うことを前提としていること、教育公務員特例法3条5項は、教員の採用の選考は、評議会の議により学長が定める基準により、教授会の議に基づき学長が行うと定めているところ、本件内規に規定する事項も、これと同様の性質を有するものであって、これは、任命権者の内部意思決定に至るまでの手続を定めたものであるといえること、任用(再任)するか否かは、任命権者の裁量に属し、本件規程や本件内規に定める再任審査申請は、その裁量権の発動を促すにすぎないと考えられることなどからすると、本件規程及び本件内規に再任申請や審査手続等に関する定めがあることから、当然に、再任申請者に、法令上の再任申請権が生じ、任命権者にこれに対する法律上の応答義務があるということはできない。〔中略〕
 (5) 控訴人は、以上の主張の他に、本件通知に処分性があるとして、さらに下記ア、イのように主張する。
 ア 京都大学総長は、再任を可としないとの協議員会決定を受けて、公務員の身分を有する控訴人を期間の満了により失職させるか、継続任用するかの判断を行ったものであり、本件通知には、再任拒否により控訴人を失職に追い込むという任命権者の意思が関与しているから、処分性が認められる。
 イ 本件通知は、任期の満了日までに行われる再任審査で再任を否とされれば失職するという失職条件(解除条件)の成就を通知するものであるから、処分性が認められる。
 ウ しかし、既に述べたように、本件通知は、控訴人が平成15年4月30日の任期満了により退職するという観念的な事実を通知したにすぎないものであるから、これをもって任命権者である京都大学総長の意思が関与しているということはできない。
 また、既に述べたとおり、任期法に規定する任期は、期限と解すべきであるから、これを条件と解する控訴人の主張は採り得ない。本件通知が失職条件(解除条件)の成就であると考えることは、任期法の趣旨からみて、妥当とはいえない。
 エ 控訴人は、本件通知に処分性があるとして他にも主張するが、いずれも採用することはできない。
 (6) なお、控訴人は、京都大学の任期制の運用や再任審査手続に瑕疵があると理解できるような主張もしているが、そのような瑕疵があることは認めることはできない。
 6 以上検討してきたところによれば、本件通知に抗告訴訟の対象となる行政処分性を認めることはできないといわざるを得ない。