ID番号 | : | 08475 |
事件名 | : | 労災保険遺族補償給付等不支給処分取消請求控訴事件 |
いわゆる事件名 | : | 京都上労基署長(大日本京都物流システム)事件 |
争点 | : | 軽度の狭心症をもつ梱包作業員の作業中死亡事故につき、業務に起因する死亡であるとして労災遺族補償給付不支給処分の取消しを争った事案 |
事案概要 | : | 軽度の狭心症の基礎疾患を有する梱包作業員Aが梱包作業中に発症した急性心筋梗塞により死亡した事故につき、遺族Xよりなされた労災保険遺族補償給付請求に対する労基署長の不支給処分の取消しを求めた事案の控訴審判決である。 第一審京都地裁は、急性心筋梗塞は狭心症の自然な悪化による可能性が強く、業務の起因性は認められないとして、訴えを棄却した。 これに対し第二審大阪高裁は、業務の内容やAの勤務状況等に加え、「脳・心臓疾患の認定基準に関する専門検討会報告書」の内容、行政解釈の変遷、Aの健康状態などに照らすと、不安定狭心症の基礎疾患を有していたAが、常態として負荷の大きい業務に従事して疲労が蓄積し、事故前日の年休のみでは疲労の回復ないし解消が得られていないにもかかわらず、事故当日休暇を申し出にくい状況の下で更に負荷の暴露を受けたことで、長期間本件業務に従事したことによる負荷の暴露と相まって、本件業務に内在する一般的危険性が現実化し、血管疾病が自然的経過を超えて急激に著しく憎悪し急性心筋梗塞の発症を早めるのに大きく寄与したものと認められるとして、原判決を覆し、労基署長がなした処分を取り消した。 |
参照法条 | : | 労働者災害補償保険法7条 労働者災害補償保険法16条 |
体系項目 | : | 労災補償・労災保険/業務上・外認定/業務起因性 労災補償・労災保険/業務上・外認定/脳・心疾患等 労災補償・労災保険/補償内容・保険給付/遺族補償(給付) |
裁判年月日 | : | 2006年4月28日 |
裁判所名 | : | 大阪高 |
裁判形式 | : | 判決 |
事件番号 | : | 平成14行(コ)101 |
裁判結果 | : | 原判決取消(確定) |
出典 | : | 時報1932号150頁/労働判例917号5頁 |
審級関係 | : | 一審/08069/京都地/平14.10.24/平成9年(行ウ)34号 |
評釈論文 | : | 佐藤克昭・労働法学研究会報58巻3号20~34頁2007年2月1日 |
判決理由 | : | 〔労災補償・労災保険-業務上・外認定-業務起因性〕 〔労災補償・労災保険-業務上・外認定-脳・心疾患等〕 (1) はじめに 虚血性心疾患(その病名は、心筋虚血により生じた機能的異常に由来するものである。)の業務起因性の認定に当たっては、虚血性心疾患の発症機序の解明を基礎としつつ、業務量(労働時間、密度)、業務内容(作業形態、業務の難易度、責任の軽重等)、職場環境、そのほか心理的負荷等を含めた業務による諸々の負荷、さらには、発症後の安静治療の困難性などの事情を総合的ないしは包括的に考慮して判断すべきである。 とりわけ、「業務による疲労の蓄積の評価については、主観的な訴えが中心となること、しかも業務以外の要因が疲労の蓄積に関与することも少なくないこと等から、定量的かつ客観的に判断することが難しいが、より客観的に評価するためには、労働時間の長さや、就労態様を具体的かつ客観的に把握し、総合的に判断する必要がある。」(専門検討会報告書八六頁)と言われている。 そして、業務と疾病との間の相当因果関係の存在の立証は、もとより、一点の疑義も許されない自然科学的証明ではなく、経験則に照らして全証拠を総合検討し、特定の事実が特定の結果発生を招来した関係を是認しうる高度の蓋然性を証明することであり、その判定は、通常人が疑いを差しはさまない程度に真実性の確信を持ちうるものであることを必要とし、かつ、それで足りるものと解すべきである。 そして、この場合、行政実務上の解釈基準となる認定基準(虚血性心疾患が業務上の疾病として認定されるための要件)は、そこで示されるものとは異なる態様で業務上発症する疾病の存在を否定するものではないから、仮に認定基準に完全には合致しなくても、これとは別の誘因、機序、経過等を明かにして、業務と疾病との間の相当因果関係の存在が立証されるならば、業務起因性は肯定されるべきものである。〔中略〕 〔労災補償・労災保険-業務上・外認定-業務起因性〕 〔労災補償・労災保険-業務上・外認定-脳・心疾患等〕 〔労災補償・労災保険-補償内容・保険給付-遺族補償(給付)〕 オ 以上の判断を総合すると、急性心筋梗塞に移行する危険性の高い疾病である不安定狭心症を基礎疾患として有し、長期間深夜交替制の勤務形態に服し、常態として負荷の大きい業務に従事していて疲労の蓄積した太郎が、上記負荷の蓄積により本件事故前日の年休のみでは疲労の回復ないし解消が得られていない(修復因子たり得ない)にもかかわらず、本件事故当日休暇取得の申出をしにくい状況の下で本件業務に従事したことによって更に負荷の暴露を受けざるを得なかったことにより、長期間にわたって本件業務に従事したことによる負荷の暴露と相俟って、勤務態様及び労働密度を含めたところの、本件業務に内在する一般的危険性が現実化し、血管病変が自然的経過を超えて急激に著しく増悪し急性心筋梗塞の発症を早めるのに大きく寄与したと推認するのが相当である。 カ ちなみに、本件鑑定については、被控訴人から、模擬実験の再現性に疑問があるとか、調査資料の出典に関する記載が欠落している箇所があったり、査読制度があるか否か不明な文献まで引用されているなどという指摘がされているが、仮にそうであるとしても、本件鑑定は、本件工場に実地に臨み、既存の知見を検討した上で、鑑定人の学識に基づき司法判断に当たっての参考意見として述べられたものであって、その結論においても鑑定人の裁量的判断の域を大きく逸脱しているものとは思料されず、本件鑑定は上記オの趣旨を言うものとして理解するならば、正当なものであり、首肯し得るというべきである。 キ 以上によれば、太郎の死亡につき業務起因性がないとした本件処分は違法というべきであるから、その取消しを求める控訴人の本訴請求は正当として認容すべきである。 |