全 情 報

ID番号 : 08469
事件名 : 保険金請求権確認請求上告事件
いわゆる事件名 : 住友軽金属工業(団体定期保険第1)事件
争点 : 団体定期保険の保険金受取人指定部分のみ公序良俗に反し無効であるとして、直接遺族への支払を求めた事案(原告敗訴)
事案概要 : Y工業は、保険契約者兼保険金受取人をY、被保険者を従業員とする団体定期保険契約を締結しており、これを知った従業員Aは労働組合集会等でこの問題を取り上げ、死亡保険金を遺族に引き渡すよう主張した。このため、Yは全従業員に各保険契約の目的・内容等を説明した文書を配布し、これを承諾しない場合は期日までに届け出るよう通知したが、Aは届出をしなかった。その後Aの死亡を受け、妻Xが〔1〕生命保険各社に直接保険金の支払いを請求するとともに、〔2〕Yに対しも保険金相当額の支払いを求めたものである。
 第一審名古屋地裁は〔1〕を棄却、〔2〕を一部認容、第二審名古屋高裁は〔1〕、〔2〕とも棄却したためXが上告。これに対し最高裁は、他人を被保険者とする生命保険契約では、被保険者が保険金額、保険契約者、保険金受取人等の諸要素を考慮の上、これに同意すれば保険契約は有効となり、同意しなければ無効となるが、Xの主張は「被保険者となることの同意」と「保険金受取人の指定の同意」とを分け、後者のみが欠ける場合は契約自体は有効だが、保険金受取人の指定は無効という独自の見解によるもので採用することはできないとして上告を棄却した。
参照法条 : 商法674条
体系項目 : 労働契約(民事)/労働契約上の権利義務/信義則上の義務・忠実義務
労働契約(民事)/労働契約上の権利義務/団体生命保険
裁判年月日 : 2006年4月11日
裁判所名 : 最高三小
裁判形式 : 判決
事件番号 : 平成14受1199
裁判結果 : 棄却(確定)
出典 : 労働判例915号26頁
審級関係 : 控訴審/07959/名古屋高/平14. 4.26/平成13年(ネ)211号
一審/07712/名古屋地/平13. 2. 5/平成8年(ワ)4341号
評釈論文 : 山崎文夫・労働法律旬報1632号28~35頁2006年9月25日
判決理由 : 〔労働契約-労働契約上の権利義務-団体生命保険〕
〔労働契約-労働契約上の権利義務-信義則上の義務・忠実義務〕
 2 上告人の請求及び主張の概要は、以下のとおりである。
 (1) 本件における上告人の請求は、〔1〕被上告人住友軽金属以外の被上告人ら(以下「被上告人生命保険会社ら」という。)に対し、本件各保険契約に基づく甲野太郎の死亡保険金(総額6680万円)の支払等を求めるとともに、〔2〕被上告人住友軽金属に対し、主位的に、上告人が被上告人生命保険会社らに対し上記保険金請求権を有することの確認を求め、予備的に、被上告人住友軽金属が被上告人生命保険会社らから上記保険金を受領することを条件として、その保険金の全額に相当する金員の支払を求めるものである。
 (2) 上告人の被上告人生命保険会社らに対する上記保険金請求の根拠は、本件各保険契約において保険金受取人を被上告人住友軽金属とする指定は、被保険者である甲野太郎の同意に基づかないものであるか、又は、公序良俗に反するものであるから、無効であり、受取人の指定がないことになるところ、受取人の指定が不存在の場合の保険金受取人は、本件各保険契約に適用される約款の規定により、被保険者の配偶者となるから、結局、上告人が本件各保険契約上の甲野太郎の死亡に係る保険金請求権を有するというものである。
 (3) 上告人の被上告人住友軽金属に対する受領保険金相当額の金員支払請求の根拠は、〔1〕被上告人住友軽金属は、甲野太郎との間で、本件各保険契約に基づいて支払われる保険金の全部又は相当部分(少なくとも半額)を甲野太郎の遺族に支払う旨の明示又は黙示の合意をした、又は、〔2〕使用者が自ら雇用する労働者を被保険者として団体定期保険の契約者兼保険金受取人となった場合には、使用者は、労働契約に付随する信義則に基づいて、受領した保険金相当額を被保険者の遺族に支払う義務があるというものである。
 3 商法674条1項本文の規定によれば、他人を被保険者とする生命保険契約にあっては、被保険者が、保険金額、保険契約者、保険金受取人等の当該保険契約の諸要素を考慮の上、これに同意すれば当該保険契約は有効となり、同意しなければ無効となると解すべきところ、上告人の上記2(2)の主張は、同項所定の同意を「被保険者となることの同意」と「保険金受取人の指定の同意」とに分け、後者のみが欠ける場合には、保険契約自体は有効であるが、保険金受取人の指定だけが無効になるという独自の見解を前提とするものであって、採用することはできない。これと同旨をいう原審の判断に所論の違法はない。
 上告人が主張する上記2(3)〔1〕の合意の成立を認めることができないとした原審の認定判断は、原判決挙示の証拠関係に照らし、正当として是認することができ、その過程に所論の違法はない。また、本件の事実関係の下において、上告人が上記2(3)〔2〕で主張するような信義則上の保険金相当額の支払義務は認められないとした原審の判断は、正当として是認することができ、原判決に所論の違法はない。
 論旨はいずれも採用することができない。