全 情 報

ID番号 : 08483
事件名 : 教材開示等差止仮処分申立事件
いわゆる事件名 :
争点 : 企業向け研修講座の提供会社が、退職者の競業行為の仮差止を求めた事案(会社勝訴)
事案概要 : プロジェクトマネジメントに関する研修講座を提供する会社が、退職した研修講師兼営業担当者を相手取り、教育業務に関する教材及びその電子データの全部又は一部を第三者に開示及び提供してはならないこと、雇用契約に記載されている競業禁止の合意に基づき、退社から2年間、競業の目的のために、原告会社の顧客に対し接触してはならないこと、教育業務及びコンサルティング業務をしてはならないこと、などにつき仮の差止めを求めた事案である。
 東京地裁は、まず保全の必要性について、元従業員が会社の顧客を訪れており、教育業務及びコンサルティング業務の営業活動を行っていると受け取れる行動をしていることから、必要性があると認容した。次に、競業禁止条項に係る合意の成立を認めたうえで、〔1〕条項には会社の教材やノウハウを保護するための合理的制限として正当な目的を有していること、〔2〕同教材等を保護するうえで2年間という競業禁止期間は長過ぎるとはいえないこと、〔3〕元従業員の在職中の報酬の高額さから見て退職後の競業に対する代償が含まれているといえること、などから条項は有効であるとして、かつ、元従業員が競業を示唆する発言をしていることなどから保全の必要性もあるとして認容した。
参照法条 : 日本国憲法22条
民法90条
民事保全法23条
体系項目 : 労働契約(民事)/労働契約上の権利義務/競業避止義務
裁判年月日 : 2006年5月24日
裁判所名 : 東京地
裁判形式 : 決定
事件番号 : 平成18(ヨ)21021
裁判結果 : 一部認容、一部却下(異議(和解))
出典 : 時報1956号160頁/タイムズ1229号256頁
審級関係 :  
評釈論文 :
判決理由 : 〔労働契約-労働契約上の権利義務-競業避止義務〕
 (2) 本件競業禁止条項の有効性の存否について
 ア 判断基準
 会社が、労働者を雇用するに際し、比較的高度な情報に接する部署に勤務させる労働者との間で、退職後の競業を禁止する旨の合意をすることは世上よく見られる出来事である。このような競業禁止条項を締結する目的は、当該労働者が退職後に会社の顧客を奪うことを防止する点に狙いがあり、利益を追及することを目的とする会社にとっては、必要な防衛手段といえよう。しかし、競業禁止条項を設けることは、労働者の職業選択の自由を奪うことにつながることから、競業禁止条項を無制限に認めることはできず、無制限に認める競業禁止条項は、公序良俗に反し、無効というべきである。結局、競業禁止条項が合理的な内容であれば、その範囲内でかかる条項の内容は有効と考えるのが相当であり、また、合理的内容であるか否かを判断するに当たっては、〔1〕競業禁止条項制定の目的、〔2〕労働者の従前の地位、〔3〕競業禁止の期間、地域、職種、〔4〕競業禁止に対する代償措置等を総合的に考慮し、労働者の職業選択の自由を不当に制約する結果となっているかどうか等に照らし判断するのが相当と考える。以下、上記のような判断基準に照らし、本件競業禁止条項が有効か否かについて判断することにする。〔中略〕
 カ 小括
 以上イないしオによれば、〔1〕競業禁止条項制定の目的は債権者の教材等の内容やノウハウを保持し、他の競業業者の手に渡らないようにすることにあり、正当な目的であると評価できること、〔2〕債務者は債権者入社前にはPMの教育業務及びコンサルティング業務に従事した経験がなく、また、当該業務のノウハウを持っておらず、退職後二年間債権者において身につけたPMの前記業務を行うことを制限することには合理的理由があり、債務者の職業選択の自由を不当に制限する結果になっているとまでは言い難いこと、〔3〕競業禁止期間は債権者退職後二年間であり、同業他社も同様の規定を設けており、期間が長期間で債務者に酷にすぎるとまでは言い難いこと、〔4〕営業・勧誘活動を行ってはならない対象となる顧客は、これまで債権者の研修を受けるなど既に取引関係が形成されている会社を指し、そうだとすると、対象範囲が余りに広すぎるとはいえないこと、〔5〕債務者が債権者から支給された報酬の一部には退職後の競業禁止に対する代償も含まれているといえることなどを総合的に考慮すると、本件競業禁止条項は、労働者の職業選択の自由を不当に制約する結果となっているとまではいうことはできず、有効であると解するのが相当である。