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ID番号 : 08459
事件名 : 賃金仮払仮処分申立事件
いわゆる事件名 :
争点 : 分社後の新会社が行った整理解雇と、これへの抗議方法を理由とする懲戒解雇とを無効として賃金の仮払いを求めた事案
事案概要 : 分社化による新会社設立から約4か月後に、新会社に移籍した従業員らに対してなされた経営困難を理由とする整理解雇の無効、及びこの整理解雇に抗議する目的で抗議行動を行った組合員らに対する就業規則違反を理由とする懲戒解雇の無効、賃金の仮払いを求めた事案である。
 東京地裁は、まず整理解雇につき、人員削減の必要性、解雇回避努力、人選の合理性がいずれも使用者側Yから立証されていないとして、これを無効とした。
 次に組合役員Xらの抗議行動について、就業規則の「業務命令に従わず、職場の秩序を乱した時」に当たり懲戒事由に該当するが、〔1〕組合として早期に抗議・協議のための集会を開く必要があったこと、〔2〕Yの翌日の業務には支障を与えていないこと、〔3〕事故等も起こしていないこと、〔4〕Xらはいずれも勤続10年を超えこの間懲戒処分を受けていないこと等を勘案すると、最も重い懲戒解雇としたことは懲戒権の濫用に当たり無効であるとして、賃金仮払仮処分を命じた。
参照法条 : 労働基準法18条の2(改正前)
体系項目 : 懲戒・懲戒解雇/懲戒権の濫用/懲戒権の濫用
懲戒・懲戒解雇/懲戒事由/違法争議行為・組合活動
解雇(民事)/整理解雇/整理解雇の要件
解雇(民事)/整理解雇/整理解雇の必要性
解雇(民事)/整理解雇/整理解雇の回避努力義務
解雇(民事)/整理解雇/整理解雇基準・被解雇者選定の合理性
裁判年月日 : 2006年1月13日
裁判所名 : 東京地
裁判形式 : 決定
事件番号 : 平成17(ヨ)21149
裁判結果 : 一部認容、一部却下(確定)
出典 : 時報1935号168頁/タイムズ1217号232頁
審級関係 :  
評釈論文 : 細川二朗・平成18年度主要民事判例解説〔判例タイムズ臨時増刊1245〕295~296頁2007年9月
判決理由 : 〔解雇-整理解雇-整理解雇の要件〕
〔解雇-整理解雇-整理解雇の必要性〕
〔解雇-整理解雇-整理解雇の回避努力義務〕
〔解雇-整理解雇-整理解雇基準・被解雇者選定の合理性〕
 (1) 判断の枠組み
 整理解雇が有効か否かを判断するに当たっては、人員削減の必要性、解雇回避努力、人選の合理性、手続の相当性の四要素を考慮するのが相当である。債務者である使用者は、人員削減の必要性、解雇回避努力、人選の合理性の三要素についてその存在を主張立証する責任があり、これらの三要素を総合して整理解雇が正当であるとの結論に到達した場合には、次に、債権者である従業員が、手続の不相当性等使用者の信義に反する対応等について主張立証する責任があることになり、これが立証できた場合には先に判断した整理解雇に正当性があるとの判断が覆ることになると解するのが相当である(同旨、東京地判平成一五・八・二七判タ一一三九号一二一頁・ゼネラル・セミコンダクター・ジャパン事件)。以下、このような観点から、本件整理解雇の有効性の有無について検討することにする。〔中略〕
 イ 以上によれば、債権者らが所属する株式会社乙山は平成一七年四月一日からスタートした新設会社であり、少なくとも、同日段階では負債もなかったと思料される。そうだとすると、問題は、債務者において、平成一七年四月一日から本件整理解雇を行った平成一七年七月二五日までの約四か月の間に、営業・事務部門の約二〇名はそのまま雇用しつつ、現業部門三二名のうち半数の一六名を整理解雇しなければならないような事情が発生したか否かという点になる。
 ウ 前記のとおり新設会社である株式会社乙山(債務者)は建設現場にオペレーター付きでクレーンをリースする業務であるところ、現場で働く人員を半分にしながら非現業部門をそのまま維持するというのは不自然であること、本件整理解雇は会社新設から僅か四か月での大量の解雇であること、債務者が提出する財務諸表類はそのほとんどが平成一七年三月三一日までの疎明資料であり、平成一七年四月以降の新設された株式会社乙山の人員削減の有無を検討するには適当な資料とは思われないこと、平成一七年四月一日以降の株式会社乙山の経営状況を示すと思われる乙七(資金繰実績表)も客観的裏付資料もなくこれだけから人員削減が必要であると評価することは困難であること等を考慮すると、債務者においては、未だ、人員削減の必要があるとの疎明はされていないというべきである。〔中略〕
 イ 整理解雇における使用者に求められる解雇回避努力とは、経営上、業務上の理由により剰員が生じることによって人員削減の必要性が認められたとしても、当該労働者を他の部署へ再配置するなど、当該労働者の雇用と生活を維持するための具体的な措置をいうのであり、原則として、当該労働者の解雇の必要性を判断する時点で要求される措置であると解するのが相当である。
 これを本件についてみるに、前記一(1)カ、キで認定した事実、《証拠略》によれば、前記〔1〕ないし〔6〕の措置は、平成一六年一一月二五日の本件労使協定によって予定されていた措置等であり、本件整理解雇の必要性を判断する時点で要求される措置とは言い難いものであることが一応認められる。
 〔中略〕
 ウ 以上の検討結果によれば、債務者が本件整理解雇に当たって採用した基準及びその適用には、客観的・合理的理由を見い出し難く、整理解雇の人選に合理性があるとの疎明は未だされていないというべきである。
 (5) 小括
 前記(2)ないし(4)で検討したとおり、本件整理解雇には、人員削減の必要性、解雇回避努力、人選の合理性について、いずれの要素についても疎明がされていないというべきであり、本件整理解雇は有効ということはできない。したがって、この点の債務者の主張は、その余の点を判断するまでもなく理由がない。
〔懲戒・懲戒解雇-懲戒権の濫用-懲戒権の濫用〕
〔懲戒・懲戒解雇-懲戒事由-違法争議行為・組合活動〕
 (1) 債務者は、債権者丙田四夫、同丁川冬夫、同乙川八夫ら本件組合の三役が本件整理解雇に抗議等するため債権者ら本件組合員を乗車勤務しているラフターに乗って丁田車庫に集合させ、丙川社長がラフターを戻すよう指示したことに従わなかったこと等をもって、就業規則違反として懲戒解雇事由に当たり、本件懲戒解雇は有効であると主張するので、以下、この点について判断する。〔中略〕
 ア 前記(2)(3)で認定した事実によれば、債権者丙田四夫、同丁川冬夫、同乙川八夫ら本件組合の三役らが、丙川社長の一三台のラフターを直ちに元に戻せとの命令に従わず、数時間にわたりラフターを丁田車庫に置いたまま、本件整理解雇について抗議する行動をとったことが一応認められ、当該行為は、就業規則六三条(8)号に反する業務命令違反行為であると認めるのが相当である。
 イ かかる業務命令違反に対する処分としては、前記(3)アによれば、譴責処分から懲戒解雇まで七種類の処分があるところ、債権者丙田四夫ら本件組合の三役に対し、最も重い懲戒解雇処分を選択することが相当か、それとも懲戒権を濫用したものというべきかが問題となる。
 この点については、前記二、三(2)(3)での認定事実及び審尋の全趣旨によれば、〔1〕本件整理解雇が有効であるとの疎明がない本件にあっては、本件組合としては、本件整理解雇直後に、早期に抗議・協議のために集会を開く必要があったこと、〔2〕債務者の翌日の業務運営等に具体的支障を与えていないこと、〔3〕債権者らは、ラフターを運転すること等により事故等を引き起こしていないこと、〔4〕債権者丙田四夫、同丁川冬夫、同乙川八夫はいずれも勤続一〇年を越えているところ、これまで懲戒処分を受けたことがないことが一応認められ、これらの事情に照らすと、債権者丙田四夫ら三名に対する本件懲戒解雇処分は、権限を逸脱しており、有効と解することができず、当該判断を覆すに足りる的確な疎明資料は見あたらない。